邪教の薬壺
エレベータを抜けると、白蛇教の地下聖堂が現れた。天井一面に輝く蛍石ランプが、不気味な緑光で粘液質の壁を照らす。通路中央にはアルミ合金の薬壺が何列も並び、液面には白い蛇革が膜を張っていた。
私の背後で視聴者カウンターが十三万を示す。《ここがラスボス?》《早く壺割って!》
レオンは肩の痛みを押して剣を構えたが、私は手をかざして制する。「壺の中身は揮発性。この空間で割れば私たちが先に死ぬ」
私は薬壺を調べ、液中に浮く錬金刻印を読み解く。「溶媒は濃縮ユグドラ樹液…それなら逆反応で固化させられる」
ポプラを試験管へ少量絞り、私が崩した〈静息草〉粉末と混ぜると黄色→黒→白と三段階に色変化。視聴者がチャットで計測式をスクリーンショットし“再現動画”を投稿、即バズワード入り。
私は反応液を薬壺一つに投入。液面が瞬時に白濁し、ゼリー状に凝固。蒸気が鎮まる。「OK、これを連鎖させれば毒液は全部無効化できる」
だが祭壇奥から拍手が響いた。白蛇教教祖リドゥ。蛇骨の杖を携え、瞳孔が縦長に収縮している。「素晴らしい知識だ。しかし無価値だ。毒はもう王都へ運ばれた」
彼が杖を振ると、天井の石板が開き白蛇の大群が雪崩込む。その鱗には乾いたレッドラグナ粉末。レオンが即座に盾で弾くが、跳ねた粉が空気へ舞う。
私はポプラを全開放。スライムが蛇を飲み込みゲル化するが数が多い。視聴者がチャットで警告。《酸性霧を!》《水を撒け!》
私は蒸留器残骸からエタノ酸瓶を奪い噴霧器へ設置。レオンが蛇を誘導し、私は酸性霧を一斉散布。粉末が気泡と共に沈殿し、中和反応の熱で床が蒸気を上げた。
リドゥが呪文を唱え、杖の先から黒炎が走る。私は咄嗟にポプラを盾にし火炎を吸収。スライムが焦げ茶に変色しつつも耐え、逆に粘液射出でリドゥを拘束。
捕縛の瞬間、視聴者が十六万。スーパーチャットが炸裂。私は配信マイクへ宣言。「白蛇教、壊滅確認。だが毒液は王都へ。次回配信で必ず止める!」
回廊最深部の搬出用トロッコ軌道が、王都中央サナトリウムへ直通していると判明。レオンが肩を押さえつつ微笑む。「行くぞ、王都が待ってる」