災厄がドアをノックしてやってくる。
よろしくお願いします
第一王子が襲われ、急遽出動した近衛衛士が襲撃犯を辛くも撃退した。と言うのが巷に流布されたお話。
実際には近衛は間に合わなかったと言うか来なかったと言うか、実は主犯だったりする。
そして、ハロルド公爵が出奔して行方を眩ましたと言う噂が巷に流れ出した。
そう、あの日の朝は抜けるような青い空が広がっていたんだ。涼風が梵心地よい朝だったんだ。
厨房にいた私とハイランドの元に屋敷の玄関が鳴らされる音が聞こえてきた。
「おや、お客様のようですね。本日は来訪される方はないはずなのですが」
「では、私が見てきましょうか?」
「いけません。姫はお休みください。まだ安静にしていなければならないはずです」
私を気遣ってくれるのは良いのだけれど、さっきまで外を歩いたおかげで、体の調子が元に戻ってきているんだ。
「他のものを差し向けますから」
「いいから,いいから」
「姫」
ハイランドに呼び止められるのを無視して玄関に向かう。
でも、何でだろう。首筋の後ろがチリチリとしてくるんだ。私の勘、女の勘、戦士の勘が行くんじゃない。近づくな,と私に知らせてきている。
ルイ殿下が逃げ込んできた時も,首の後ろがチリチリしてきたなあ、あの時は日も落ちて夜だったんだ。日も登って辺りも明るいところで何が起こるって言うのかね。
ド、ド、ドッ、ドン
ドアが叩かれる音が私に早くドアを開けろと催促してきた。
「はいはい,開けますよ」
こんな、朝早くから先触れもなしに来るなんて。誰からなんだろう。城からの使いか? はたまた、ウチのハウスキーパーのマーサか。まさか父上。違うな。彼奴はこんな気遣いなんてしない。どっかで朝っぱらから酒を飲んでるはずなんた。
でもよ、もしかして,もしかして………。
多くの疑問と微かな期待を胸に私は玄関の鍵を解除。ドアノブを捻った。
ガチャ
あれ、ドアが開いたものの、目の前に誰もいなかった。
悪戯か? 怪しんでドアの隙間から頭を出して、右を見て、左を見て、上を見る。だれもいない。
しかし、誰かがいる気配がある。微かな息遣いが聞こえてくるんだ。
まさかと思いつつ、視線を下に向けると陽の光に輝くブロンドの髪の毛が見えた。
やばい!
まさかの方だ。思わず、私は玄関を閉めてしまう。更に扉が開かないように鍵を決めてしまった。
拙い、拙い拙い。まさか、まさか、まさか。焦りと期待の思いが頭の中でせめぎ合う。
ド、ド、ドッ、ドン
扉の向こうから,再び,開門せよ。催促してきた。
「ゾフィー殿! 開けてください。ルイです。開けてください。何で閉めてしまわれるのですか?」
声変わり前の高めの声が私を呼ぶ。ドアを開けてと懇願してきたんだ。耳から入り、私の心を鷲掴みした声だ。目に映り、魂を揺さぶった髪の毛の色。
ルイ殿下
ハロルド公爵との一悶着がおわり、陛下の元へ戻ったのではないのですか。城に守られて安全になったのではないのですか。もう、会うことはないと思っておりましたのに。
外からノブが回されてドアが開かないように強くに握った。視線はドアノブから離れない。
何で,何で、何で。殿下が突然、ここにに来るんですか? 殿下、殿下、殿下。
いらぬ考えが私の頭の中でぐるぐる回ってしまう。
ド、ド、ドッ、ドン
「ゾフィー殿、ゾフィー殿。開けてください。貴女にしか頼めないことがあるんです。お願いですから開けてください」
殿下が必死に私に訴えてくる。一体何があるって言うの。
私は手で握ったドアノブをじっと見て考えた。
「まずは,話を聞いてからだね」
1人ぐちて、力を抜いてドアノブを回し玄関を開けていく。
「ゾフィー殿!」
開いた玄関のドアの隙間をこじ開けて,殿下が入り込んでくる。
「ああ、やっと,貴女に会えた」
縋るような目で私を仰ぎ見てくるんだ。殿下の円な瞳が真っ直ぐに私に突き刺さる。
それまで和いでいた私の胸の鼓動が跳ねるように高鳴っていく。
「でっ、殿下。どうされたのですか? こんな,朝早くから」
