第130話 疑惑の正体
一方その頃、宿舎では…
「クロエちゃん、大人の言うことは聞かないとダメよ。まるで子供じゃない」
リディアが腰に手を当てて、クロエを制していた。
クロエは唇を尖らせる。彼女は調査に出たかったのだ。
未来の世界では、三つ子の姉たちが常に前線に立っていた。能力のない自分は守られる側だった。しかし――ここにいるクロエは十八歳の心を持ちながら、十二歳の姿をしている。幼い言葉づかいでごまかせるが、本当は「守られる側」でいるのが悔しかった。
「クロエ、いく!」
ガチャリとドアノブに手をかける。
「ちょっとクロエちゃん!」リディアが慌てて止めに入る。
クロエは振り向いてきりっとした顔で言った。
「大人は、自分の行動は自分で決めるわ。言うことを聞くリディアちゃんが子供じゃなくて?」
「がびーん!」
リディアの胸にズシンと響いた。
(そうだわ……私、うっかり“いい子”を演じてた。でも私はバレンの妻になる女!子どもじゃない!)
リディアは胸を張り直し、クロエを指差す。
「別にあなたを止めるつもりはないの。お・と・な・として、つきそってあげるの!」
クロエは心の中で小さくニヤリとした。思惑通りにリディアを巻き込んだのだ。
「やったぁ!外に出られるんだね!」チャイは大喜びで飛び跳ねている。
三人は意気揚々と宿舎の扉を開けた。
扉の向こうには、人影が立っていた。
「うわああああ!」三人が声をあげる。
そこにいたのは、案内役のセリーナだった。
笑顔を浮かべているが、その表情はどこか冷たい。
「あら?どこかにいくのかしら?大人の人たちは?」
「うんとね、出かけたよ!」クロエが素直に答える。
「そう……」セリーナの瞳が一瞬きらりと光ったが、すぐに笑みに戻った。
「お菓子を持ってきたの!」
差し出されたかごの中には、黄金色に輝く焼き立てのリンゴパイが並んでいた。
「わああ!わたしの大好きなリンゴパイ!」クロエは目を輝かせて飛びつく。
「ふんっ、子どもね……」リディアは呟いたが、気づけば自分もよだれを垂らしていた。
「……しょ、しょうがないわね」
結局は一緒にかぶりつく。チャイも嬉しそうに頬張った。
三人とセリーナは宿舎の中へ戻り、菓子に夢中になった。
だが――ふと気づくと、三人の前に大きな影が落ちていた。
「え……?」クロエが振り返る。
そこに立っていたのは、禍々しい翼を持つ悪魔の姿。顔立ちはどこかセリーナにも似ている。
「ふふっ……予定外だったわ。全員まとめて頂くつもりだったけど、まずは新鮮な子供たちからにしましょう」
セリーナの姿は黒い影に覆われ、悪魔の本性が露わになった。
「さあ、逃げられないわよ」
黒い影が三人を絡め取り、吸い込もうと迫る。
「クロエ!リディア!」チャイは咆哮し、ドラゴン形態へ変身。炎を吐こうとするが――
「甘い」
悪魔の一振りで、チャイは壁に叩きつけられた。
「ふふっ、ドラゴンの子供ね。吸収すれば滋養に良いらしいじゃない♪」
「ひひひひひ……!ひーーーーっ!わ、わたしおいしくないですよぉ!」リディアは顔を真っ赤にして叫ぶ。
セリーナはにこりと顔を寄せ、囁いた。
「安心して。私、好き嫌いしないから」
「いやあああああああ!」リディアの悲鳴が響く。
クロエはがくがく震えていた。
(パパ……ママ……どうか、力を……)
次の瞬間、彼女の両手が黄金に輝いた。右も、左も。
「……っ!」クロエはリディアとチャイを抱き寄せ、覆いかぶさる。黄金の手が二人を守るように輝きを放った。
「な、に……!?」
悪魔の影が三人を取り込もうとしたが――干渉できない。吸収が完全に拒絶されていた。
「こんなこと……初めてよ!」セリーナの目に動揺が走る。
数千年にわたり、人間もドラゴンも蹂躙してきた彼女にとって、これはあり得ない現象だった。
(……まずいわ。リーサルに知らせ、態勢を整えるべきか)
気配を探ると、宿舎に別の力が迫ってきているのを感じた。
「……もう戻ってきたの? 感がいいわね」
セリーナは笑みを作り直し、子供たちに告げた。
「今日はなんだか気分じゃないの。また今度にしましょう」
影が霧散し、彼女の姿は掻き消えた。
その直後、ドアが勢いよく開かれる。
「大丈夫か!?」
駆け込んできたヒカル、ナオ、シド、バレン。
床にへたり込むクロエとリディア、壁際に倒れているチャイの姿を見て、四人は顔色を変えた。
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