仲良しのオッサン2人
飛行船SS号 5/28(土)北海道・岩水海岸公園係留地
前回の動画のタイトルをコピー&ペーストし、日付の部分だけ変える。昨日はフライト中止で素材自体があまり長くないので、編集はあっという間に終わってしまった。無事に投稿が済んだ動画を、念のためもう一度冒頭からチェックしていく。特におかしな所はないようだ。ごうごうと風の音が騒々しいくらい。これもまたリアルな感じがして良いだろう。
スマホに、秀司からメッセージが届いた。『今何してる?』と書かれている。
秀司とはあまりにも仲が良く、暇さえあればどちらかが呼び出していつも会っている。放課後も一緒にレポートを書いたり、学校帰りに遊びに行ったりする事も、しょっちゅうだ。
俺は専門学校に入る時、もうこの歳になって今さら新しい友達を作る事もない、なんて冷めた事を思っていたものだった。学校にはただ勉強をするために通うだけ、そう思っていたはずなのに、それどころか親友が出来てしまったのだ。彼との出会いには特別なものを感じている。
『なんもしてないよ。ドライブでもするか』
そう返信し、俺は車のキーと財布を握りしめて家を出た。
秀司を車に乗せて、岩水海岸公園へと向かった。ちょうど良いから飛行船を見せてやるよ、と言って。
今年は初だが、これまでにも秀司を係留地に連れて行った事は何度かある。秀司は別に飛行船ファンと言うわけではないが、見るのは好きらしい。
今日も強風が続いており、フライトは中止。飛行船はマストにくっついて、激しく船尾を上下させていた。
「いやー、やっぱ近くで見るとデッカイなぁ」
吹き付ける強風に少し顔をしかめながら、秀司が言う。
敷地の周りを取り囲むように生えた背の高い雑草の、一部途切れた所が係留地の入り口だ。そこを入ると、左手側にトラックが2台停められている。俺と秀司が敷地内へ入っていくと、トラックの間からクルーが出てきて、こちらに気付いてくれた。
「Oh! コンニチワ!」
今日は、背が高くてガッチリ体型の外国人クルーの人だ。確か、橋立さんがマシューと呼んでいた気がする。飛行船のクルーには、外国から来ている人も何人かいる。俺の顔は皆さんにすっかり知られているので、外国人クルーさんでも、まるで友達に会ったかのように挨拶をしてくれる。
秀司が一緒である事を知ると、彼はトラックの中へと入って行った。
「秀司にきっとプレゼントをくれると思うよ」
「プレゼント?」
やがてマシューさんは、スカイ君のキーホルダーと飛行船のマグネットを持って近づいてきた。彼は俺ではなく、秀司の目の前に立つ。
「コンニチワ! These are for you」(これをどうぞ)
一瞬戸惑いながらも秀司は、「ア、アリガトウ……」とおかしな発音で言ってそれらを受け取った。俺は隣でちょっと笑ってしまった。そこはサンキューじゃないのかよ。
マシューさんが去るのを待ってから、秀司は俺の顔を見た。
「すげぇな。何がすごいって、俺だけにくれる所な」
クルーの人達は、もう俺がここに通い詰めていてグッズをほぼ全種類持っている事を知っているので、新作が出ない限りは渡しに来ないのだ。
「シュンがどれだけここに来ているかがよくわかるよ」
「へへへっ、そうか? 昨日も来てるしね」
「よくも毎日来て飽きないもんだなぁ」
「飽きるもんか。ここにテント張って毎日泊まり込んだっていいよ俺」
冗談っぽく(でも本当は本気で)言う俺に、マジかよ、と秀司はおかしそうに笑った。
せっかくなので、近づいていいギリギリの範囲まで連れて行って、秀司に飛行船を見せた。去年も一緒に見ているが、普段なかなか見られるものではない新鮮さに、彼にもワクワクしてもらえたようだ。
今日もそこそこ多い見学客達に混じって、俺は撮影もせず、秀司と一緒に純粋に飛行船を楽しんだ。普段は単独で鑑賞するのが当たり前だが、誰かが一緒だと、これはこれでまた楽しい。あれやこれやと感想を話し合える相手がいるのも良いものだ。
翌日学校へ行くと、クラスメイトの女子数人が俺と秀司のカバンを見てなんだかんだと騒ぎ始めた。
「妻木君と道下君、かわいー。なんでお揃いのスカイ君くっつけてんの?」
昨日係留地でもらったスカイ君のキーホルダーを、秀司は早速カバンに付けていた。俺は以前からずっとカバンに付けているが、急に同じものを秀司も付け出した事で疑問に思ったようだ。女子達は細かい所によく気付くものだ。
「これさぁ、シュンと一緒に飛行船見に行ったら、スタッフさんがくれたんだ。しかも外国人の、こーんなでっかい人。ヘロー! って言いながら」
マシューさんはコンニチワって言ってた気がするんだけど。
「妻木君も飛行船見に行ったんだ!2人ホント仲良いよね~」
「なまらめんこいー(とってもかわいい)。25歳の男2人がお揃いのクマのキーホルダーって」
ギャルは面白がってわざと北海道弁を使うんだよな。
「なまらめんこいだろ? 25歳のオッサン2人がクマのキーホルダーって」
俺はふざけてノッてやる。彼女達は高校を卒業してすぐに入学してきた元10代組だ。歳は4つほど下だが、同い年の友達と変わらない態度で接してくる。俺はそれが心地良い。何というか、妹のような感覚だ。
「そこ行くともらえるの? 私も欲しいから飛行船見に行ってみようかな」
「お、ホントに? 行きな行きな! なんなら俺が連れてってやろうか」
「いや、いいです」
「なんで即答なんだよ」
女子達はキャッキャと笑いながら、どこかへ行ってしまった。
「……さすがにお揃いは、気持ち悪いかな?」
秀司はカバンのスカイ君を指で弾いて、苦笑した。
「俺は別に気にしないけどね。飛行船ファンとしては、つけててくれたら嬉しいけど」
「うーん……そっか。じゃあまぁ、つけとくか」
この日から俺達は、お揃いのクマで周囲に仲良しアピールをするオッサン2人になってしまった。