第120話 シーブルー王国
青い海にぐるりと囲まれたシーブルー王国は、潮風と潮騒の音に包まれた、穏やかな島国だった。白い石畳の道の両側には、カラフルな木造の建物が並び、窓辺には花が飾られている。波打ち際から吹く風は少し塩っぽく、それでいて心地よい涼しさを与えていた。
港に近い大通りでは、魚を焼く香ばしい匂いが漂っていた。串に刺した焼き魚、つややかな梨や大粒のブドウなど、島ならではの豊富な食材が露店に並んでいる。行き交う人々は明るい笑顔を見せ、南国らしい賑わいを醸し出していた。
「この辺で集合しようと言っておったのじゃが……」
シドはキョロキョロと周囲を見渡す。どうやら、仲間と約束をしていたようだ。
その横で、ナオはもう別のものに気を取られていた。
「……じゅるり」
焼き魚の串に、目を奪われたのだ。さらに果物まで並んでいるのを見て、思わず露店に吸い寄せられていく。
そんな母を見ながら、クロエは心の中で思った。
(ママ……未来でも食いしん坊だったけど……こんなに? かわいい……! 未来のママはもっと落ち着いてたのに、ふふっ)
にこにこと微笑んでいるクロエに気づいたナオは、振り返って言った。
「クロエちゃんも食べよっ!」
「ほら! まずはシドの仲間探しだろ!」
ヒカルがすかさず突っ込む。
「まあまあ、落ち着いて。」
チャイがなだめたそのとき――。
「……シド、遅いぞ」
静かで冷静な声が背後から響いた。
振り向けば、そこには黒髪を肩まで流したクール系の青年が立っていた。落ち着いた雰囲気、整った顔立ち。年齢はヒカルより少し上だろうか、二十代前半に見える。
(うわぁ……イケメン……!)とクロエが思わず見惚れていると、シドがすぐに反応した。
「バレン、すまんかった。途中の街で、ちょっと拾い物しての……」
そう言って、シドはちらりとクロエを見た。
「……不思議な空気感のある子だな。まあいい」
バレンは目を細めると、すぐに話を戻す。
「いつから出発する?」
「明日にでも、と思っておる」
「弟子を連れていこうと思う」
「悪魔討伐じゃぞ? 大丈夫なのか?」
「訓練も、覚悟もできておる」
短いやり取りのあと、バレンは軽く会釈し、二人は明日合流する約束を交わした。
その夜、一行はシーブルー王国の宿屋に泊まることになった。
◆宿屋の夕食
夕飯を囲むと、ナオが切り出す。
「シド、明日出発するなら、午後でいい? クロエちゃんのお兄ちゃん探さないと」
クロエはハッとした。忘れていた設定――「お兄ちゃんが王国にいる」という話だ。
「あ、お、おにいちゃん……」
口ごもるクロエを、ナオが優しく励ます。
「そうよね、早く会いたいよね」
(やばい……どうしよう……!)
夜。部屋割りは、ヒカルとシド、ナオとチャイ。そしてクロエはチャイと同じベッドで寝る予定だった。
シドは「ちょっと飲んでくる」と言って、バーへ出かけて行った。
(今しかない……!)クロエは心を決める。
「あ、あしたお兄ちゃんにプレゼント渡したいから、ちょっと出て来るね!」
「危ないわよ、夜は。わたしも一緒に――」
「だ、大丈夫! 王都は安全だし、この辺詳しいから!」
慌ててそう言うと、クロエはダッシュで宿を飛び出し、少し前に出て行ったシドを追いかけた。
◆夜のシーブルー、路地裏にて
ふう……なんとか見つけた。
シドは露店の簡易酒場で、すでに何杯かひっかけていた。精神生命体であるはずなのに、頬がほんのり赤い。
「シド! こっちきて!」
クロエが声をかけると、シドは驚いた顔をした。
「おや、珍客じゃの……おぬし、何をしておるのじゃ?」
「いいから、こっち!」
クロエは半ば強引にシドを路地裏へ連れて行った。酔っているせいか、シドは素直についてきた。
クロエは深呼吸をした。
(ここで……未来から来たってことを話す。シドを味方につけて、口裏を合わせてもらえば……!)
そう決意して口を開こうとした、その瞬間――。
「……こんな時間に、なにをしている?」
路地裏の入口に、冷たい声が響いた。
月明かりに照らされ、クロエとシドを見つめる「招かざる客」の影が立っていた。
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