殿下越しに外を見ても、お付きの人たちが見えない。門の外に白い馬がいるだけ、
「共もいないようですし,不用心ではありませんか?」
騒動が収まったとはいえ、ハロルド公爵は捕まっていないんだ。どこに潜伏しているかわからないんだよ。
1人で陛下の元から出てくるんなんて自殺行為だよ。私が助けたことだって,無駄になってしまうじゃないか。
「兎に角、中へ、お茶でも、お出ししますので」
仕方なく、話を聞こうと殿下を屋敷の中へ誘うとしたんだけど、
「急いでいます。お茶など飲んでいる暇なんがありません」
一体全体、何が起きたと言うの、
「殿下、一体………」
「ピザンナ様がいなくなった」
えっ、いなくなった! ピザンナ様って第一側姫じゃないの。そしてハロルド公爵の娘で、
「部屋で。争った後があるんだ。攫われてしまったに違いないよ」
大事じゃないか。
「アーティも一緒にいなくなっているんだ」
アーティ様はピザンナ様のお子様でルイ殿下の弟。つまり、次の継承権も持っている。ちと拙いんじゃないの。
「だから,助けに行かないといけないんだ。父上に言っても捨ておけ、忘れよとしか言われないし。放っておくなんて私にはできないよ。アーティは私の可愛い弟なんだ」
殿下は優しいな。アーティ様の祖父に命まで狙われたと言うのに。
でもね、殿下。ハロルド公爵は行方しれず、未だ貴方の命だって,狙われて危ないのですよ。
「ですか、殿下自ら動かなくとも、近衛辺りが探しているのではないのですか? あの晩、殿下を守っていたシュミット卿とか」
「卿は怪我が酷くて動けないんだ。他に頼めるような人はいない。貴女しかいないんだ」
殿下とは、もう関わることはないと思っていた。うっすらと王家の問題に巻き込まれたくないとも。
でも、彼は私が頼りだと言ってくれる。こんな嬉しいってことがあるかい。
「ゾフィー、是非私と一緒に来て欲しい。アーティとピザンナ様を助けたいんだ。いけないだろうか?」
殿下が縋るような目で私を見つめてきてる。
クウゥ
そんな目で私を見ないでいただけますか。胸の内に抑え込んだ思いが溢れ出てしまう。弾けてしまうよ。
「お願いだよ。ゾフィー」
だっ、ダメ。
もう、王家の騒動には関わらない方がいいという考えを、私の衝動とも取れる思いが塗り潰す。
彼を助けてやらないと、あんたの推しでしょ。好きだって言ってたじゃないの。私のハートが甘い考えを持つ私を囃し立てる。
決めた。
毒を食らわば皿まで、違うな甘い蜜は壺の底まで攫うんだ。舐め尽くしてやる。
私は脱臼していた腕を釣っていた三角巾を脱ぎとる。そして、
コンスベング・コンスペング・コンスペング
魔力を練り上げ、
「インベント<オムニア ウルネラ サネントゥル>」
全ての傷が治りますように
公爵との戦いでった傷を強制的に治す。自然に直した方がいいに決まっているけど、今はそれどころじゃない。四の五言ってられないんた。
「分かりました。不詳、ゾフィー・シャルロッテ・デュ・バイエルン。再び殿下の刃となりましょう。お命じください」
「そうか、ありがとう。貴女ならと思っていました」
殿下の顔が笑顔になる。希望に満ちた目で私を見つめてくる。殿下の信頼が私の胸の中の火に油を注ぐ。
「では、私と共に」
「応!」
わたしは再び、殿下と修羅地に向かう決意をしたよ。何があっても守りますからね。
ルイ殿下! 私の愛しい………
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インターミッションになります。
* 姫様、メイドは、あんなことや、そんなことは致しません。こんなことだって致しません。~カラミティなんて言わないで~
は、一区切り。そして一休みとさせて頂きます。ここで終わりではありません。また,お目見えいたします。お待ちください。
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