第127話 地下王国デザート
砂漠を歩き続けて数時間、やがて見渡す限りの砂丘の真ん中に、不思議な岩壁が現れた。そこには人工的に削られた大きな裂け目があり、風穴のように地下へと続く道が口を開けていた。
「ここが……入口?」ナオが目を丸くする。
「そうですわ。砂漠の民は、灼熱の地表では生きられません。私たちの国“デザート王国”は、地下深くに築かれているのです」セリーナは涼やかな笑みを浮かべた。
「地下に……国があるなんて」クロエが瞳を輝かせる。
「ふむ、理にかなっておる。地下なら暑さも凌げ、水脈にも近いじゃろう」シドが感心したようにひげをなでた。
一行が裂け目を下ると、ひんやりとした空気が頬を撫でた。さっきまでの灼熱が嘘のように、心地よい涼しさが広がっていく。
やがて視界が開けた。そこには巨大な地下都市が広がっていた。
岩壁をくり抜いた円形の大空洞。その壁面に無数の住居や店が掘り込まれ、まるで蜂の巣のように灯りが瞬いている。中央には大きな泉が湧き、清らかな水が街を潤していた。人々は薄布の衣装を身にまとい、踊りや歌とともに市場をにぎわせている。
「わあ……!きれい……!」クロエは両手を胸にあてて見とれた。
「地下とは思えぬ活気だな」バレンは感心してうなずいた。
「うわー!食べ物の匂いがするー!」チャイは鼻をひくひくさせ、早速市場へ駆け出しそうになる。
「こら、まだ勝手に動くな」ヒカルが肩をつかんで止める。
「……なんだか、すごく不思議な場所」リディアも少し驚いたように辺りを見渡した。
セリーナは誇らしげに微笑んだ。
「ようこそ、デザート王国へ。私たちの王は皆さまを歓迎するはずです。しばし休息をなさってください」
「ありがとう、セリーナ」ナオが深々と頭を下げると、女性は優しく手を振った。
そのときクロエが小声でヒカルに耳打ちした。
「ねえ……この人、すごく優しいよね。なんだか、ちょっとだけ……お母さんに似てる気がする」
「……そうか」ヒカルは彼女の横顔を見て、少し考え込んだ。
一行は、こうして砂漠の過酷な旅を終え、地下王国で束の間の安らぎを得るのだった。
地下に広がる市場は、光る鉱石のランプに照らされ、昼のように明るかった。香辛料の匂い、焼きたての平たいパン、果実の甘い香りがあたりに満ちている。行商人の掛け声と、楽師の笛の音が混じり合い、異国情緒を醸し出していた。
「すごい……!」クロエは目を輝かせながら、屋台に並ぶ色とりどりの果物を見つめた。
「ねえシド、これ食べてもいい?」
「うむ、せっかくだから味わってみるとよい」シドは苦笑しつつ、店主に銀貨を渡す。
クロエは嬉しそうに黄色い果実をかじり、「あまいっ!」と顔をほころばせた。
クロエはチャイにも果物を分け与え、一緒にジューシーなフルーツを楽しんだ。
――その横で、ナオが山盛りの串焼きを抱えていた。
「にへへ……お肉いっぱい!地下なのに、こんなに食べ物あるんだね!」
「おい、どこからそんな金を……」ヒカルがあきれ顔で問い詰める。
「えっとね、お店の人がお姉ちゃん食いっぷりがいいね、サービスしとくって!」ナオは指さすと、そこには市場で商いをしていた店主が手を振っていた。
「……やれやれ、愛嬌でなんでも手に入れるな」ヒカルは肩をすくめた。
リディアはといえば、香辛料の屋台で「この赤い粉はどういう魔力特性が?」と詰め寄り、店主を困惑させていた。
「お前……市場で研究するな」シドが止めると、彼女はふんと顔をそむけた。
「研究じゃないわ、ただの……好奇心よ」
そんなリディアをクロエが見つけて、「あ、クマちゃん財布!」と無邪気に指を差す。
「ちょ、やめなさいってば!」リディアの顔は真っ赤になり、慌ててクロエを追いかけ回す羽目になった。
市場の賑わいに溶け込む一行。
久しぶりに緊張から解放され、それぞれがほんのひとときを楽しんでいた。
だが――街の片隅で、不気味な人影が彼らを見つめていた。
その視線に気づく者は、まだいない。
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