第一話
ある冬の夜、俺は帰れない場所まで走った。
俺はリュウジ。足だけは速い男だ。学校では野球部とかサッカー部とかに良く誘われていた。でも、俺は部活動はしなかった。
2軒挟んでご近所さん、小さな八百屋の二階には幼馴染のカナが住んでいる。ふと見せる笑顔が可愛くて、いつもは凄く強かな ──俺の彼女。
俺は中学の卒業式で、思い切ってカナに告白したんだ。
肌を突くような寒風が吹き、少し寂しさを感じさせる空気が残る。
校門近くの古木の下で、シンプルに伝えた恋が一歩進む為の言葉。
帰ってきた返答は「はい」と一言。いつもはハスキーな声で話していたカナは、その返事の声色だけは少し高く感じた気がする。
捻りない言葉の交換。互いにうるさく鳴る心臓の音を聴き、少し安堵した。
その日の帰り道は、いつもより長くて、少し長引いた寒さなんて感じない位、暖かい夕日に照らされた。
俺達の住む町には「カミの儀式」という物がある。
四年に一回行われる物で、その年に選ばれた町の住民が、カミと呼ばれるナニカを受けるらしい。
社の中でカミを受けた人は、少し気怠げに肩を下ろしつつも、少しだけ身にのしかかる重圧を取り除かれたかのような足取りになる。
小さな頃から(なにされてるんだろう?)とは思いつつも、夏季オリンピックの次の年には行われる儀式。関係ない物と割り切りつつも、そこに来るフランクフルトが好きで、四年毎にちゃんと通っていた。
そして今年で俺は16歳。ついでにこの夏は「カミの儀式」も行われる。晴れて付き合い始めたカナとの初めてのお祭り。詐欺じみた射的も型抜きも、きっと楽しくやれるのだろう。
濃すぎる位の味付けの焼きそばは、頬が落ちる位美味しかったと、補正をかけてしまうだろう。
多分、カナなら全部楽しんだ後に「馬鹿馬鹿しい」って笑ってくれるから。
「はーい。」
いつものご近所さんから観覧板が届いた。飲食店の欄は飛ばして、「カミの儀式」の対象発表の場所に目を運ぶ。
「──カナ…?」