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オルドスと謎の盗人

 空を見上げるとまだまだ明るく、ようやく太陽が頂点に上った時間頃

 オルドス達は未だリランドの鍛冶屋に居た。

「……なあ、図書館に行くんじゃないのか?」

 オルドスは不満そうな音を体から鳴らす、それに対してネルとリランドはそれぞれ工具を操り槌を振るっていた。

「勿論行くって言ったわよ? でもその前に……」

「オメェの機能とやらを試してみたいじゃねぇか!」

 そう言って作業が終わったのかネルは武骨な機械の両腕をオルドスに見せてきた。

「はいこれ! 取り付けてみて」

「……わかったよ、見た目以外は今の腕と何が違うんだ?」

「せっかちだな、着けてみりゃわかるぜ?」

 言われた通り腕を付け替えるオルドス、何度か両腕を握るが少し重量があるようだがそれ以外に違和感はない。

「おや、オルドス殿……右腕の後ろ側が違うようですが」

 ヴァレットが指摘された場所を見ると肘の付近に親指ほどの穴が開いていた。

「なんだこれ」

「機械の貴方ならなんとなくわかるんじゃない?」

 そう言われても……と思ったオルドスだがふと腕に魔力を流し込んだ瞬間。

 きわめて強力な噴射炎が発生した。

「うおぉあぁっ!!?」

「はっはっはっ!! 内部に仕込んだに魔術装置を起動して強力な推進力を発生させるロマン兵器!! ロケットアームだぜ!!」

「あの……リランドさん」

「なんだヴァレット! オメェはわからねぇか?このロマンが!」

「いえ、気に入らないというか……オルドス殿が壁にめり込んでます」

「あ? ……あ。やべ」

 リランドが見ると腕を突き出した状態でオルドスが肩まで埋まっていた。

 ~~~

「壊れるかと思った……」

 幸いにも軽微の損傷で済んだオルドスは右の腕を何度か観察する。

「まぁ……使い方さえ間違えなければ良い物だと思うよ」

「そ、そりゃ良かった! オルドス、左腕の方も試してみな」

 左腕を確認すると肘では無く手の甲付近の手首が僅かに盛り上がり穴が開いていた。

「こっちは右腕と違うのか?」

「やり方は同じだ、魔力を流してみな」

 魔力を流すと左手からワイヤーが射出され壁に突き刺さった。

「おおっ」

「こっちは私が考えたわ! 金剛蜘蛛の縦糸にミスリルを混ぜた特殊合糸にギミック付きのアンカーが突き刺さるの! これでかっこよく移動出来るわよ!」

 興奮した様子のネルが両手を振りながら話すがオルドスの反応は悪いように感じる、その事にネルは頬を膨らませるとオルドスに詰め寄る。

「?……ねーオルドス? 折角作ったんだからもっと何か……」

「抜けない」

「え?」

 スピーカーから流れるオルドスの声色はいつもより無機質な気がした。

「魔力を流しても全然動かないんだけどどうやって戻すんだ……?」

「……あ、刺さった後戻らない……? やり直していい?」

 てへ、と可愛らしくポーズをとるネルにオルドスは可愛かったので許した。

 ~~~

「よし、改良したわ! これならちゃんと動くはずよ!」

 何度か発射するがしっかりと巻き戻せたことにほっとするオルドス。

「これなら移動するとき便利そうだな」

「あ、言っておくけど持ち上げる重さは200㎏までしか想定していないわよ、あと危ないから人に向けちゃだめよ」

 ネルが追加の忠告をするとヴァレットが柏手を打つ。

「では皆さん、そろそろ図書館に向かいましょうか」

「あぁ、そうだった。じゃあ行くか」

 身支度を終え図書館に足を運ぶオルドス達、しかし到着するや否や大勢の人が道を塞いでいた。

「何よこの人だかり? これじゃあ進めないじゃない」

「ヴァレット、他に迂回する道は無いのか?」

「ううん、あるにはあるのですがこの人だかりで埋もれてしまっているようですね……」

 一行が困っているとふと人だかりから話し声が聞こえてくる。

「一体なんだってこんなに混んでんだ?」

「なんでも国立図書館に盗人が入ったらしいぜ、一般公開されていない禁書を盗まれたとか」

「おいおい大丈夫なのか? あれってフェルスト国の預かり物なんじゃなかったか?」

「ああ、森人族との友好関係の証明みたいなもんだったのにそいつを盗まれたとなりゃあ……」

 そこまで聞こえた辺りでオルドスはネルに質問する。

「なぁネル……」

「フェルスト国の事でしょ? 主に森人族が住んでいる自然的な国ね、魔力との親和性が高い木材とかそういった交易品が重宝されてるわ。ソサリティアからは南の方にあるわね」

「なるほどな……禁書ってのは?」

「そちらは私が、フェルスト国とソサリティア公国は互いの友好関係の印としてソサリティア公国からは精霊術を補助する魔導具を、フェルスト国からは彼らの国が保有する独自の魔術書を……しかし渡された中には危険性が高いものがあったようなのでそちらは国の判断で一般公開を禁止されています」

