第1話 追放された落ちこぼれ、でも俺には“最強だった頃”の記憶がある。
「足引っ張るなよ!」
「火力出せないやつなんて、いらない。」
「このままだとダンジョンクリアは無理ね…」
剣士のケン、魔法使いのミーシャ、僧侶のレナが、冷たい目で俺を見ていた。
どうやら、俺はこのパーティから外されそうだ。
仕方ない。装備は貧弱、実力もない。
ダンジョンに入って最初の雑魚相手にすら手こずるような有様だ。
ましてや、ダンジョンボスに至っては――まるでダメ。HPを1ミリも削れなかった。
それでも俺なりに頑張ってきたつもりだった。
このパーティを組んで、もう1ヶ月。何度も挑んで、何度も失敗した。
ダンジョンは時間制限付きで、ボスを倒せないと、強制的に入口に戻されてしまう。
そして今、また120回目の挑戦に失敗し、俺たちは呆然とダンジョン前に立っている。
最初は、もっと和やかだったんだ。
パーティリーダーのケンが声をかけて、ミーシャ、レナ、そして俺――ヒカルが集まった。
「みんなで力を合わせて、ダンジョンを攻略しよう!」
そんな前向きな言葉を交わした日々が、今となっては遠い昔のように感じる。
俺は“初級クラス”の剣士。強くなる方法もよく分からず、ただ必死に食らいついていただけ。
一方でケンとミーシャは、おそらく“中級クラス”。動きも上手いし、経験値も違う。
そして、僧侶のレナは“上級クラス”。
複数のパーティを掛け持ちして、他の火力職をサポートしている頼れる存在だった。
「じゃあ、今日は一旦解散ね。」
レナが別のパーティへ向かうらしい。
「ヒカル、あんまり落ち込まないでね。」
優しい声でそう言ってくれるレナは、正直、頭が上がらない存在だ。
「……ありがとう。」
でも、ケンとミーシャの前で明るくは振る舞えなかった。居心地の悪い空気のまま、俺たちはその日、解散した。
***
気分を紛らわせたくて、いつもの酒場へ向かった。
ところが――そこには、レナ、ケン、ミーシャの三人がいた。
……あれ? レナ、別のパーティに行ったんじゃなかったのか?
これは、まずいところに来てしまったかもしれない。
慌てて出ようとしたけど、入り口は団体客でごった返していて通れない。
ギルドの新人歓迎会らしく、沢山の人がいて、出るに出られない。
ひとまず、隠れるように空いた席に座る。
そんなとき、ケンが立ち上がった。酒を取りにカウンターへ向かったようだ。
その隙に、レナ達の会話が聞こえてきた。
「このパーティ、解散したほうがいいわよ。ヒカルじゃ無理。」
……レナの声だった。
普段は優しい彼女の、意地悪な一面が聞こえる。
「でも、ヒカルも一生懸命やってますし、もう少しだけ…」
ミーシャ、俺のことフォローしてくれて、すまん...
レナがミーシャのフォローを聞き入れる前に、激高する。
「私の負担がすごいのよ! あの子、すぐ瀕死になるから何度も回復しなきゃいけない!」
「回復魔法の使い過ぎで、すぐにMPが枯渇するし!」
「MPポーションも使い過ぎで私の財布は空っぽよ! ヒカルのせいで破産するわ!!」
「今日だって、本当は予定なかったけど、もうMPポーション使いたくなくて嘘ついたんだから!」
「もうこれ以上、クリアできない挑戦につきあいたくないのよ!」
レナの毒舌が止まらない。
「言っとくけど、あんたたちも火力足りてないからね。」
「火力値、どのくらいあるの?」
火力値――それは、この世界での“攻撃力”の指標。
武器に埋め込まれた「火力玉」と自身のステータスによって決まるが、他人には見えない。
俺の火力値は、10(自分)+10(武器)で合計20。
……悲しいくらいに低い。
「100です…」
ケンが気まずそうに答えた。
「80です…………」
ミーシャも俯きながら答える。
二人とも、俺の4倍、5倍の火力がある。
「最低でも、火力100がないとダンジョン攻略は厳しいのよ。」
「あなたたちもギリギリ。ヒカルをフォローする余裕なんてないでしょ?」
「たぶん、あの子、火力10くらいじゃない?」
(いや、20だよ……)
けれど、反論できない。弱いことには変わりないから。
悔しさに手が震えたとき――
「ガチャーン!」
うっかり、皿を落としてしまった。
その音で、3人が俺に気づく。
レナは、一瞬気まずそうな表情をしたが、すぐに言い放った。
「な……何こそこそ聞いてんのよ!!」
酒場中が静まり返る。
視線が一斉に俺へと集まった。
「このMPポーション泥棒が!!!!」
「もういい、私、このパーティ抜けるから!」
「ダンジョン攻略の報酬が目当てだったけど、こんなんじゃ無理!」
「あなたたちはあなたたちで頑張んなさい。無理だろうけど!」
そう言って、レナは出て行った。
「……すまん、ヒカル。聞いてたなら分かると思うけど、やっぱり、お前じゃ無理だ。」
「俺たちは他のメンバーを探す。悪いけど、もう一緒にはやれない。」
ケンとミーシャもその場を去っていった。
こんな展開、初めてじゃない。
何度も、同じようなことを繰り返してきた。
強くなりたくても、ダンジョンをクリアできないから、強化素材も火力玉も手に入らない。
弱いから、クリアできない。
クリアできないから、強くなれない。
この負のループ。
金もないから、店で強い火力玉を買うこともできない。
……完全に詰んでいる。
「ええい! 酒だ酒だっ!!」
俺は酔い潰れ、酒場の路地裏で眠りこけてしまった。
そのとき――
夢の中で、俺は“前世の記憶”を思い出した。
この世界、『ダンジョンキングオーダーオンライン』。
そう、これは――俺がかつてハマっていたMMOの世界だ!
1000万人が遊んだ国産の超人気ゲーム。
そして、俺がその世界で“覇者”となった伝説のプレイヤーだった。
――俺は、この世界のことを知り尽くしている。
今から、もう一度這い上がってやる。
本当の“最強”を、取り戻すために――!
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