第116話 タイムリープ失敗!?
魔導円が悲鳴をあげるように軋んだ。
膨れあがる光の奔流が暴発し、時間の扉は不安定に揺れた。
「――駄目だっ、流れが崩れていく!」
シドの声が遠く聞こえた瞬間、ユウキは歯を食いしばり、クロエの手を強く握った。
「クロエだけでも……!」
時間の奔流に呑まれながらも、彼の眼差しは揺るがなかった。クロエを守ることだけを選び取る。
だが次の瞬間、クロエの視界の中でユウキの姿が淡く溶けはじめた。
「ユ、ユウキたん!? いやだよっ、一緒に行くって……!」
必死に掴んだ手は、光の粒子となって指の間から零れ落ちていく。
最後に、ユウキの微笑みだけが残った。
そして、声も消えて、クロエの視界は白に包まれた。
◆
気がつけば、石畳の道に立っていた。
乾いた風が頬を撫で、遠くから商人の呼び声が聞こえる。見知らぬ街並み。塔の姿も、ギルドもない。
「ここ……どこ……?」
胸がざわつく。ユウキの安否が真っ先に浮かぶ。
「ユウキたん……無事だよね……?」
思い出すのは作戦会議のこと。
シドとユウキ、そして仲間たちと、何度も何度も話し合って決めたはずだった。入念に準備し、失敗などあり得ないと信じていた。だが――現実は裏切る。
ワールドで伝説と称された二人。シドとユウキ。
そのどちらも関わった術式が、破綻した。想像すらしていなかった事態。
「……私が……軽率だったんだ」
姉たちの必死の制止を思い出し、涙が溢れる。
けれど、クロエはすぐに首を振った。
――自分で決めたこと。
だから、後悔ではなく、前へ。
「行かなきゃ……」
震える膝に力を込め、一歩を踏み出そうとしたとき。
「大丈夫?」
不意に背後から声がした。
クロエは弾かれたように振り返り、その瞬間、息を呑んだ。
そこにいたのは――優しい眼差しを持つ少女。
けれど、その顔立ちに見覚えがあった。
「……ま、まさか……」
少女は自分と同じ年頃。十八歳ほどの姿。
だが確かに、その面影は忘れようがない。
――母、ナオ。六年前、悪魔との戦いで自分を庇い、消滅したはずの人。
現実感が遠のく。胸の鼓動が暴れ出す。
さらに、その隣には――。
「どうしたんだ?」
低く落ち着いた声。振り向いたのは、若き日の父ヒカルだった。
クロエは言葉を失った。
時空の果てで繋がったのは、決して会うはずのない、両親の若き日の姿だった。
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