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災厄,膝を屈す

よろしくお願いします

  はあぁ、


 肺から空氣を絞り出す。

 我を忘れ、頭に血が登った。これでもかって男をぶっ叩いていた最中、脳裏によぎった殿下の影。

 途端に、かあっと熱くなっていた意識が覚めていく。


 私は、今、なんて思った。殿下のことを………。


 ふと見た自分の手に赤い飛沫がついているのに気が付く。彼奴の腕から逃げ出すのにボレロを脱ぎ残したから肩や手が晒されている。

 最後にパーティファンを、あのデカブツの顔に捩じ込んだ時に歯と一緒に飛び散ったものだね。

 そうだよ。殿下とのことは今宵だけの夢。こんな剣呑で血まみれの女なんかが殿下に釣り合えるなんて思わない方がいい。並び立つなんておごがましい。身の程知らずも甚だしいよ。


 気を取り直して周りを見渡すと、でかい図体が2つ、ぶっ倒れている。

 本当に危なかった。間一髪のところで抜け出し生きていられた。私を玩具と勘違いして、弄んでくる奴らから、なんとか逃れることができたよ。お陰でボロボロになってしまったけどね。


 こいつらも含めて、もう、何組バラしたか記憶にない。十まで数えて後は止めた。

 こっちだって、ファンの片方は激戦に地紙は破れ、骨が折れて使えなくなって捨てた。防御の要のドレスも切られ破かれ、ズタズタの満身創痍。クリスタルで編まれ魔力で染まったドレスの緋色も抜け落ちて元の白色に戻ってしまう。魔法炎に焼かれて焦げているところまである始末。

 このバトルドレスって見た目と違い防御力は高いんだけど流し込む魔力が半端ないんだ。

 魔力を使いすぎて頭は痛くなるし、目の中には星がいくつも流れている。気持ち悪いことに脂汗に塗れた背中を怖気が這い回っている。

 そうは言っても、戦いは続く。

 後、少しかもしれないんだ。持ってくれよ、私の体。

 力が抜けて笑いかけの膝を叱咤して立ち上ろうとすると、目の前に厚い唇をひん曲げて下卑た目で私を見下ろす男が立っていた。


「嬢ちゃん。スゲェーや。そこで潰れているデカブツ兄弟に、いい玩具があるって嗾けてみたんたげどな。見事に返り討ちにしやがった」


 手入れもしていない無精髭を生やした厳つい顔の口が開く。喋る度に虫に喰われた様な欠けて黄色くなった歯が見える。

 やだねぇ、臭い匂いまで漂ってくるよ。ハァ磨けヴァカが。


 さっきの肉ダルマほどではないけど見上げるほど背が高い。服の上からも筋肉が盛り上がっているのがわかる。

 ただ、いけないのは分厚い胸の肉の上にある醜悪な顔つき。牙であろう物なら食人鬼のオークに見えたよ。折り目正しかったであろう衛士服をわざわざ着崩して。肩には凶悪なハンマーを持つ戦棍ボールアックスを乗せている。


「こいつらはなあ、手加減っていうものを知らねえ。見境なしにバカ力振るいやがって、人だろうが家畜だろうか、なんでも潰しやがる。言うこと聞かねえから機嫌取ろうってあてがわれた女、何人潰されたかわからねえ」


