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災厄、激闘を制す

よろしくお願いします

 私は、居並ぶ衛士たちに向かって走る。

 床に熱気が揺らめく大穴が二つ出来上がったおかげで出来た一本道の先に衛士たちが隊列を組んで整列をしている。


「突入」


 衛士たちの指揮をしているものからの号令で、3人が1組となって進んできた。先鋒が

脇構えにブレードソードを構えて向かってきた。私は攻撃の為の魔力を練っていく。 


コンスベング、コンスペング、コンスペング

魔力を練り上げ



「うおりやぁ」


 横凪に振るってきたソードの付け根にパーティファンを当てる。


   シャラァーン


 刃を滑らし軌道を往なして相手のバランスを崩してやる。蹈鞴を踏ませ、背を向かせたところで衛士の尻を蹴っ飛ばす。


「インパルス<ルテミト>」

ドゴッ


 魔力を込めて蹴られた衛士は熱気が立ち上がる穴へと真っ逆さまに落ちていった。


「ウワァ!」


 穴も結構な深さを持っていて、這い上るのには無理じゃないかな。でもね。火球の熱は砂を掛けているから程よく冷めているはず、だから焼け死ぬ事なくないだろうよ。多分。

なんなら、魔法でお湯でも注ごうか。いい湯になるはずだよ。


そんなことを考えていると、直様、次鋒が体勢の崩れ掛けた私に向かってグレートソードを突き込んで来るも、私は軸足で床を蹴ってバックステップ。切先をなんとかやり過ごし、体をスピンさせて肘を相手の頬に叩き込む。


「インパルス<ベネトレイト>」

ガコッ


 肘打ちの勢いに飛ばされて相手は大穴に転がり込んでいった。


「アグュッ」


 頭を回り込ませながら中堅処の3人目を視界に納めると大上段にブレードソードを切り落としてくるのが見えた。

 でも、動きが緩慢。

 ならと、軸足を思いっきり踏み込み、姿勢を低くして素早く相手の懐に入り込む。掬い上げるようにファンを持った拳を振り、手に嵌めたナックルダスターを相手の顎に叩きつけた。


「インパルス<フェリーレ>」

ズガンッ


 衛士の両足が浮きあがる。


「オゴォ」


 そのまま、穴の方へと堕ちていった。それを目の端にいれつつ、後の攻撃に備えてファンを構えた。


「次、槍隊! 前へ」


 初手が破れたとして即座に次へと指示か飛ぶ。今度は短槍を持つ奴らが縦一列になって私に向かってきた。


「おおおおおっ」


 先頭の衛士が短槍を右半身に構えで走り込んで来る。穂先を私に向けて突進してきた。大広間の微かな明かりを穂先が反射する。

 狙うは私の心臓か。やられるもんか。

 パーティファンの持ち手を変えて骨の部分を槍の太刀打ちへ打ち込んで穂先の軌道を逸らしていく。


   パァーン


 もう片方に持つファンを衛士の顔に振った。地紙で叩いてやろうとしたのだけれど、流石にそれは見切られて衛士は私の横をすり抜けた。

 途端、視界に新たな穂先の輝きが入ってきた。2人目の衛士の突き込みだ。前の奴がフェイントでこっちが本命!

 槍の切先が鳩尾目掛けて突き出されてきたのを体を捻ってやり過ごす。2番目の衛士がすり抜けたと思ったら途端、後詰の穂先が私の眉間を狙って伸びてくる。こっちは大穴か!


