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第2話 更なる災厄はメイド服を着ている。

「姫!」


 そう,黒のロングドレスの上にピナフォアを着た私のことをそう呼んだ。


「姫、貴女は何をしたのでありましょうや? この家の中でクマ撃ちでもいたしましたのでしょうや?」


 震える声で私に詰問をしてくる。


「旦那様、姫とは、どなたのことでありますか? ここには一介のメードサーバントのゾフィーの私しかおりませんが」


 私は、すっとぼけて,しれっと答えた。


「貴女のことでしょう。姫! たってのお願いというから、ここで仕事を斡旋しているのに、この仕打ちはいかがなものでありましょうや」


 彼 アハト男爵の目から流れる涙の量が増えた。


「仕打ちも何も、私たちは、事件に巻き込まれたのですよ。旦那様」


 男爵は、目を瞬かせる。


「事件?」

「災厄がドアを3回ノックしてやってきましたのですよ」


 物凄く端折っていいと,こうなるかな。


「また,私を煙に巻くようなこと言いなさる。この惨状はどう説明なさる。いい加減になさいませ、姫!」


 確かに何本も巨大な銛のような矢を打ち込まれ,壁の装飾品からが全て脱落してエントランスの床を埋め尽くし瓦礫の山とかしているのを説明するのは難しい。私だって知らないことが多すぎるのね。


 「だから、私くしは………」 


 男爵は、私の喋りをお大声で遮る。


「貴女は、ゾフィー・シャルロッテ・デュ・バイエルン、伯爵位、バイエルン卿の息女、ご令嬢ではありませぬか」


 これ以上ない解説ありがとう,アハト卿。


 確かに私はそうなんだけど。なんでメイドに奴しているかって、バイエルン伯爵家は領地なしの法衣貴族。


 それが当主の親父が、お上と遊びまわりやがって身上をつぶしやがったんだよ。

 それじゃ暮らしていけないって少しでも食い扶持を稼がないということで,知り合いの寄子であるアハト男爵のところに転がりんでご厄介になっているわけなんだ。

 彼のところは領地経営が上手に回って、金回りは、いいんだよ。


 私くし、姫様でしょ。


 借金まみれで貴族なんて名乗れるわけねえじゃん。だから一介のメイドになって働いているんよ。


「貴女が…」

「おぬしが…」


 エントランスの片隅に佇んでいる2人の呟きが聞こえる。’僕'と護衛のシュミットさんだ。呆れて,そのあとが言葉にならないでいた。


 そのうちに


   かはっ


 縛っていた近衛騎士彼女1人が息を吹き返した。


 前衛でいろいろと指示を出していたから、リーダーと見て良いかも、彼にしていた猿轡を外す。その時に私の中で練り上げていた魔力を彼に流し込む。気が削がれて気づかないはず。


「さて、狼藉者さん、貴兄たちは何者? 何故に襲ってきたのか教えて?」

「………」


 まっ,普通なら話すわけないよね。でも,魔術をかけた。


「インベント! コンフェシオ<オール>」


 起きがけに彼には魔力が流し込んでいる。使った魔術は'告戒'全てを吐き出し、許しを乞いなさいってもの。かなり、強制力が高いんだ。精神的な枷は、ほぼ外れると思って良いよ。


「もう一度、聞くわ? 貴兄たちは何者?」

「我々ら、オーズ宮に使えし、近衛なり」


 彼は、目を泳がせた。聞かれたことを頭では拒否しているけど、己の口が話しているからだね。

 騎士の話を聞いた。シュミットさんが呻くように、


「オーズ宮といえば、第一側姫様のピザンナがお住まいだ。父が公爵ハロルド卿マクミラン様」


 私は、尋問を続けていく、


「目的は何?」

「第一王子のルイ様を亡き者にして,ご自分の子を王太子に挿げるため」


  うわぁ、うわぁ,大変なことになってきた。大事じゃない。


 近衛の顔が苦渋に満ちる。口から、秘密をべらべらと喋ってしまっているからだろう、ちょっとまずいか。


「インベント! ノンアポトーシツ」


 このまま、舌でも噛みちぎられてもしょうがないんで、禁則事項にしておく。これを施しておけば,死なれて困ることは減る。彼らには、後々役に立ってもらわねばならないからね。


