災厄、更なる難敵を退ける
よろしくお願いします
多少なりとも公爵の肝を冷やしたことを喜んだのも束の間、
「どけぇ、どけぇ。情けない奴らだよ。小娘1人に翻弄されやがって」
プレートアーマーを着込んだ重装鎧が広間の廊下側のドアを開き、雪崩れ込んできた。
多分、外の警備をしていたんだろうね。広間の騒ぎを聞きつけておっとり刀で来たようだよ。鉄履を鳴らし、衛士たちの前に並んで行く。
その中の一騎が進み出て、私の前に立つとヘルムを取り、大剣グレートソードを床に立てて、
「話は聞いた。王子を騙る大悪党の一味目、陛下を騙すとは何事ぞ。ここで断罪してくれるわぁ」
ガンッ
その重装騎士はソードの切先を突き立て、床を鳴らす。
「即刻、首を差し出せ。女であろうと容赦せぬ。謀事に組したことを後悔せよ」
白髪の混じった太い眉、大きな鼻栓の下にカイゼル髭、頬に切り傷までついて、いかにも歴戦の強者という顔つきで喚いてくる。
その相手の挑発に、
「私くし、強引な殿方のお誘いは、お断りさせていただいてますの」
パーティファンを開いて口元を隠し、非難がましく相手を見据えて馬鹿丁寧に一蹴してあげた。騎士の顔色が変わる。見下されたと感じたに違いない。
「その生意気な口を塞いでくれる。暴れまくったようだが儂には効かん。そんな柔な扇など、この大剣で叩き折ってやるわ」
重装騎士は、グレートソードを引いて背中へ回す。そして力を貯めると私の首目掛けて横薙ぎに振ってきた。私は軸足を大きく引き、体を大きく逸らして初撃を交わす。
「ぬん」
私の直上を刄が通過する。厚い風圧で結った髪も解けてしまった。
「私くしはお断りしておりますのに、しつこいお方」
「ぬかせ!」
重装騎士も振った勢いを弱めずにグレートソードを翻してもう一度、切り込んできた。
そこで利き足も引きつつ、体を逸らしてグレートソードを躱わしステップして回り込み、大振りで開いた相手の懐に入り込む。
畳んだ扇の天を鎧の首甲と顎の僅かに隙間に捩じ込み、喉仏を強打する。
強烈な痛みと呼吸不全に落ちた衛士は大剣を手放し、もんどり打って倒れ、のたうち回る。
小娘相手と侮り油断したのが運の尽き、ヘルムを被っていれば弱点を晒すことも無かろうて。
すかさず、2人目がグレートソードを刺突してきた。私から見て先に倒した騎士が影となる死角からの一撃を入れてきた。躱していくこともできず、そのまま、グレートソードは腹に吸い込まれていく。
「とったぁ」
突かれた反動で、私も後ろに押し戻される。よく転ぶことなくシューズを滑らせて止まることができた。
「女の腹を突くなんてえ、全く酷い話だよ。あんたの母ちゃんに言ってみろ。ぶん殴られるよ」
そんな場違いで蓮っ葉の言葉を、いきなり聞いて相手の顔が惚けた。そして私の腹を見て愕然とする。大剣の切っ先がドレスの腹を覆うストマッカーで止まっているんだ。
動きの止まった騎士にファンを振り上げて親骨で相手を叩き伏せた。魔力をの通ったクリスタルの細糸で組まれてきるストマッカーは大剣如きでは突き通せない。それぐらいの防御力があるんだ。下にはステイコルセットも巻いてある。痛みまではそれなりにあるから堪らんけどね。
更にもう1人が進みて出てくる。流石にヘルムを被り、ベンテールも降ろして完全武装できたよ。
グレートソードを振り上げ、上段から一振り、そしてソードを翻して横薙に一振り、返してもうさん一振りしてくる。その一振り、一振りが一刀で私を両断する威力を持っているんだ。
兎に角、ステップを踏み、足を捌いて、体を翻し避けていく。たった一本のパーティファンで受け止めるなんて自殺もん。へし折られてバッサリさね。受け流ししようとしても、あの大きさと、それに伴う重さで弾き飛ばされるのがオチ。
兎に角、躱わして躱わして、好機を待つしかない。ペントールを閉じたヘルムの視界はあまり良くない。死界も多い。早い動きには対応しづらい。素早い動きで相手を翻弄する。
かと言ってファンに仕込んだ刃では厚い装甲を切り裂くなんてできることではないよ。普通なら手詰まりになってしまうけど、私は違う。躱して動き回っている間に、魔力を貯めておく。
コンスペング、コンスペング、コンスペング
魔力を練り上げ
人の背丈に匹敵する長さを持つ両手剣グレートソード、振り回すのにもかなりの力を使うんだ。何度も振り回せば、疲れも出てくる。
ソードの軌跡が下がり、切先がぶれる。騎士が上から振り下ろしてきた。踏み込みも振り出しも力が感じられなきゃ。ここだね。その一瞬を逃さず、踏み込み、
「インベント! エッセ<フォーティス・オシィス>」
撓やかなれ
強靭さをアップしたパーティファンの親骨をグレートソードの付け根近くの刃を付けていない部分に当てる。ブレードを滑らし軌道を逸らすことができた。
強靭さを上げたファンが良い仕事をしてくれた。グレートソードが私を真っ二つに斬ることなくなく大理石の床をぶち抜き砕く。
知らないよ。結構、値が張るだろ、この床。後でドン叱られるよ。ほら見なさい。切先が埋まって動かせなくなったじゃない。
ソードを持つ腕が固められ、騎士の動きが止まる。私は更に姿勢を低くして踏み込み騎士の僅かに開いた上腕当の下の隙間に張り手をかます。
「インベント! インパルス<ペネトレイト>」
突き通れ! 鎧通し
衝撃を細く鋭く、鎧に伝える。重装騎士が一瞬震えた。閉じていたヘルムのペントールがパガンと開く。
呻き声が聞こえたと思うと騎士が膝が崩れた。それを切っ掛けに胴鎧の留め金が弾け飛ぶ、腕の鎧の止め金も同じ、そして騎士は仰向けに倒れ込む。
そりゃそうだ。魔力の衝撃が鎧の中を跳ね回るんだね。中の人もかなりダメージがあるはず。日頃、鍛錬しているから命はあると思うよ。
ガチャン
辺りに金属音が響く。重装騎士の持ってきたグレートソードが床に倒れたんだ。私は騎士のヘルムを覗き込んだ。良かった、息してる。安堵しつつ、周りをに視線を飛ばす。私たちの周りは衛士に取り囲まれていた。しかし、彼らの顔には驚愕の表情が張り付いている。
「さあ、お次の方はどなたでありますか?」
バカァ、私は何言ってる。相手を挑発してどうするのか。さっきも同じこと言ってるし、私って懲りないのね。
シクっ
ありゃ! 今になってグレードソードに突かれた時と痛みが腹から登ってくる。戦うのでいっぱいで忘れていたよ。ても、変な思考をしている頭を切り替える切っ掛けになったよ。それだけ集中していたんだ。
さあ、兎も角、次よ次。ちょっと陛下から離れ過ぎたから、戻って守りを固めないといけないね。
『弓兵はどうした。あの女に射かけ続けろ。休む暇を与えるなぁ』
ほら、見なさい。敵さんも待ってくれないよ。
ありがとうございました