 無理やり、頭を逸らすも、顳顬あたりを掠っていく。髪の毛が数本切られて視界の端を舞っていってしまった。

 私をすり抜けていった3人は集結し、再び縦一列となり私に向かってくる。


「いけるぞ! あの女に、もう一度、噴流3連撃をかける」


 3人組の頭とも言える奴が指図した。


「やるぞ!」


 掛け声と共に先頭の衛士が短槍を左半身で構えて向かってくる。

 私が両手のパーティファンを構えると、衛士の持つ槍の穂先が瞬き円錐を描く動きをする。上段の構えに変わったんだ。

 一体、何をと思った瞬間、衛士は短槍を後ろに引いて私に向かって投擲してきた。それも足元に、


「しまった⁉︎」


 投げられた短槍をファンで弾けば、隙を突かれ衛士の持つショートソードに切られるだろう。バックステップしたとしても怖気付いたとみなされて、やはり踏み込まれ、切られてれてしまう。


   ドスっ


 ならと、足元の床に突き立った短槍の柄に飛び乗り反動を利用して飛び上がり、衛士の肩に足をかけて乗り越える。


「俺を踏み台にしたぁ」


 そんな叫びを耳にしつつ前を見据えると、すぐ後ろに控えた奴まで短槍を投げて来やがった。穂先の一瞬の煌めきに頭がスパークする。


「うわあぁ」


 反射的に肩を落として頭をずらしてやり過ごした。耳の横を槍が通り過ぎる。

 うら若き乙女の顔に何するの。

 怒りに任せてパーティファンの天を其奴の鼻と唇の間の急所めがけて打ち込んだ。凄まじい痛みに仰け反る奴の後ろから、またしても短槍が投げ込まれる。私はといえばファンを突き出し伸び切った姿勢で固まってしまった。


「!」


 瞬間、目の端で垣間見た穂先の尖りに頭の中に稲光が走る。頭を目いっぱい振り下げ、姿勢を低くした。


   ヴン


 槍が頭の真上を飛んでいく。翻った髪の毛が数本纏めてプチプチと引き千切られた。

 痛みを堪えて更に肩を落とし込み、頭を抱え込むように空中で前転。ストッキングを履いた脚が翻る。ブーツの踵をを衛士の顔に振り落としていく。


ガハッ


 踵落しになってうまい具合に鼻っ柱にぶち当たったようで、衛士はもんどり打って倒れ地面を転がった。

 空中で体を捻り、四つん這いで着地した私に先頭だった衛士がショートソードを抜き、切り込んできた。


「よくも! 仲間を」


 私は直ぐに体を起こし、相手のショートソードをパーティファンで受け流し、


   シャリーン


 剣先の軌道を大きく外し、体を開かせてナックルダスターを其奴の頬に打ち込んで、


「インパルス<フェリーレ>」


 大穴まで殴り飛ばした。ついで足元で悶絶している2人も穴の中へ蹴り落としておく。

 

「次! 行け」


 指揮するものの苛立ち混じりの号令が聞こえた。すると次の5人の衛士たちが長槍を立てて、こちらに向かって進んで来る。


「「「「「やあ!」」」」」


 掛け声と共に槍を振り下ろす。そして手元に引いて突いてくる。そして直ぐに振り上げた。一糸乱れのない槍捌きは鍛錬が良く行き届きているようだ。


「掛かれ!」


 との掛け声に穂先を揃えて一斉に駆け込んできた。そして私に穂先を揃えて突いてくる

 槍は柄の長さがあるから接敵し難いし。刺突の貫通力だってバカにできない。

 私はパーティファンで穂先を払って体を捻り込み、槍の間に入り込もうとしたんだけど、素早く引かれた。そして、返され、また突いてくる。突かれば引き、槍衾の間隙を縫って入り込もうとするのだけど、穂先を直ぐに引かれて、また突かれてしまう。

 何度かの応酬の後、1人の衛士の奥深くに鋭く、そして大きく踏み込んでみた。後少しで槍の持ち手まで届くかというところまで入り込めむ。

 これなら穂先の奥、太刀打ち辺りまで入り込めたら突くことは難しいはず。

 もっと奥に入りこみ、ナックルダスターを打ち込めるかとかと持った途端に、


   ズダン


 肩に激しい打撃を受けた。あまりの衝撃に思わず、跪き、前のめりに倒れてしまう。

 体を捻って受け身を取って相手を見据える。衛士は振りかぶり、私を叩こうと槍をふり落としてきてる。


   バァン

 私は横に転がって槍の打撃を避ける。

 槍は突くだけでなく柄をしならせて殴打するだけでも致命的なダメージを相手に与えられる。そうやって集団戦の先鋒を務める時だってあるんだ。

 困ったことに振り落とされる槍は一本じゃない。仲間の衛士がそれぞれに槍を振るって私を叩こうとしてくるんだ。地面を転がって、いつまでも避けてばかりいられるわけがない。