 そして,私は、’僕’ことルイ王子を見た。自分自身の紛れもない今の立場を理解して、顔面蒼白になっている。

 己が殺されると,まざまざと聞いたのだから。歯の根が合わないのか,唇がフルフルと震えている。


「さて,’僕?' あんたはどうしたい?」


 残酷かとも思われるかもしれないけど、敢えて聞く。

 ここがこの子の分水嶺。逃げれば、いずれは殺される。刺客がどんどんくるからね。

 なら、


「僕は、僕は…」

「ぼ、く、は?」

「僕は生きたい。死ぬなんて嫌だ。」


 おー、よく言った。


「お姉さん、いや、ゾフィー。どうすれば良い?」


 彼は、生を渇望して真剣な眼差しで私を見つめてきた。


  クゥー!


 この瞳が堪らない。背中がざわつくんじゃない。

 美少年とも言える彼が,生きるためにギラギラした眼を私に向けてくるんだよ。

 胸がキュンキュンしちゃう。


「ゾフィー、教えてくれ。俺はどうすればいいんだ」


 すごい気概を彼から感じる。男の子が男になるって瞬間かね。こんなもん見せられたらね。堪らないのよ。お姉さんは、


「わかりました。やりましょう。私も微力ながらお手伝いしますって」


 て、つい、言っちゃうよ。


「ゾフィー ………」


 すると近衛衛士が、縛られたまま、話をしてくる。


「男爵などの下級貴族のメイド風情に何ができる。われら、上級貴族に仕れしものなり、虐げれば、汝ら、不敬罪で裁かれようぞ」


 そうか、この王子様は平民の側室が生んだために後見がいない。立場が弱いんだ。


 はて? どうしたものが。


「ねえ、貴兄たち以外に仲間はいるの?」


「いや、我らだけだ。この3人しかいない。側姫も動かせるのはここまでなのでな」


 少しでもいい、ヒントを集める。


 そうか、件の姫様も動かせる兵はこれくらいか。でも、上級貴族だもんなあ,

 あれっ,上級貴族。最近,耳にしたことが、頭の隅っこで思い出される。

 そういやあ、水汲み井戸で他の邸宅に勤めるメイドたちの噂話に、あれがあったっけ。なら、


「ねぇ、殿下」


 ここから、’僕’から王子様への敬称呼びの殿下に呼び方を変えてあげる。男になるんだもんね。


「これから、どう致しましょう?」


殿下に問う。


「僕は…,違う。俺は、もう逃げないよ。それに,ゾフィー。貴女も手伝ってくれるのでしょう?」


いいねえ、その力のこもった瞳。気に入った。


「よく、お分かりで、もちろんお手伝いさせていただきます。それがメイドとしてのお勤めですから」


 殿下は笑う。屈託のない笑顔で。私もお微笑み返してあげた。おっ少し頬が熱いや。

 頬の火照りを隠すよう振り返り,意識のある近衛騎士に近づく。腰元に手を差し込み、


「貴様,何をする」


 剣のない、鞘のところにあるスチレットを抜く。鎧通しと呼ばれる。最後に相手と差し違えるための短剣。十字の形は贖罪か。


しかし、近衛の持つものは、国王陛下の賜り物。同じものが二つとないように刻印がなされている。身の証をたてるものでもあるんだね。


「貴様、それは! メイド風情が何に使う。陛下の賜り物なるぞ。首がとんでも知らぬぞ」


私は、顔のそばに寄せて、耳元で囁く。


「私が『緋縅のゾフィー』って知ってるだろ、何を持っているかも」


彼は、目を見開き、私を凝視してきた。そして


「ご、御免状」


彼は,呟いた後、体を震わせ出した。

大層な名前だけど、何をやっても不問にするって書状。盗みだろうが、人殺しだろうが、王国が認めるってもの。騎士達をどう料理しても罪には問われ無い。


「よく、ご存知で、ただでは済まないのはそちらも同じこと。お覚悟めしませ」


 そう言って,彼の元をさり、殿下とシュミットさんの元へ行く。


「何を言った」


シュミットさんに聞かれた。でも、彼には、分取ったスチレットを見せつけて、


「これで、襲ってきたのは近衛衛士との言い訳ができます。シラを切られてもこちらに分がありますね」

「確かに、これは陛下より賜るもの」

