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オルドスとゴダート家

「それじゃあオルドスは遠い国の記憶があるの?」

「記憶というか知識というか……地球って言う惑星とそこにある一つの国の一般常識は記憶している、でも自分が何者なのかとかは何も知らない」

「へえ……凄い機械なのね貴方」

 あれから俺はネルの家で本格的な修理を受けている、彼女曰くゴダート家はこの国――ソサリティア公国というらしい―でも有数の魔術師の貴族らしい、魔術には発動するにもやり方があるらしいがゴダート家は言葉を紡ぎ唱える事で魔術を操る詠唱魔術を主としているそうで、その実力はソサリティアだけにとどまらず多くの国で注目を集めているとか。しかし……

「でもね、私には魔術を使う才能が無かったそうなの」

「それは……」

 この世界がどれだけ魔法というものに依存しているかは知らないが世界で注目を集めているほどの魔術の家系の娘が才能がないと知ると、その失望は計り知れないだろう。

「私は皆の失望を見たくなかった、お父様やお母様は気にしないでと言ってくれるけど、お姉様が魔術の才能があるから余計に私は苦しかった。だから周りの領民には才能が無いのを隠して機械に逃げたの」

 俺はその言葉に何も言えなかった。ネルは今年で9歳らしい、9歳が背負うには余りにも辛すぎる話ではないだろうか。

「…………ごめんなさいオルドス、突然話しても困るわよね。はい!修理できたと思うけど調子はどう?」

「あ、あぁ……」

 立ち上がって可動部を動かす、片方欠けていたレンズは少し形が違うがしっかりと視界が映るように、所々剥げていたボディはいつのまにか白く塗装までされていた。軽く動かすが滑らかに動く、壊れる前の体を知っている訳ではないがきっと今の自分のように綺麗だったのだろうと思う。

「凄いな、自由に動くし不快感もない」

「機械に逃げたとは言ったけど機械は大好きだもの!これくらい修理できなきゃね!」

「ありがとうネル」

 俺がお礼を言うと必死に腕を伸ばして人差し指を俺のがあるであろう部位に鼻に当てようとする……実際は胸の前までしか届かなかったが。屈んであげると改めて鼻に手を当てられた。

「でも完璧には直せなかったわ、幾つか貴方に内蔵されてる機能があるようだけど何重にもロックがかかっていて下手に触れなかったの、エラーは除去できたと思うけど」

 ロック?自覚できないがそんなものがついているのか。

「いいよ、俺自身そんなものがあるのを今知ったし」

 少しだけ申し訳なさそうな表情をするネル、俺はその頭をそっと撫でる。

「さて、これからどうしようか……」

 自分の事を知れたらいいのだが手がかりは無いし無作為に旅してまた壊れたらネルの元に戻らなければなるまい。

「それならソサリティア城に行ってみない?城下町はかなりにぎわっているし貴方の事が何かわかるかも」

「ソサリティア城……確かに言ってみる価値はありそうだな……」

 しかし場所も知らない、いやまあ場所はネルから聞けばいいのだが果たして本当に手掛かりがあるのか……などと悩んでいると

「じゃあ私もいっしょに行くわ!」

「え?」

「オルドスだけだと怪我した時直せないでしょ?それに私もソサリティア城に行ってみたかったの!」

「いや……悪いよ、体直してもらったのにこれ以上世話になっても……むぐ」

 首元にあるスピーカーを塞がれてしまう。

「何言ってるの、私が発見したんだからオルドスは私の物!だから私が面倒みないと!」

 これは多分何を言っても勝て無さそうだ。

「それじゃあ冒険の準備よ!まずはお父様にこの事を話さなきゃ!」

「え、お父様って…」

「だって黙ってソサリティア城に行ったら心配かけるじゃない?まずは許可を取らないと」

 ……ごもっともではあるのだがネルはまだ9歳だ、そんな子供を近い城下町とはいえ一人(と一機)でいくのを許可するとは……

「駄目だ……いいかいネル、お前は聡明だがまだ子供だ。自衛の手段もないうちに一人で旅を出すのはお父様許しませんよ」

「なんでよ!お姉様はこの前アルキミヤ魔術学院に一人で留学させたじゃない!」

 頬を膨らませて怒るネル、俺はネルの父の前に出され「この子を直すためにソサリティア城に行かせて!」とネルが話すが父に一蹴されてしまった……まぁ父親としては子供を一人で遠出させるのは怖いだろう。ネルの父は流れるような黒髪のネルとは真逆の銀髪だった、見たところ40代だろうか……しかしその雰囲気は統治者として相応しい威厳を発していた。

