毒は花粉よりも甘く
王都を発った翌朝、私とレオンは赤い夜明けを背に峠を下っていた。ポプラは馬車の窓に張り付き霧の粒を舐めている。常時八千の視聴者が追放劇を見守る。
「眠れたか?」レオンが問う。「カメラが回ってるのに?」私は肩をすくめるとチャットが笑いの絵文字で埋まった。
私は花粉サンプルをルーペにかざす。昨日のカップに付着していた粉──陽だまり花は蜂蜜香を強めるだけ。
「じゃあ毒は?」
「殿下は粉を口内に仕込み自作自演した。でも〈灰竜の舌〉を混ぜた別の犯人がいる」
その時、馬車が急停車。道が王都衛兵の封鎖線で塞がれていた。ポプラを地面に染み出させる。戻ってきた体色は銀──灰竜の舌の痕跡。
「解毒煙幕を作るわ」
私は緑の粉を焚き、深緑の煙で周囲を満たす。ポプラが煙を吸い込みラズベリー色に変わった。
視聴者数一万。《GJ薬師!》投げ銭の雨。しかし同時に速報が走る。
【臨時会見】王太子、毒殺犯逃亡と指名手配
私の顔に懸賞金十万金貨。レオンが苦笑する。「盛り上がってきたな」
私は朝日を睨み返し宣言した。「ならば百万の目に王太子の罪を晒すわ。真実の甘さを味わわせてあげる」
馬車は再び走り出す。見えない戦争の鐘が遠くで鳴っていた。