 ヴァレットが代わりに話してくれるとふとオルドスの中で何気なく疑問が生まれる。

「禁書ってどんな見た目してるんだ?」

 意外にもそこでリランドが口を開いた。

「おっ、それなら昔見たことあるぜ?常に魔術陣が浮かんでいてよ、如何にも禁書ですって見た目してたぜ」

「先程言った通り禁書は普通見る事は叶わないはずですが……リランドさん一体どこで見たんですか?」

「昔な、禁書の保管用の場所のメンテナンスする時お抱えの修理士が不在だった時があってよぉ、そん時白羽の矢が立って俺に依頼が来たんだよ。そん時にな」

「へぇ……その禁書ってあんな見た目か?」

 オルドスが指指した先には裏路地の方に歩くフードの女が居た、その手には隠しているようだがうっすらと赤い魔術陣が浮かんでいる本を持っていた。

「おう! まさにあんな感じで赤い魔術陣でよ……」

「……」

 全員が一瞬固まる。しかしすぐに我に返ると

「おいおいあれだよ!! 間違いねぇ!!!」

「取り返すわよ! ヴァレット!」

「了解しました!」

 ヴァレットがすぐさま走り出すと相手もそれに気づいたのか逃走を始めた、相手は相当身体能力が高いのか壁を伝い近くの屋根に登ってしまった。

「身軽な……! 『来たれ、暴風よ!』」

 驚くヴァレットだがすぐに唱えると風が吹き上げヴァレットを屋根まで押し上げる。

「……!」

 フードの女からは僅かな動揺が見られるが速度は衰えることなく屋根を伝って逃げていく。

 一方オルドス達は……

「私達も追いかけるわよ!」

「よっしゃオルドス! おめぇの新しい腕を試す機会だ! 俺ぁ後から追いかける!」

「よ、よし! 行ってくる!」

 ネルを抱え遅れて走り出したオルドスは左腕を屋根のふちに向けるとアンカーを発射する、アンカーは狙い通り突き刺さり屋根を貫くと即座にワイヤーが巻き取られ二人を運び出す。

「フードの奴は!?」

「私が作っておいてなんだけど、この移動怖いからもうやらないわ……」

 屋根によじ登ると丁度ヴァレットと挟み撃ちをする形でフードの女を追い詰めた。

「追い詰めたわよ!」

「少々話を聞かせてもらいますよ」

 しかしフードの女は臆することなく構えを取るとオルドスに向かって走り出す。

「オルドス捕まえて!」

「わかった!」

 オルドスが肉薄し両手で捕まえようとするがあっさりと避けられると胸部に強い蹴りを喰らってしまう。

「ぐっ……このっ!」

 機械の体はよろめかずそのまま捕えようとするが何度腕を振り回そうとフードの女は捕えられず何度も打撃を喰らう。

「くそっ、全然掴めねぇ!」

「私が相手だ盗人!」

 ヴァレットが接近し蹴りを叩きこむとフードの女は避けきれず初めて腕で一撃を防いだ。

 一歩下がる相手に対しヴァレットは追い打ちをかけるように何度も拳を細かく振るい、何もさせずにいた。

「いいわよヴァレット! そのまま捕まえて!」

「すげぇ、俺の入る余地がねぇ」

 このまま捕らえることが出来ると思っていたがヴァレットが突然目を見開くと大きく跳びフードの女から距離を取ってしまった。

「どうしたヴァレット!」

「気をつけてくださいオルドス殿! 今微かですが精霊への会話が聞こえました! その盗人は……」

 直後オルドスに小さな雷が飛来しオルドスを貫いた。

「あばばばばばばば!!!?」

「オルドス!!?」

 ネルが悲鳴をあげると共にフードの女が再び逃走を図るがヴァレットがすぐに接近し直す。

「貴女……精霊術師ですね、私の仲間を傷つけた償いをしてもらいますよ」

 いつの間にかヴァレットの拳には風が纏わり打撃の速度が上がっていた。

「……!」

「これも捌きますか……!!」

 フードの女も何もできずにいるがしかし魔術を使って尚先程と変わらない状況に歯嚙みするヴァレット、しかし一度精霊術を見せた為かまた精霊術を行使しようとする動作が見えると舌打ちと共にヴァレットが退こうとした瞬間。

「あばばばばっば!??」

 反射的に魔力が流れてしまったのかオルドスの左手からアンカーが発射され、右腕から強力な推進力が発生しだした。

「きゃあっ!!」

 ネルが伏せた瞬間オルドスがアンカーが刺さった場所を中心に高速で回転しだし、その勢いのままフードの女の腹部を思い切り蹴り上げた。

「ッ……!!?!」

 120kgの重量が勢いを乗せた一撃は意識を刈り取るには十分だったようで盗人との戦いはあっさりと決着がついた。

「オルドスー!! 大丈夫──!!?」

 ネルはアンカーが外れ吹き飛んだ勢いで屋根を滑り路地裏に落ちたオルドスの安否を確認しに行った。

 修理箇所は50か所あった。

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