 その内に槍を返して撃ち下ろされた石突が。


   ドスッ


 バトルドレスのスカート越しに太ももをヒット。


「痛ぅっ」


 一瞬痛みが走るけど、バトルドレスが刺突の衝撃を結構、吸収してくれたようで、動きが止まることはなかった。でも痛みは残るんだね。

 今度は他の衛士までかが石突を撃ち下ろしてきた。頭を突かれちゃたまらんとガードしている腕が突かれ、はたまた、顔を庇って腕が上がり隙のできた腹も突かれる。いくら、ドレスが頑丈だとしても、このままじゃジリ貧になってしまう。


 いつまでもやられっぱなしじ埒が開かない。突き落とされた槍を払うつもりで仰向けからの右足を大きく振り反動を利用して後転倒立のように起き上がる。

 両足が、かばっと開いてしまうからレディとしては、ちと恥ずかしい。パニエをつけているんで、どうということはないのだけれど。

 殿下、見ないでくださいね。見ても忘れてくださいよ。お願い。


 私は、再びパーティファンを構える。でもね、痛い。全身至る所が痛い。穂先では刺されなかったけれど、石突で突かんたところの鈍い痛みが残っている。

 この痛み、絶対返してる。しかし、あの槍だと私のパーティファンじゃリーチが足らなく躱すので精一杯。懐に飛び込むなんて出来そうもない。でも、やり方なんて幾らでもあるんだ。

 早速、5人穂先を揃えて進んできた。ファンを持って半身になって待ち受ける。


「「「「「やあ!」」」」」


 掛け声を合わせて一斉に槍を突いてきた。最初は揃って、そして高い違い突いて引くを繰り返す。私は構えるファンで迫り来る穂先を往なし、弾いていった。

 しばらくは、なんとか捌けたのだけれど、一本の槍が軌道を変える。穂先の軌跡が蛇のように畝った。


   パァン


 小手を槍で打たれた。思わず、パーティファンを取り落としてしまう。


「痛ってえっ」


 大声で悲鳴まであげてしまった。打たれた痛みに体が体が硬直する。動きが止まる。この機を逃さず、衛士たちは槍で私を刺し貫こうと一斉に穂先を突き出す。


「!」


 それに気づいた私の表情が変わる。死への恐怖に慄く顔じゃない。口角が上がる。ほくそ笑んだんだ。


 掛かった


 小手を打たせたのも、怯んだように見せかけたのも、相手を誘ったんだよ。

 心臓めがけて伸びてくる、幾つもの穂先。当たるかという寸前に腰を回す。強度抜群のクリスタルガラス繊維で編まれたバトルドレスが破れる事なく刃を滑らせて脇へ逸らしてくれた。それを腕で挟み込んだ。

 これで充分。私は魔法使いでもあるんだ。


コンスベング、コンスペング、コンスペング

魔力を練り上げ


「インパルス<イントゥス・オミット>」


 私が捕まえた槍を通して柄を握る衛士に衝撃を流す。先程、この大広間のシャンデリアを落とした時と同じ要領なんだ。


  パシンッ


 爆ぜる音がして、衛士は持っていた槍から弾き飛ばされ、床に転がり四肢を痙攣させている。槍を通した衝撃を体の内を暴れさせてやった。命には別状ないと思うけど、しばらくは動けなくなるはず。

 それを見て、私は脇に挟んだ槍を掴んだ。槍の重みが懐かしい。戦場で幾度となく振るっていたんだ。ここ暫くはご無沙汰だったけどね。

 昔、振るっていた時の感触を思い出すために頭上に槍を両手で持って翳して旋回させる。持ち手を替えてグルングルンと回していく。ブゥンと槍が唸る。

 うん、この感じ。昔の感じが呼び起こされる。

 乗ってきたんで片手持ちにして左右交互に回していく。そして首を軸にクルリと回し、ウエストでぐるりと旋回させて脇に後ろ手に構える。そして穂先を回し衛士たちに向け、半身の体勢を取る。

