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恋と霧雨のサナトリウム

 地上へ出ると夜明け直前、王都の空に赤紫の霧がかかっていた。サナトリウム(結核療養所)として廃された白亜の建物が、毒霧散布の据付塔へと改造されている。


 レオンの負傷は悪化し、私は廊下の病室で臨時オペを決行。視聴者は十五万、医療タグの医師ID《灰猫Dr》がチャットで止血動脈の位置をアドバイス。


 私は手を震わせながらも銀柳軟膏と〈陽だまり花〉オイルを混ぜた鎮痛剤を注射。レオンが苦痛の中で微笑む。「リュシア…もし俺が死んだら…ログを消さずに残してくれ」


「死なせないわ」私は声を震わせた。視聴者が《尊い》《がんばれ》で埋め尽くす。


 治療を終えると、建物屋上の散布塔に王太子の旗が翻っていた。塔下の霧散布装置は30分後に全起動。私は休む暇なく解毒弾の調合へ入る。


 レオンが壁に寄りかかりながらカメラを構え、「俺の目に映るお前を、最後まで撮りたい」と囁く。その声が配信に乗り、チャットがハートマークの嵐。


 私は花粉フラスコにエタノ酸と銀柳抽出液を加え、ポプラを核として封入。試作〈花粉閃光弾〉が完成。


 散布装置周囲には王太子直属の青衣兵が待機。レオンは肩を押さえながらも剣を抜き、私はポプラと共に突入。


 一陣の銃弾が雨のように降り、私は閃光弾を投擲。爆ぜる花粉と光が兵の視界を奪い、同時に銀柳反応で毒霧を分解。


 屋上へ飛び出すと、王太子ユリウスが蒸気管に手をかけていた。「やっと来たか、薬師。これが貴様の罪の証明だ!」


 私はマイクを向ける。「視聴者十八万、あなたの演説をどうぞ」


 ユリウスは狂気の笑みで毒霧バルブを全開放。赤紫の霧が渦を巻き王都へ。だが直後、塔外周の空送ファンが停止した。視聴者チャットが《換気塔の外部電源カット成功!》


 事前に〈辺境薬師チャンネル〉の視聴者工兵隊がボランティアでファンを破壊していたのだ。毒霧は塔内に留まり、自爆装置のように充満していく。


 ユリウスは狼狽し剣を抜く。レオンが前に出るが傷が開く。「下がれ!」私は叫び、ポプラを巨大化させユリウスへ投げつける。スライムが彼を覆い拘束。


 毒霧の濃度が限界。私はレオンと共に塔外へ飛び降り、閃光弾を塔内部へ投下——真白な閃光と共に霧が分解され、ユリウスの悲鳴がこだまして消えた。


 瓦礫の上で私はレオンの額に手をやり涙ぐむ。「終わったの?」


 レオンが微笑み指で私の頬の涙をすくい、「まだだ。王太子は倒したが、宰相と錬金ギルド評議会が残ってる」


 私は彼の体を抱き寄せる。「じゃあ一緒に終わらせよう。配信はまだ続くわ」


 夜明けの光が霧残りの空を裂き、配信画面に虹が映った。視聴者が《続行!》《我らが辺境薬師!》と叫び、次の“王都決戦編”開幕を告げた。



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