「こいつらが側姫ピザンナの御付きってわかるわけですから、正当防衛になりますね」

「うーむ」


シュミットさんは顔を顰める。


「これだけではなあ」


 私は、近くで呆然と成り行きを見ていた、アハト男爵に告げた。


「これで、相手に賠償するか強請れますよ。額や壺の代金、玄関の修理、吹っかけて分取っちゃいましょう」


 話を聞いて,彼は呆れた。


「姫〜。もういいですよぉ。私は、これ以上関わりたくないです。心臓が持ちません」


と言って、肩を落としてトボトボと邸宅の奥に入って行ってしまった。

 大丈夫。私がきっちり落とし前をつけてきてやるから。大船に乗ったつもりで待っててな。


「さあさあ、みんな。今日はこれでお終い。後は明日、明日。もう休もう!」


 フロアにいる、みんなに声をかけていく。捉えた近衛騎士の話では、もう,これ以上の襲撃はなさそうだ。


「アデル、殿下を客間へ案内して、寝所の用意お願い」

「へいへい」


 殿下のことは弟に任せる。捉えた近衛騎士は改めて猿履をしなおし、意識のない2人と合わせて縛り直して納戸に放り込んだ。

 フリーズの魔術をかけておいたから、逃げ出すことはできないはずだね。


 夜の帷が降りて,しばらく経つ。草木も眠る刻限にもなっている。エントランスに散らばったガラクタの片付けは明日にしよう。

 片手が使えなかったシュミットさんは、肩を脱臼をしていた。ここには専属の侍医なんていないから、患部へ消炎鎮痛の魔法をかけて、夜が明けたら治療院へ連れていくことにした。

 屋敷の外でことキレた護衛のハンスには、鎮魂の祈りを捧げて死霊化を防いでおく。いずれにか弔うしかない。


 私は毛布にくるまり、窓から入り込む月明かりが照らす廊下で客間の扉の前に座り込み,襲撃に備える。

 近衛騎士を魔法で口を割らせた結果、仲間はもう居ないという事。多分大丈夫だと思うけど、念の為、警戒する。

 明け方にでも弟と交代して、仮眠でも取ることにすればいいね。


 すると、客間の扉が開く。中から毛布を羽織って殿下が忍び出てきた。おかしいな。確か、弟が中にいるはずなんだけどなぁ。


「どうしましたか? 寝られぬのでしょうか?」


 私は聞いてみた。


「………」


 返事がない。見ると、羽織った毛布を握る手が震えていた。薄明かりでもわかるぐらい震えている。


「殿下?」

「………、暗く………、怖くて………眠れない」


 彼は搾りだように呟いてくる。


「アデルが一緒ではありませんか?」

「ゆすっても起きないよ」


 あのヴァカ、熟睡していやがるのか。


「お願いだから、一緒に寝てくれる?」


 殿下はしゃがみ込んで、座っている私の顔を覗き込んで来た。


  あっ,だめだ。


 そんな、眉尻を下げて、縋り付くような目で見てこないで、


「…おっお願い」


 最後の力を振り絞るように、囁かれてしまった。そして一層、縋ってくる目で凝視された。


  あっ、


 背筋をピリッと痺れが走る。そして下っ腹から狂おしいほどの甘いうずきが上がってくる。


 私、彼の頭をかき抱き、胸に埋めさせた。私の中の女の部分が彼を見放すなんてことができなかった。本能的に抱き寄せてしまった。

 しばらく,そのままでいたけど、


「失礼しました。さあ、殿下、ベッドへ参りましょう」

「一緒に寝てくれるの?」

「はい」

「僕が寝て、起きても、そばにいてよ」

「はい」


 私は殿下を立ち上がらせ、彼に寄り添い、客間の扉を開けて中に入って行った。


そして…………

 朝まで、殿下に寄り添って寝ましたとも。そのうちに安心して寝ていただけましたとも。

 でもね、困ったことに殿下が、しがみついて離れないんです。


 もっと、困ったことに、服越しに私の胸の頂を甘噛みしてくるんです。

 今日一日、怖くていろんなことがあって、不安だったのはわかるのですが。


  アン


 私は昂まりを堪えきれず、果ててしまいました。

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