災厄 煉獄に誘う鈴を鳴らす
よろしくお願いします
早速、2人をを戦闘不能にしたのは良いものの、直ぐに次の攻め手がやってくる。今度は足元が滑って危ういことを悟って擦り足で私に近づいてきた。
「怪しい術を使う魔女めが!」
「ほほほっ、お褒め言葉と受け取りますわ」
口元に手の甲をつけて、高笑いをして返事を返していく。
しかし、どうも返事の返し方が気に食わないのか、衛士はチッと舌打ちをして頭の横にロングソードを立てて八双に構えた。そしてジリジリと迫って来る。
自分の間合いに入ったのだろう、衛士は踏み込み剣を打ちおろしてきた。
「はっ、」
私はガウンドレスのポケットに手を入れて赤いパーティファンをを取り出すと衛士の目の前にパシンと態と音を出して展開させた。一瞬、衛士の動きが鈍った。目眩しになったかな。
すかさず、ファンを閉じ、相手の懐へ踏み込み、振り下ろされるソードの刃のないリカッソに当て、刃の下を滑らせて体の外に剣筋を変えて行く。
シャラァーン
衛士は流された剣筋を治して切り掛かってくる。だけど、私も再び扇の要近くを剣のリカッソに当てて親骨の上にソードを滑らす。実はパーティファンの骨を金属製に変えてスペシャルオーダーメイド。
シャラァーン
更なるロングソードの打ち込みにもパーティファンで剣筋を滑らしていく。
相手の利き手を読み取り、私は自分のファンの持つ手を変えている。そうすると去なしやすいんだよ。
シャラァーン
衛士隊の使うロングソードは直刀で相手を押し切る剣筋なんだ。普通は剣を剣で受け止めるとキンッと金属音がするのだけど、私のは受け流すからこんな金属の擦れる音になるんだね。
シャラァーン
今度は振り切られる前にファンでブレード部分を絡め取り、クルリと回す。
捻られては堪らんと彼はソードを手放してしまった。ロングソードは勢いのあまりに空を舞い、離れたところに刺さる。
パァーン
そして空になった腕の合間に大上段から振り下ろしたファンの親骨を叩きつけて昏倒させた。乾いた叩音がホールに響く。
そして更に、もう一人、大声をあげてロングソードを構えて切り込んできた。
「このクワセモノがぁ」
「食えないのはそちらでしょうが」
しかし。哀れ、同じようにソードを去なして絡み取てり、空中に飛ばしたところをパーティファンに叩いて、一貫の終わりと。
間を置かずに新たに衛士が来る。
しかしながら1人ずつしかガラス片でできた谷に入れないのね。通路が狭い上、少しでも端によると砕けたガラス片を踏んで滑ってしまう。
おかげで私も多勢に対応しなくて済んでいるんだ。
おっと余分なことを考えていたんでかなり接近を許してしまった。今度の相手はロングソードを下手に持ち斜に構えてきたよ。
私は空いている片手をスカートのスリットに差し入れてナックルダスターを嵌めておく。相手が踏み込みロングソードを振り上げるに合わせてファンを横手から擦り付けて剣筋逸らして空を切らせる。そのまま跳ね上げて、伸ばされて空いた腕の隙間から、拳を打ち込み、
「インパルス」
顎を殴りつけた。衛士は避けることもできずにまともに拳が入って崩れ落ちてしまったよ。
そこへ、
「ゾフィー殿、右手の山の上に人影がっ」
後ろから殿下の声が聞こえてきた。
「了解です。インベント! <ヴェントゥス・プロケッロースス・グラディウス>」
風刃
間髪入れずに、殿下が教えてくれた方に風刃を飛ばした。案の定、積み上がるガラス片の上から弓兵が1人、私を狙っていた。
ご苦労なことに昇りにくい破片の崖を登ってきたんだろうて。ズボンの下は血まみれじゃないのかな。
風の刃が弓兵を弾き、辺りのガラス片ごと反対側に落ちて行った。すると複数の悲鳴も聞こえてきたところを見ると同じように登ってきた仲間を巻き込んで落ちて行ったのだろう。ご愁傷様。
「殿下、ありがとうございます。おかげで安心して前に集中できますよ」
私は、改めて親指を立てたサムアップを殿下に見せた。殿下もぎごちないながらもサムアップを返してくれる。
やっぱり良いなあ。こう言うやりとり。
こんな雰囲気をいつまでも感じていたいのだけれど、そうは問屋が卸さない。新手が来るんだね。
今度はロングソードを脇構えにして、にじり寄ってきた。
「狼藉者め、俺は相手が女だろうと子供だろうが容赦しない。覚悟しな。きえぇい」
気合い一括。ソードを切り上げてくる。
「そんなこと、素直に聞くわけないでしょ」
私は脇を狙おうとするソードへパーティファンを当て、剣筋を跳ね上げた。
でも、敵もさるもの引っ掻くもの、直ぐ切り返してロングソードを袈裟斬りにしてきた。これは剣筋が合わせにくい軌道になるから足を曳き体を捌いて避ける。すると相手は傘にかかって切り込んできた。
切りおろし、切り上げ、また切り落とす。私は体を捻り、足を滑らせて避ける、避ける。避ける。
何合か避けて左袈裟斬りをしてきた時に、相手の間合いに踏み込んでファンの親骨で持ち手を叩いてやった。そして痛みにロングソードを取り落として無防備になったところでナックルダスターを顎に叩き込む。相手はもんどり打って倒れていったよ。
「さあ、次!」
しまった! 勢いに任せて余分なことを。自分で相手を呼び込むようなことをしてどうするの。
思わず、苦笑してしまう。
「なかなかの技量をお持ちだ。しかもこんな場面で笑うことができるとはな。肝もすわっている」
ほら見なさい。誤解されたみたいだよ。
身長も高く細身な衛士がゆっくりと歩を進めてきた。グレーの髪を後ろに撫で付けて、ムスタッシュ、いわゆる口髭を生やしている。髪型といい、分厚い口髭といい、衛士でも上級クラス。隊長さんかな?
