第126話 行商人セリーナ
シーブルー王国を抜けると、緑の草原がどこまでも広がっていた。爽やかな風に揺れる草花の景色は美しいが、やがて地平線に近づくにつれ、草が少しずつ枯れはじめ、土は乾き、砂の色が濃くなっていく。
「はあ……はあ……もう、暑い……」
ナオが汗をぬぐいながら、皆に小さな筒を配った。
「ほら、水分とらなきゃ。これはね、シーブルーで黒姫の咲さんにもらった“魔法の竹筒”よ。普通の水筒くらいに見えるけど、実は一人あたり二十日分の水が入ってるの」
「え、二十日分!? すごいじゃんそれ!」チャイが竹筒を振りながら目を輝かせる。
「ふむ、咲のやつ、そんな便利なものを用意しておったか。助かるのう」シドも嬉しそうに口髭をなでた。
「ありがたいな。砂漠で水がないのは命取りだからな」バレンは冷静に口にしつつ、竹筒の水を一口飲んだ。
「お水おいしい~♪」クロエは嬉しそうに笑うが、次の瞬間、ぐったりと肩を落とした。
「でも……やっぱり暑さでバテる~……」
「わかるわ……」ナオもへろへろでうなずく。
「シド、なんか涼しくなる魔法とか、ないのか?」ヒカルが期待を込めて尋ねる。
しかしシドは苦い顔をした。
「残念ながら、わしはいつでも自由に魔法を使えるわけではないのじゃ。精神生命体となったせいで、制限があってな……ここで力を無駄に消費すれば、悪魔と対峙したとき困る」
「……俺のレンタルも同じだ。体力消耗が激しい。いざってときのために温存しておく」ヒカルも真剣な声で言った。
「え~!じゃあ、わたしたち、このまま干からびちゃうの!?」クロエが泣きそうになる。
「干からびる前にラクダになってでも歩け」リディアがつんとした顔で言い放つ。
「ラクダってなによ!あんたがいちばん先に音をあげるに決まってるじゃない!」クロエが即座に反撃。
「な、なんですって!」リディアがむきになると、バレンがため息をついた。
「お前たち、無駄口を叩くより足を進めろ」
「は、はい……」リディアが慌てて黙る。
クロエは小声で「ふふん、勝った」とつぶやき、ナオが苦笑いした。
そんなときだった。
「みなさん、大丈夫ですか!?」
砂の向こうから声が響いた。
目をこらすと、踊り子のような薄布をまとい、日差しを遮るベールを頭にかぶった美しい女性が駆け寄ってきた。陽炎に揺れる姿は、まるで蜃気楼の女神のように見えた。
「わたしはデザート王国の行商をしております、セリーナと申します。もうすぐ王国の入口ですよ。王国は地下に建設されていますから、この先は少し涼しくなります。ご案内いたしますわ」
「ほんと!? 助かる!」ナオがぱっと顔を明るくした。
「わ、わたしクロエ!」クロエは元気よく自己紹介した。
「クロエちゃん、可愛いお名前ね」セリーナが優しく微笑む。
「お姉ちゃんの名前は?」クロエが首をかしげると、彼女は答えた。
「セリーナよ」
「セリーナ……素敵な名前!」クロエはうっとりと声をあげた。
リディアがすかさずクロエの耳元でささやく。
「なによ、その馴れ馴れしさ……」
「なに? リディア、やきもち?」クロエがにやりと笑い返す。
「や、やきもちなんかじゃないわよっ!」リディアが真っ赤になって否定するのを見て、シドがひげをなでながら笑った。
「まあまあ。案内人が現れたのは幸運じゃ。セリーナ殿、よろしく頼むぞ」
こうして、一行は砂漠の過酷な陽射しの中、セリーナに導かれながらデザート王国への道を進み始めた。
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