第二話
本来歩けばすぐのカナの家に着いた頃には、息が切れ、息を切らして、自然と手を膝に付いていた。
「ど、どうしたの?」
ドアの隙間から覗いたカナが、すぐに出てきて背中を擦ってくれた。落ち着いたが、少しだけ口の中に血の味が残った。
「そ、そうだ!ほら、これ!カナが…」
見せるはずの観覧板を家に忘れてきてしまった。
「あはは!なになにアセアセしちゃってぇ。あたしがなんだって?」
(こんな時でもカナは可愛いな…じゃない!)
「カミの儀式に選ばれたって話──」
「知ってるよ。二日前くらいにドウレンさんが伝えてくれたからね。」
「俺、今まで他人事だからあんまり儀式の事気にして無かったけど…。カナに、あんな得体の知れない儀式に参加して欲しくない。」
カナはこの事を見透かしてたかのように、微笑んだ。いつもカナは俺の事を”予測”している。こんな事をすると思った。なんていつも俺の事を予測して、当たったらこんな風に微笑む。
「しおらしくなっちゃって、いつも通り前向いてよ、ほら!」
手加減なんか感じない、背中をスパン!と引っ叩くカナ。…まったくカナには勝てないや。
「…いつも痛えよぉ。」
「成長痛みたいなもんよ。気にしない気にしない…。」
たまに母さんみたいな事を言うカナ。不安になった心を埋めるようないつもの姿に、ほっと一息。
「たしかに不気味だよね。カミの儀式かぁ。こう、ガブッといくのかもね、獅子舞みたいにね。ガブッ!」
牙を模した手で顎と頭皮を挟まれた。やっぱり少し痛い。
「噛みの儀式ってことかぁ…。」
「そうそう!そういうことよ。やっぱわかるねぇ…。」
カナは顎に手を当て、目を細めて、ニヤニヤしている。
「目を細めると、目が悪くなるんだぞ。」
「あははっ!なにそれお母さんみたい。」
わざとらしく、お腹に手を当て大きな声で笑う。
「そんなにかぁ…?」
少し前までの不安は、サッと消え去った。カナは、いつだってカナだ。