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オルドスと馬車の旅

 カタンコトンと静かに馬車が揺れる、心地よい揺れが機械の体を揺らしてくれる。今俺達はソサリティア城に向けてネル、ヴァレットと共にもう一人の従者が操る馬車に乗っていた。

「それでは妹様には復習を兼ねて、オルドス殿は記憶が無いそうなのでソサリティア公国について簡単に説明させていただきます」

 道すがらヴァレットが俺の為にこの国についての講習を開いてくれるという。

「ああ、お願いするよ」

「はーい」

「ソサリティア公国はおおよそ400年程の歴史を持つ国です、ソサリティア公爵が過去に隣のアルキミヤ帝国から独立し主に魔術研究によって徐々に力をつけてきて。主な交易品は魔術行使の為の補助品や魔導書等ですね、お世辞にもこの国は魔術系統以外の生産に乏しい為主に輸入に頼っています。」

「それじゃあ食材や建材なんかはほとんどが他国からのものなのか?」

「そうですね、様々な分野においてほとんどが他国頼りです。しかし交易品が魔術道具等に限られているにも拘らず我が国では今日まで不利な条約を結んだことがありません、それは」

 ちらりとネルの方を見るとネルは自信満々に俺に向かって答えてくれる

「魔術が他の追随を許さないレベルで発展しているのよ、特にソサリティア公爵家の操る魔術陣は幾つも書籍が出るほど実力が高いのよ!」

「へぇ……魔術陣っていうのは?」

 俺が質問すると答えたのはヴァレットだった。

「私達ゴダート家が得意とするのは言葉を紡いで魔術を行う詠唱魔術を得意としています」

『風よ』とヴァレットが唱えると馬車内で小さなそよ風が発生する。

「このように魔術を操りますがソサリティア公爵家は陣、例えばこのように……」

 ヴァレットは羊皮紙を取り出すと真円に何本かの線が入った簡素な絵を描いた。

「こちらの魔術陣に魔力を流し込むと……」

 ヴァレットが魔力を流すと羊皮紙がほのかに光り出した。

「こちらは学園などで習う魔術陣を知るための基礎的な陣です、ソサリティア公爵は噂では公国一つを覆う程の陣を描くことが出来るとか……」

「国一つ?一体どうやって描くんだ?」

「今は誰でも出来るように羊皮紙に筆で描きましたが公爵は周囲の魔力を操り陣を描くそうです。自身が持つ魔力以外を操るというのは実体のない大気を掴むような物で非常に難易度が高いと言われているんです」

「へぇ……俺も魔術は使えるのか?」

 ふと思った疑問を口にする、機械の体で魔術を使えるとは思えないがもし使えるとしたらロマンがあるだろう。

 そう思うとヴァレットとネルは難しい顔をする。

「どうでしょう……大気中の魔力を利用する舞踏魔術や精霊に力を借りる精霊術なら可能性はあるかもしれませんが使えなくはないと思いますが、私は舞踏魔術は東の方に伝わっているという事しか知りませんし精霊術は前提として精霊と言葉を交わす事が必須となります。精霊は特別な素養でもない限り行使できるのは森人族ぐらいですね……」

「詠唱も難しいと思うわ、オルドスが動くためのエネルギーって大気中の魔力を吸収して燃料にしているの、仮に詠唱魔術を使えるとしても使うのは大気中じゃなくてオルドスが燃料にしている魔力を消費すると思うから最悪緊急停止する可能性があるわよ。私は貴方が壊れるのは嫌だから教えないわよ?」

 なんとも残酷な話だ、魔力はあるのに使い道が燃料のみに制限されているとは……思わず落ち込んでしまうが表情は動いてるのだろうか?

