第12話 死神の祠
翌朝、宿の広間でヒカルは仲間を前に腰を下ろした。机には羊皮紙を広げ、まるで講義を始める教師のような真剣な表情をしている。
「これからの目標を話す。……“ダンジョンキングオーダー”だ」
「ダンジョンキングオーダー?」
ナオが首を傾げる。
「そう。王国が定期的に、全ギルドを対象に開催する試練だ。王国の顧問魔導士が、挑戦者のギルド数分だけ“仮想ダンジョン”を創り出す。挑戦できるのは一週間。その間なら何度でも挑戦可能だ」
「へぇ、そんなのが……」
ミナが目を丸くする。
「ダンジョンの中で全滅するか、制限時間を超えると入口に戻される。記録は“タイム”で競われ、王都の掲示板にリアルタイムで順位が出る。上位百位までが公表され、それがそのままギルドランクになる」
ヒカルは淡々と続ける。
「上位三位までがSランク、十位以内がA、二十位以内がB、五十位以内がC、百位以内がD。それ以下はEだ。俺たちみたいな新米ギルドも、挑戦していなければE扱いになる」
「へぇ……。でも、なんでそんなに詳しいの?」
レナが怪訝そうに目を細めた。
「……冒険者ギルドにいた頃から、情報は集めてた。俺はそういうの、得意なんだ」
ヒカルは軽く肩をすくめる。前世の知識は、もちろん口に出せない。
「なるほどなー。で、俺たちはどこを狙う?」
ソウタが腕を組む。
「まずはDランク以上だ。上位百位に入れば、依頼の質も大きく変わる。王宮からの依頼を受けている三大ギルドに追いつくのはまだ先だが……最低でも足場を作る」
「ふむ……つまり一か月後の公開日までに、俺たちは強くならないといけないわけだな」
ユウキが顎に手を添える。
「あぁ。まず全員を上級クラスに引き上げる。それがスタート地点だ。数年かけて到達する場所を、一か月で駆け上がる」
ヒカルの言葉に、一同の背筋が伸びる。
「そんなこと……可能なの?」
ミナが不安げに呟く。
「可能にする。方法は一つ――上級ダンジョンの周回だ。上級職のレナと、チアマンのソウタ。そこに中級職の誰かを混ぜると、経験値の分配が大きくなる。討伐は上級がやる。中級は参加するだけで経験値が入る。……効率よく繰り返せば、一か月で全員を上級にできる」
「へぇ~、なんかズルい感じ!」
ナオが笑うが、その目は期待に輝いている。
「俺たちが挑むのは――“死神の祠”だ」
ヒカルが告げると、仲間たちの表情が引き締まった。
◆
石造りの祠は、薄暗い森の奥にそびえ立っていた。
入口を前にして、ヒカルは短く指示を出す。
「最初は三人で行く。ソウタ、レナ、ナオ。この編成で周回する」
「おっけー! 任せろ!」
ソウタが胸を叩く。
「え、私?」
ナオが驚いた顔をする。
「経験値を一番効率よく稼げるのは君だからだ。レナの回復がある限り死ぬことはない。討伐はソウタが支える」
「……わかった。やってみる!」
三人が祠に入ると、冷たい空気が流れ込み、闇が広がった。
奥に進むと、やがて巨体の死神が姿を現す。漆黒のローブに包まれた骸骨の巨人が、大鎌を振りかざした。
「ギ……ィィィ……」
「でっか!」
ナオが尻込みする。
「怯むな! ソウタ、いけ!」
ヒカルの声に、ソウタが一歩前に出た。
「任せろ! “応援”ッ!」
瞬間、ソウタを中心に光の波が広がる。半径三十メートル――その中に立つ者は、あらゆるデバフ効果から解放された。
「な、動きが軽い……!?」
ナオが驚きの声を上げる。
「死神の“闇の風”……移動速度を下げる技だ。だが、俺のフィールドの中じゃ無効だ!」
ソウタが叫び、拳を掲げる。
「そして――“全力応援”!」
ナオの身体を黄金の光が包み込む。
次の瞬間、彼女の剣撃は炎のように爆発し、死神の胸を貫いた。
「な、何これ!? めちゃくちゃ力が湧いてくる!」
「お前の火力、今だけ五倍だ!」
ソウタの声に押され、ナオは連撃を叩き込む。
死神は反撃の大鎌を振るうが、レナの聖なる光が仲間を守り抜いた。
激しい攻防の末、死神の体が音を立てて崩れ落ちる。
「……勝った……!」
ナオが息を切らしながら呟いた瞬間、全員の身体が光に包まれ、祠の入口へと転送された。
「すごい……! レベルが一気に上がった!」
ナオが手を見つめ、震える。
「ジョブレベル、上級職に昇格だな」
ヒカルが頷く。
「火力……十から百に跳ね上がってる……!」
ナオが驚きの声を上げる。
「よくやったな、ナオ」
ソウタが親指を立てる。
「ふ、ふん! 次もやってやるわよ!」
ナオが照れ隠しのように腕を組む。
こうしてナオが最初の上級クラスへ到達し、続いてヒカル、ユウキも同じ道を駆け上がっていった。
一か月後の決戦に向けて――次に必要なのは、さらなる“火力”。
そのための「高級火力玉」を求め、彼らは次なる戦いへと歩み出すのだった。
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