 そいつは徐に肩に置いたポールアックスを下ろす。石突が床を破り、大きく床が震えた。

 ちょっと待て、私の背丈ぐらいの長さじゃないか。なんてもん使うんだよ。当たりでもしたら体が飛び散り五体満足でいられるなんて期待できないじゃない。


「お嬢ちゃんがそうならなくて良かったよ。あんた、もったいねえ体つきしてるもんなあ」


 そして、私をジロジロと見下ろしてくる。

 止めてよね。そんな値踏みでもするような目で見てくるの。ただでさえ脂汗が出て気持ち悪いのにゾゾって寒気が走るよ。


「まあ、彼奴らは所詮,前座。そんな奴らに喰われなくって良かったよ。お嬢ちゃんは頑張ったなあ」 


 此奴は感心したように腕を組んで云々とうなづいているよ。そんなもん,勝手にやってろ。お前に褒められたって嬉しくなんかないや。



「でもな、本命はこれからだ。真打は最後に登場するってな。お嬢ちゃん、彼奴らと殺りあってきつかっただろ。もう、観念しな。俺が楽にしてやるよ」


 其奴は、見せつけるように床に突き立ったボールアックスを持ち上げると私の前で唸りをあげて振り回す。

 デカくて凶悪なボールアックスを軽々と扱うなんて,なんて膂力なんだ。私の持っているパーティファンは特注とはいえ、長柄物じゃ,部が悪い。さて,どう捌いていくかな。

 此奴は準備運動のつもりか,一通りポールアックスを振り回した後,床に石突を突き立て穴を開ける。


「それとも、何かぁ。俺の女にでもなるか?」


 此奴、拳から小指を立てて、とんでもないことに言いやがった。


「俺としちゃ、もう少し肉がついている方が好みなんだが、嬢ちゃんの気風は好きだぜ。大負けに負けて,どうだ。なるか?」

「何を言ってんだか、私にだって選ぶ権利がある。勝手な事いうじゃないよ」

「そうか、そうだろうな」


 此奴は片方の口角をあげてニヤリと笑い、後ろを振り返ると、


「タイチョーさんよぉ、俺が倒したら、こいつ、俺らのアジトにお持ち帰りしていいかなぁ。えっ」


 持ち帰って、されることなんかひとつしかない。私は、お前らの慰み者になるつもりなんかない。


「あんたは、私の趣味じゃ無い。そこらへんにうろちょろしている犬の尻でも掘ってろ」


 言ってて胸糞が悪くなって口の中の苦味が広がり、血混じりの唾と一緒に吐き捨てる。


男の顔からニヤニヤ笑いがなくなり、表情が消えた。冷ややかな目で私を睨みつけてきやがった。


「まずは足だ。こいつで砕いて動けなくしてやる」


 ポールアックスを振り上げて男が宣う。


「その後、腕の骨を砕いく。抵抗なんかさせねえ」


 男は歯を剥いて笑いながら、


「お前の穴という穴に俺のをねじ込んでやる。泣こうが叫ぼうが知ったこっちゃない。首も絞めて、ごめんなさいさえ言わせねえ。知ってるか、死にかけが一番閉まって気持ちいいんだってよ」


 男は聞くに耐えない言葉を垂れ流しにする。公爵さん、こんなの飼ってるの。やめとけよ。人は選ばないと。あんたの品性が疑われる。

 しっかし,勝手な事ばかり言われても癪なんで私は悲鳴をあげる体に鞭を打って腰に手を当て体をくねらせて、挑発してやった。


「はん、自慢するほどじゃないのは見なくても解るよ。そんな貧相な一物で喜ぶ女なんていない。お家に帰ってママに泣きつきな。普通に女が相手してもらえるくらいの物を、なんでつけてくれなかったのかって」


「ぶっ殺す」


 男の怒気が膨れ上がった。体がバンプアップする。ポールアックスを大きく振り上げて私へ叩き込んできた。


コンスベング、コンスペング、コンスベング

魔力をを練り上げ、


「インベント! エッセ<ヴィレース>」

剛腕付与 


「インベント! フェリィモ<ヴァヌゥス>」

鍛錬増強


 魔法で腕力やパーティファンを強化しようとしたけど、私の中の魔力が回復しきれていない。しかも、魔力が上手く流れてくれない。どっか,壊れて漏れてしまっているようなんだ。



仕方なく両手でファンを持ち、まともに斧頭を受けた。


グァン


 強化しきれていないファンはバキバキって音を立てて軋んでしまう。


 しっかし、何ツゥ馬鹿力、なんていう破壊力だっていうんだ。

 奴の膂力に押し込まれ、目一杯,腹に力を込めて踏ん張ったのはいいのだけれどコルセットステイを縛る丈夫なはずの鯨の髭も嫌な音をたてて千切れてしまう。力を込めることができずに可憐に動いていたはずの足が負けた。力が抜ける。

 しまったよ、膝が地面についてしまった。

 男が舌なめずりしてポールアックスん再び振り上げ、袈裟懸けに撃ち下ろして来た。

 斧頭を受け止めて、いなそうとしたけど、刃にファンが引っ掛けられた。そのまま、引っ張られて捻られる。


  パッキン


 体の中をに聞きたくもない音が響く。追って直ぐに激痛が走る。どうやら片腕も持っていかれた様。脱臼したのか、腕がだらりとしてピクリとも動かない。

 近くに落ちたパーティファンを探したけど、地紙も引き裂かれ、骨をおられて使い物にならなくなってしまった。

 あれ無しでポールアックスを受け止めることなんてできっこない。


 男が三度、ポールアックスを振り上げるのが霞んだ視界に入る。

 ごめん、殿下。あんたに言っときながら、守りきれなかったよ。後は弟が上手くやってくれるよ。

 アドルの奴は私より強いんだ。なんとか生き延びてくれな。先にあの世にいっちまってすまねえ。時が過ぎて殿下があの世にくることになったら、謝るから全力で謝るから、その時でいい、許してね。


 今までの人生、色々と気張ってきたけど、死ぬ時はこんなものか。


 それでもな、振り落とされる斧の刃から目は離さなかった。乾いた血で赤黒くなっている。最後まで逃げなかったよ。それだけは褒めて欲しいよ。






姫様!




私を呼ぶ声が聞こえる。

ありがとうございました

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