「だ、大丈夫よ!オルドスはきっと魔術なんかじゃ計り知れないすっごい力を持ってるんだから!」

 ネルが悟ったのか俺を励ましてくれる、だがもしかしたらブラックボックスの中に本当にすごい力とやらが眠っているのかもしれない、自分が何者なのか知るためにも解読は試した方が良いだろう。

 思わず考え込んだ俺をネルがさらに落ち込んだと思ったのか慌て始める、ヴァレットが代わりに何か言おうとした瞬間、馬車の揺れが止まった。

「どうしたんだ?こんな森の中」

 ヴァレットが外の従者に問うと

「いや何、もうすぐ日が暮れてしまうだろう?馬も疲れ始めているし何より暗闇の中森林を抜けるのは危険だし一度野宿をした方がいいんじゃないか」

 そういう声が聞こえ俺も外に顔を出すと確かに太陽が半分まで沈んでいた、野宿の仕方は知らないが少しワクワクしていると地図を取り出したヴァレットが厳しい顔をする。

「……普通の森なら私も賛成したが、場所的にこの森は影狼の森じゃないのか?」

 そう言うと従者はしまった、というように青ざめた顔をする。

「ネル、影狼の森って知っているか?」

「勿論、ゴダート領には幾つか森があるんだけど影狼の森は夜になると影狼っていう狼の群れが狩りに現れるの、どの狼も全身が真っ黒で足音が静かで奇襲に長けていて手練れの狩人でも夜は近づかないらしいわ」

 そう言ってから自分たちがその森にいることに気づいたのかネルは全身を思い切り震わせた。

「ど、どうしようオルドス……私達影狼に食べられちゃうのかしら……」

「俺は機械だから食われないだろうから、いざとなったら盾になるよ」

 馬車の中でそう言っていると外で話す二人の声がまた聞こえてくる。

「とにかくこれ以上暗くなる前に森を出るぞ、馬を走らせられないか?」

「そうしたいのはやまやまだが馬も視界の暗さに怯えちまって進んでくれそうにないんだ」

 話し声がネルにも聞こえたのかネルはハッと閃いた顔になり馬車を飛び出す。

「妹様?危ないので馬車からは出ないで下さ…」

「明るくなればいいのよね!?」

 ネルは従者の方に向き直り話す。

「え?えぇまぁ、そうですね。少なくとも足元が見えれば馬も多少は進んでくれると思いますが…」

従者は困惑しながらも答えてくれる。

 そこまで聞いて俺もネルの意図に気づくと馬車を出る。

「オルドス、貴方屋敷でやった光るやつできるわよね!?」

「多分できる、少し待っててくれ」

 そう言って馬車の屋根に上りしがみつくと自分の中を探る。

「ええと…緊急照明機能!」

 そうなんとなく叫ぶと強烈な光がレンズの少し上から放たれ暗い森をかなり先まで照らし出す。

「おおっ!これなら出発できるぞ!」

「驚きました……これ程の光を魔術で生み出すのなら手間がかかるでしょうに、魔導機械とは凄いのですね」

 喜ぶ従者と驚くヴァレットに満足したのかネルは馬車に戻ると

「さぁ行きましょう!この森をさっさと抜け出すのよ!」

 そう叫ぶと馬車は徐々に歩みを進みだす。馬も慣れてきたのか速度が上がっていく。

「見てヴァレット!あれって…!」

 ネルに言われ動かしたヴァレットの視線の先には黒い狼達が遠くからこちらを眺めているのが見えた。

「あれが影狼ですね…オルドス殿が照明となってくれなければ見えないあいつらと交戦していたかもしれません」

 噂通り、影狼は少しその場を離れると一瞬でその姿が見えなくなってしまった。

「本当に見えなくなっちゃった…」

「もうすぐ森を抜けるぞ!ハハハッ!本当に夜のうちに影狼の森を抜けちまった!しかも無傷で!」

 従者は歓喜の声をあげると近くの草原で今度こそ馬車を止めた。

 俺が屋根から降りると従者は嬉しそうに俺の肩部を

「オルドスさん、貴方本当に最高ですよ!いやあネルお嬢様が拾って来た時はほんととんでもない物拾って来たなと驚きましたがあれだけの照明を出せるなんて凄いですね!」

「そうでしょう!オルドスは凄いんだから!」

 そう言うネルの表情は自分の事のように笑顔で話している。

 そうして影狼の森を抜ける事が出来た馬車は何事もなく夜の闇をやり過ごせたのだった。

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