第129話 手がかり
翌朝、デザート王国の街に朝日が差し込み始めたころ、一行は宿舎のリビングに集まった。
砂漠の朝は涼しく、夜の冷気がまだ残っている。だが、すぐに灼熱の陽光が訪れるだろう。
「よし、いよいよだな」ヒカルが腰の剣を確かめながら口を開いた。
「俺とナオで市場と酒場を回って、行方不明者や黒衣の集団の情報を集める」
「はい、任せて。交渉はわたしに任せてね」ナオが笑顔で胸を張る。
シドが杖を突きながら続けた。
「わしとバレンは、魔法的な痕跡を探る。街の外れや地下水路には、悪魔の気配が残る可能性がある」
「了解した」バレンは短く答え、鋭い目で地図を確認する。
「シド殿、地下水路の北側が不自然に閉ざされていると聞いた。まずはそこを調べてみよう」
「ふむ、よい考えじゃ」シドは満足げに頷いた。
「じゃ、留守番組は任せたぞ」ヒカルがクロエたちに視線を向ける。
「まっかせて!」チャイが笑顔で手を振った。
「クロエとリディアが一緒なら、絶対楽しいよ!」
「わ、わたしは遊びじゃなくて護衛なんだからね!」リディアが赤い顔で反論する。
クロエはこっそりリディアに耳打ちした。
「……でもお菓子、食べながらだよね?」
「……し、仕方ないわね、ちょっとだけよ」リディアは小声で返し、チャイがくすっと笑う。
「ふふ、仲良しだねぇ」ナオが楽しそうに微笑んだ。
「それじゃあ、行ってくるから、留守番よろしくね」
こうして一行は二手に分かれ、それぞれの任務へと向かった。
市場の喧騒と酒場のざわめき、地下に潜む怪しい気配――新たな手掛かりが、彼らを待っていた。
--------地下王国・外縁部--------
シドとバレンは、地下王国の外れへ足を運んでいた。ひんやりとした石壁の通路を進むうち、かすかな魔力の揺らぎが漂ってくる。
「……感じるか、バレン」
「微かだが、悪魔に近い匂いだな」
二人は通路の奥に、不自然に壁が盛り上がった場所を見つけた。石壁の継ぎ目に触れると、シドの指先に魔力の反応が走る。
「隠し扉か」
「どうやらそうらしい。……開けてみるか?」
慎重に押し開けると、薄暗い空間の中で黒衣の集団が動いていた。低い声で儀式のような呪文を唱えている。
「……黒衣の連中だ」バレンが剣に手をかける。
だが、シドが首を振った。
「今は時期尚早じゃ。無闇に戦えば情報も得られん。いったん引くぞ」
二人は静かに扉を閉じ、足音を消してその場を後にした。
--------市場と酒場--------
一方その頃、ヒカルとナオは賑やかな市場を回っていた。だが決定的な情報は得られず、足を伸ばした先の酒場で異様な人物に出会う。
白髪の老人が、朝から泥酔してカウンターに突っ伏していたのだ。
「おじいさん、大丈夫ですか?」ナオが声をかける。
「……あんたら、旅人か。聞いてくれ……娘も、孫も……行方がわからんのだ」
老人は涙交じりに語った。王に訴えもしたが、相手にされなかったという。
「変じゃないか? 王は俺たちには調査を依頼したのに」ヒカルが眉をひそめる。
さらに老人は言った。
「見たんだ……王宮を出入りしている女が、黒衣の連中と話しているのを。名は……セリーナって言ったか……」
その名に、二人は顔を見合わせる。
「セリーナ……あの案内役の?」ナオの声が震える。
「王はそれを聞いても動かなかったのか……?」ヒカルの瞳に不審の色が宿る。
--------王宮前--------
ヒカルとナオは急いで王宮へ向かう。ちょうどその時、シドとバレンも駆けつけてきた。
「おお、二人とも。こちらも妙なものを見つけたぞ」
「俺たちもだ。セリーナの名が出てきた」
情報を突き合わせるうち、疑惑の中心が浮かび上がってくる。
だが王は留守で、セリーナの姿もなかった。
「……魔力の匂いが残っている」シドが目を細める。
「方向は……宿舎だ」バレンが低く告げた。
「宿舎……!?」ナオが顔色を変える。
「チャイとリディア、クロエが……」ヒカルの声に焦りが混じる。
四人は互いに頷き合うと、一斉に駆け出した。
嫌な予感が胸を締め付ける。
セリーナ――彼女は何者なのか。そして、子供たちは無事なのか。
地下王国の通路を抜け、宿舎へと急ぐ彼らの足音だけが、やけに大きく響いていた。
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