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約束の飛行船  作者: 清松
第3章
8/25

飛行船追っかけ十勝ドライブ① ~帯広へGO!~

6月最後の土曜日に係留地へ行った時、橋立さんから、

「来週金曜日に黒汐町(くろしおちょう)へ移動フライトの予定になっている」

という話を聞いた。

黒汐町は、十勝地方にある海沿いの小さな町だ。そこにあるスカイスポーツ公園と言う所に、巨大な格納庫が隣接している。元々宇宙開発事業関連の施設らしいが、飛行船は年に一度、そこで耐空検査という法定点検を受ける事となっている。整備の出来る施設は他にもあるようだが、耐空検査を実施できるのは、全国でも黒汐町だけらしい。

だから飛行船にとって北海道は、家みたいなものだと俺は思っている。必ず戻ってくるべき場所。黒汐町と言う町は、飛行船のスタート地点であり、ゴール地点なのだ。そんな重要な場所が、自分の住むこの北海道にあるという事が俺は嬉しい。



そうして今日がその、移動予定日の金曜だ。俺はもちろん授業があるので、係留地ではなくて学校にいる。いつもの食堂で、いつものカレーセットを頼んで、秀司と一緒に昼休みを取っている所だ。

「飛行船、無事に黒汐町に向かって移動フライト出来たみたいだなぁ」

俺はスマホでSNSを見ながら呟いた。

「飛行船ってどのくらい黒汐町にいるの?」

定食のご飯を頬張りながら、秀司が聞いてくる。

「耐空検査自体は約1か月くらいなんて言われてたりするけど、実際そんなに長くないよ。2、3週間くらいじゃないのかな」

「ふーん。じゃその間シュンは飛行船お預けか」

「まぁ札幌には飛行船はいないけどね。俺の方から黒汐町に見に行くからさ」

「そっか、そうだよな。ホント好きだもんな」

秀司はこういう事を言っても俺を変人扱いしないから、好きだ。別に変人扱いされても気にはしないが。俺にとっては普通の事だから。

「て事は、明日辺りもしかして見に行っちゃうの?」

「へへっ、バレたか。ちょうど土曜日だからな。早速行ってこようと思ってるよ」

俺はニヤニヤしながら親指を立てた。

「もしよかったら、秀司も一緒に行くか?」

半分冗談、半分本気で言ってみた。即答でNOと言われる事を想像していたが。

「俺も一緒に行ってもいいの?」

意外にもちょっと乗り気な雰囲気の返答で、俺の方が調子を狂わされる。

「え、全然いいよ。本当に行く?」

「来月からまた実習で忙しくなるしさ。その前に、せっかくだから楽しい事しとくか」

「おぉ! じゃあ、一緒に行こうよ! 明日は日帰り十勝ドライブだな!」

急遽、秀司との長距離ドライブが決定した。





翌朝8時半頃、秀司を車に乗せて札幌を出発した。

2人で出かける事は珍しくはないが、今日ほどの遠出は随分久しぶりだ。去年の夏に一度、2人で日本最北端の宗谷岬まで行った事がある。十勝はそこまで遠くはないけれど、それでもそこそこの長旅だ。


飛行船は耐空検査の期間中は格納庫に入り、終わるまで外に出される事はない。俺の今までの経験上では、黒汐町へ移動フライトをした後にすぐにハンガーイン(格納庫に入る)するという事はなく、何日か十勝の空を飛んでから耐空検査に入るという流れだった。今回もそうだと踏んで、特に何の情報もないままだが十勝方面へと車を走らせている。変な話、万が一飛行船が見られなかったとしたら、そのまま観光でもすれば良い。十勝には良い所がいっぱいある。



高速道路を走り始めた頃、助手席でSNSをチェックしてくれていた秀司が、あっと声を出した。

「飛行船SS号、今日は帯広周辺をフライトしますって出たよ」

「了解。じゃあ、行き先は黒汐じゃなく帯広に変更だ」

アクセルを踏む足に力が入る。まだ見えないターゲットを追い求め、俺はひたすら走り続けた。



途中のパーキングエリアで一度トイレ休憩を挟んで、俺達は帯広へと向かった。インターチェンジを降り、一般道で市街地方面へと車を走らせていると、遠くの空に浮かぶ飛行船を見つけた。

「わぁっ! いた! シュン、いたよあそこ~」

「何だよ、先言うなよ。俺も言おうと思ってたのに」

何故か俺よりも興奮している様子の秀司がおかしくて、笑ってしまった。彼にとっては、今年初の飛んでいる飛行船だ。

位置的に、十勝大橋付近の上空を飛んでいるな、と思った。あの辺りも栄えていて、人も車も多い。





挿絵(By みてみん)




飛行船は、十勝大橋から伸びる国道の真上をまっすぐに進んでいた。俺達も橋を渡って国道に入り、飛行船の後ろ姿を追うようにして進んだ。

「すげぇ。なんか飛行船とレースしてるみたい」

秀司がはしゃぐ。

「札幌でも、大きな通りの真上をまっすぐ飛んでる事あるよ。面白いよな」

しばらく進んだのち、飛行船は進路を変更し帯広の市街地方面へとUターンし始める。札幌と違って、とても追いかけやすい。この辺りも栄えてはいるのだが、栄え方が札幌のような都会とはちょっと違う。駅周辺などは高い建物もあると思うが、こちらは空の視界が圧倒的に広いので、見失う事が少ない。鬼ごっこのようにその姿を追いかけては、いつの間にか追い越して……そんな事を繰り返して、飛行船とたっぷり遊ばせてもらった。

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