「しかし、我々もこのままというわけにはいかんのでな。どうだろうレディ。この辺りで手打ちにでもしないか。私が執り成してあなただけでも見逃してもよいのだが」
男の声は重厚感のあるバリトンボイス、低く落ち着いた感じに聞こえて渋みを感じる声なんだ。
夜の酒場でこんな声で耳元に囁かれとみろ、そこはかとない色気に絆されて、どんな事言われたって、ハイって返事をしてしまうよ。今宵、褥を共にしませんかって誘われたら、舞い上がって、あっという間に朝チュンまで行ってしまうね。
でもな、惜しい、
「大変、嬉しいお誘いなんですが、お互い、主人を持つ身でありましょ。私も旦那様に仕える一介のメイド・サーバント。主人を見捨てて、お仕えを放棄するなど、持って他でございますわ」
一度、殿下をお守りするんだと決めたこと。そんな事は私自身、違えやしないよ。
私は両手でガウンスカートの裾を摘み、片足を下げて膝を軽く曲げ、頭を垂れた。申し出の断りのカーテシーを決める。
『………一介のメイドが、ここまで暴れるのか…………』
そんな、呟きが何処からともなく聞こえてきた。悪かったわね。破天荒なメイドで!
「失礼をした。どうやら不遜な誘いをしてしまったようだ」
バリトンボイスが誠実さを醸し出す。
「私も閣下にお仕えいたす身。その心持ちは理解できる。分かりました。ここは私の全力を持ってお相手させて頂こう」
男は姿勢を正すと腰にある腰にある剣帯から剣を抜く。上方向に持ち上げ弧を描くように引き出していく。そのまま、顔の前に真っ直ぐ上に剣を立てて構えた。
見映えの良い男かどうかやると決まるねぇ。様になってるよ。私も仕草を真似てパーティファンを顔の前に真っ直ぐ立てて構えた。
見ると相手の剣は切先が鋭く尖る、細身の両刃剣。持ち手にキヨンが被さるから、レイピアだね。お互い視線を交わし、礼とした。
「参る」
衛士は刀身を顔の高さまで水平に持ち上げ、切先を私の喉元をに定めて刺突の構えをとった。
レイピアは相手を突くことが得意な剣だけど、実は受の剣。相手が近づいてきた時に剣を祓い突いていく。私が使うパーティファンの使い方と同じなんだ。
だから、私はファンを利き手に持ち替えた。その僅かな隙に相手は素早く踏み込んでレイピアを突き出してくる。
速い!
