第114話 未来を切り開く者
「過去に送る……って、正気なの? シド」
ハクアが真っ先に声を荒げた。冷静沈着な彼女にしては珍しい怒りの色がにじんでいる。
「クロエを、そんな危険な時間の渦に放り込むなんて……ありえないわ」
「そうよ!」
キンカもすぐに続く。
「もし途中で帰れなくなったらどうするの? それに過去で何かを変えちゃったら、今の私たちが消えちゃうかもしれないんだよ!」
二人の言葉はもっともだった。けれど、シドは譲らない。
「もちろん、危険は承知の上じゃ。だがのう……クロエの力を完全に覚醒させられるのは、両親の存在しかない。ワシはそう確信しておる」
「確信って……」
キンカが唇を噛みしめる。
そこで、ソウタがゆっくりと口を開いた。
「俺は、賛成だ」
「ソウタ!?」
三姉妹が同時に振り返る。
「考えてみろ。もしリーサルが完全復活したら、ルミナスもランドも、人間の国は一つ残らず滅ぶ。俺たちができることは限られてるが、クロエの力だけは例外なんだ。なら……試すしかないだろ」
王としての冷徹な言葉だった。
「でも……」
ハクアが食い下がろうとする。だが、今度はミナが割って入った。
「わたしも……シドの考えに賛成かな」
ミナはクロエの肩に手を置く。
「たしかに危ない。でも、クロエが自分で『やりたい』って言ってるんでしょ?」
「……うん!」
クロエは大きくうなずいた。
「無邪気に頷かないでよ!」
キンカが叫ぶ。妹を守りたい気持ちが爆発していた。
「クロエ、チャレンジしたい。だって――お父さんとお母さんに会えるんだよ? それに、クロエがんばったら、みんなを守れるんだよ?」
クロエの言葉は、純粋すぎて残酷だった。
「でも……!」
キンカの瞳が揺れる。ハクアも拳を握りしめて、言葉を失っていた。
そんな姉二人を見て、チャイが静かに口を開いた。
「クロエは、まだ子ども。でも、選んでいいのは本人よ。……ドラゴンの時代から、そうだったわ。未来を変えられるのは、いつだって“選んだ者”だけ」
「チャイ……」
場の空気が重く沈む中、ユウキが意を決して声を上げた。
「クロエを過去に送ること……僕も賛成だ。危険な術だけど、僕が付き添う。必ず守るって約束する」
その言葉に、クロエの顔がぱっと明るくなる。
「ユウキたんと一緒なら、ぜったい大丈夫!」
「クロエ!」
ついにキンカの目から涙がこぼれた。
「……ほんとにバカなんだから。そんな笑顔で言われたら、止められないじゃない……」
ハクアは黙ったまま、視線を落としていた。だが、やがて小さく息をつき、静かに告げる。
「……分かったわ。もし行くなら、必ず帰ってきなさい。それが条件よ」
「うん! 約束する!」
こうして、クロエを過去へ送るという前代未聞の計画が、現実のものとして動き出した――。
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