 私の槍捌きを見て動きを止めた衛士たちも槍を抱え直して刺し向かう。

 先手は私から。利き足を踏み込み、牽制のつもりで槍を突きだす。相手に軽く遇らわれ、直ぐに返される。私も穂先を払い、槍を引いて突きだす。衛士も私の穂先を捌き、直ぐに突きを返してきた。

 そこで私は持ち手を逆手に捻り、穂先を力を込めて素早く外側に回す。ラン!

相手は槍を絡め取られてバランスを崩し外側に持っていかれた。

 直ぐに持ち手を順手に捻り、穂先を円錐に回して相手槍を巻きこみ、引き倒す。ナー!

 そして、槍を返し石突を相手の土手っ腹に突き込む。チャー!



 私だって痛かったんだ。同じ痛みを味わえ!


コンスベング、コンスペング、コンスペング

魔力を練り上げ


「インパルス<ベネトレイト>」


 槍を通し相手に衝撃波を通した。


 おまけだよ。


 衛士は体をくの字に曲げて、凄まじい勢いで弾き返され大穴へ落ちていった。他の衛士が、それを愕然と見ている。

 その隙に衛士が落とした槍は拾い上げて、


「アデル、使いな」


 後ろで殿下を守る弟に投げ付ける。これで背中をアデルに任せられるよ。

 そして、槍を体の後ろに持ち、


「さあ、お次は、どなたでありますか。後ろが詰まっております。お早めにおいでくださいまし」


 にっこりと催促してやった。拳で吹っ飛ばすわ。蹴たぐりまわすわ。槍もぶん回すけど、なんちゃってメイドであるかもしれないけど、挨拶は朗らかにしないとね。 

 ところがどうだい、相手は私を悪鬼羅刹を見たように慄いた目つきで見てくるんだよ。レディが優しく、いらっしゃいと言ってるのに。

 そうかい、そうかい。わかりました。では、こちらから、行かさせていただきますよ。


「いけずな方々でありますね。では、こちらから伺いましょうか」


 私は衛士たちに向かって最初は静々と向かった。そして勢いをつけて走る。

 なんでだろう、不思議と唇の端が上がるんだ。笑顔をしてるつもりなんだけど、対する衛士たちの顔が歪む。そんなに怖い顔に見えるのかなあ。

 衛士たちの持つ槍の穂先が動揺で震えるのを見てとって、私は走りながら後ろでに持った槍を頭上にあげて旋回させ、衛士に振るった。もちろん、


コンスベング、コンスペング、コンスベング

魔力をを練り上げ、


「インベント! エッセ<ヴィレース>」

剛腕付与 


 軸足を踏ん張り、利き足を踏み切り、体の捻りも追加、腕力まで増し増しにして槍を衛士に振う。

 そんなに怖い顔をしているわけではないのだけど、おっかなびっくり、へっぴり越しになった衛士の構える槍に太刀打ちを叩きつけた。

 でも、それ程、重みを感じず槍が振り切れた。目の前から衛士が消える。目の端に大穴に落ちていく姿が映る。


 次!


 振り切った槍の勢いを殺さず、体を回し、今度は石突で他の衛士の頬を殴り倒す。

 どうだ。石突で突かれるとと痛いんだよ。思いしれっ。


 次!


 動きを止めず、スカートを翻して槍を旋回させ、別の衛士を薙ぎ払い大穴に落としてやった。

 どうだい、槍のしなりを効かせた打撃は! 当立った時の痺れがたまらないだろう。

 私が持つ槍も酷使した所為か、ここで柄が折れて穂先がどこかへ飛んでいってしまった。

 残った槍の石突を床に突き立て、辺りを見渡すと槍持つ衛士がいない。粗方、大穴に落とせたようだ。


ふう、ひと仕事終わりに御座います。


ありがとうございました

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