辛うじてファンの天の部分を当てる事で切先の軌道を変えることができた。衛士はレイピアを引き、次々に私を狙って切先を突き出していく。
私は、それを悉く払いのけていった。打ち払う事、数度の後、一旦、相手が体を引く。それに合わせて私が深く踏み込みファンの親骨を頭へ打ち込んだ。
しかし、相手もやるものでレイピアを引くと持ち手を顔の横まで持ち上げオクスの構えをとる。
パンッ
と、私のファンは衛士のレイピアのキヨンを叩いてしまう。
顔を打たれる事をガードした衛士は、レイピアを頭上でまわしツベルクハウで私に打ち込んできた。
踏み込んで打ち込みと、体が伸びきってしまった私は、できるだけ後足を伸ばしてレイピアの刃を引いていないリカッソの部分を肩に当てて剣撃を防いだ。
ドレスの生地が解れなきゃ良いんだけど。特製ドレスの手直しって結構、費用がかかるんだよ。
そのままの姿勢で前に進み、振り返ると衛士たちに背を向ける形になってしまった。
早速、背の方から
ヴィン
と、クロスボウの蔓が振れる音が聞こえてくる。でもガウンドレスが風の鎧を纏っているから、矢が脇をすり抜けていく。
なまじっか、私が相手をしていた衛士の左腕を掠めた。同士討ちになってしまったんだよ。
『矢を射るでない。味方に当たる。辞めい』
それ以来、矢が飛んでくる事も無くなった事はよかったけどね。
再び、衛士と相対する。私が仕切り直しに斜に構えると、早速、切り付けてきた。袈裟斬りに切りつける寸前に衛士は腕を捻り刃が下を向けて突いてくる。
えっ、ハンデロール。思ったより切先が食い込んでくるよ。
辛うじて避けたけど、衛士は鳩尾や喉を狙って突きを連続、そこから足を狙って表刃を切り下げ、手首の裏を狙って裏刃の切り上げ、変幻自在の剣捌きを見せてきた。レイピアがまるで蛇のようにうねって見える。
私も必死にファンで攻撃を払いのけていった。でも、剣の捌きは相手が上。次第に押されてしまった。
とうとう、喉元の突きを避けようとした時に、足捌きをミスって蹈鞴を踏んでしまった。
そこへ衛士に思いっきり踏み込まれてランドを撃たれた。体を目いっぱい伸ばしての渾身の突き。
でも、ミスしたのは私の誘い。鍔迫り合いを終わらせるための布石。
体を差し込んできた腕の外側に捻って転回する。そのまま捻りを止めずに腕を振って肘を相手の額の横、顳顬にぶち当てた。
衛士は死角となるところからの攻撃を避ける事ができずに撃ち倒された。床に投げ出されて首があらぬ方へ向いてしまっている。
まあ、このくらいの攻撃なら事切れる外はあるまいて。
やっと倒す事はできたけど息があがってしまった。肩を上下させて深い息を履いてしまう。
『隊長がやられたあ』
『嘘だろう。あの人、剣聖の候補だったんだぞ』
『あんな奇々怪界な奴に負けるなんて信じられん』
荒い息を出しているなか、衛士たちの間からどよめきが起きる、そんな叫びなんかも耳に入ってきた。
やっぱりね。相当な剣の使い手だったんだ。あのまま、打ち合いを続けていたら、負けて倒れていたのは私だったかもしれないな。
一息ついて、倒れた衛士から視線を奥に向けて見ると、驚愕の目でこちらを覗く奴らが見えた。
人のことをなんて目で見てくるんだ。私は化け物か? か弱き乙女なんだけどなあ。傷つくなあ。
いつまでも慄いた目で見られるのも嫌なんで、気分を変えるつもりで、私は広げた指で前髪を下から掬い上げた。そして恐怖に怯えた目で見返してくる衛士の奴らを指刺すと、
「なあ、あんた。そこのあんただよ。そうそう、そして横の奴。ちょっと頼みかあるんだけど聞いてくれるかな?」
自分たちは関わりはないと逃げ腰になっている奴らに、
「あんたらの仲間でしょ。いつまでも冷たい床に寝転ばしておいちゃいけないんじゃない。引き取りに来てくれないかなぁ」
ちょっと頼んでみた。いつまでも意識を失って倒れ続けられても、足が引っ掛かって邪魔以外の何者でもないんだよ。
「多分、死んじゃいない。生きてるよ。迎えに来てやりなよ」
どうだ! 私って優しいじゃない。そう思いませんか。衛士の皆さん。
「その間は、こっちは手を出さない。約束してあげるよ」
でも、こうまで言っても衛士の間で動揺が走るだけで、誰も動こうとしなかった。
全くもって意気地無しなんだから。
「早く、来なさい。レディの手向だ。私は手を出さないであげるから。な!」
私はクルリとスカートを翻して衛士に背を向けて奥に歩を進めた。そのまま、振り返りもせずに殿下のいるところまで歩いていった。
のだけれど、未だに後ろで衛士隊が動く気配がない。全くもって腰抜け揃いガァ。
「早く、取りに来ないと、みんな焼き払うよ」
私は後向きのまま、片手を上げて、
「インベント! フランマ」
脅しのつもりで手のひらに、小さい火を灯した。そこまでして、やっと向こうが騒がしくなっていく。衛士たちが重い腰を上げて助けに向かってくれたんだろうね。
でも、後ひと押し。私は振り向き、
ダン!
床をシューズで踏みつけ、笑顔で催促してあげた。
「お早めにお願いしますね」
早く助けてやれよ。腰抜けども!
ありがとうございました




