非勇者の挑戦
◇
祝祭は三日三晩続いた。
迎えた式典の日、王宮。王家の勇者達が、赤い絨毯の左右に立ち並んでいた。
その中央を、リリは歩いていた。
背筋を伸ばして歩く彼女の姿を、膨大な出席者の最後方でカイトは見守っていた。
彼はリリの懇願を受けた特例措置として、非勇者ながら式典への出席を許されたのだった。
王の前で、リリは厳かにかしづく。
王は、『最上位勇者』を示す冠をリリの頭上に掲げ、ゆったりとした動きで載せた。
王は勇者の偉業を讃えはじめる。美麗で荘厳な言葉を尽くして。
リリは膝を折り、じっと目を閉じたまま聴いている。
長年成し遂げられなかった困難さ。立ち向かう勇気と優れた力。王国へ平和をもたらした偉大な成果――
長大な言葉の中で、王からある言葉が発せられた。
「非勇者が、偉大な勇者の『しもべ』として尽くした」
非勇者をわずかでも戦力として認めることは、王宮においてかつてないことだった。ざわめきが起こったが、すぐ美しい言葉の奔流に押し流されていく。
――カイトが胸に違和感を覚えたのは、そのときだった。
自身を見下ろすと、胸にかすかな紫の炎が見えたのだ。
カイトは胸を押さえつけた。手の甲の向こうで紫が大きくなっていく。鼓動が早くなる。
王の話が終わると、王宮は割れんばかりの拍手で包まれた。
続いて、側近によって長い報奨の数々が読み上げられた。
炎は大きくなる一方だ。カイトは、胸の上から炎を握り潰すように力を入れる。
だが炎は、身体の内側を食い破るように膨らんでいく。痛烈に熱っぽくて、甘く、満たされる感覚が伝わってきて――
王は問うた。
「偉大な勇者、リリ・ムーア。望む願いを叶えよう。汝、何を願う?」
「報奨はいりません。
ただ一つ願います。
非勇者差別の撤廃を」
その瞬間、
カイトの胸の紫は消えた。
◇
リリの『願い』は、猛烈な議論を巻き起こしたが、たくさんの古文書をひっくり返して得た調査結果が決定打になって、なんとか是認された。
その中で、マルクの研究が再び脚光を浴び、彼の名誉回復がなされた。
だが、『願い』の実現は道半ばだ。
魔族の生き残りたちの攻勢は強く、社会変革に集中する余裕はなかなか生まれない。
烙印を押す者はいなくなったが、今度は血統による差別がはじまった。親が非勇者の子供たちは、いまだ酷い仕打ちをうけている。
マルクの尽力で、勇者と非勇者が協力して戦う仕組みが軍に導入されることになったものの、機能している状態とは程遠い。
深く染み込んだ穢れの意識が消えるには、途方もなく長い時間が必要になるだろう。
だから、カイトとリリは今日も戦場に立つ。
二人の背中が、雄弁な言葉になると思うから。
戦場の最前線。
忌み嫌われたその手を、リリは握りしめた。