「お姉様か……いいかいネル、ローズはもう17歳だ。去年成人を迎えた上にあの娘は詠唱魔術に長けているから一人で送り出したんだよ」

 ネルの父は優しく諭そうとするがネルは納得いかないのか俯いてしまった。

「……そこの……君、でいいのかな。名前はあるのかい?」

 ネルの父は一度息を吐くと俺に視線を向けると問いかけてきた。

「オルドスと名付けられました、その前の名前は持っていません」

「ふむ、オルドスか……我が娘ながらいい名前を付ける…私はロビン・インベニス・ゴダート。ロビンと呼んでほしい、……それでオルドス、ネルは魔術の才能が無いんだ」

「ええ、本人から聞きました」

「それなら早い……私は別に娘が旅に出るのを否定する訳ではないんだ、しかしまだ9歳、私たちの国では16歳から成人としているが旅に出すには些か幼すぎる」

「まぁ……わかります」

 ネルがこちらを睨んできた、申し訳ないが本心だから仕方がない。

「……だが、娘がこうして積極的に私に提案をしてくるのは実は初めてなんだ。だから父としては是非とも賛成したい」

「……それではどうするんですか?」

 ロビンは俺の目の前に来ると全身を調べ出した。

「私は魔術師で魔導機械というものにはとんと疎いが…君は娘を守る力はあるのかな?」

 守る力……俺自身、恩人ではあるし守れと言われたら全力で守るつもりだが生憎武術を身に着けている訳でもない、盾にならなれるだろうか。

「待ってオルドス!それなら一つあるわ!修理した時鍵だらけって言ったけど一つだけ機能しているのが見つかったの!知らない言葉で読めなかったけど……」

「ほう、そうなのかい?」

 ロビンが俺に聞いてくる、俺も初耳なのだが……しかし自分のシステムを探ってみると確かにロックだらけの中に一つ、何もない機能があった。

「これか…緊急照明?」

 直後俺のレンズの数ミリ上から強力な光がロビンとネルの眼に直撃した。

「うっ…これは……」

「まぶしいっ!?」

 思わずロビンは腕で目を塞いだ……これは、ただのライト?しかしかなり眩しいらしくネルは両目を抑え転げまわっていた、ドレスが汚れる。

 目が慣れてきた二人は位置を変え目から光を放つ俺を見る。

「ううむ……灯りには困らなさそうだ」

「かっこいい兵器だと思ったのに……」

 ネルが落ち込んでしまう、ロビンでさえ苦笑いをしてくる。

「それなら護衛の心得はあるかな?」

「いや……特にないと思います、剣術とか知らないので」

「そうだな……それなら代わりに私の従者を一人護衛に就かせよう、ヴァレット!」

 ロビンが手を叩くと燕尾服に身を包んだ若い男が現れる、20代だろうか、流石に190cmの俺よりは小さいが燃えるような赤髪で引き締まった体をしている。

「お呼びでしょうか、旦那様」

「ネルをソサリティア城まで護衛してほしい、そこの魔導機械であるオルドスの記憶を取り戻すためらしい」

 ヴァレットと呼ばれた男は俺の方を向くが何も言わず笑顔を見せてくる。

「かしこまりました。それでは妹様、オルドス殿、ここよりソサリティア城は凡そ80km、距離があるので馬車で向かいましょう」

「いいの?お父様」

「君が行きたいと言い出したのだろう?オルドスが守れるのならそのまま送り出したが難しそうだからね、嫌かもしれないがヴァレットを就けるよ」

「ありがとうお父様!」

 ネルは嬉しそうに部屋を出て行った、後からバタバタと追いかける声がするが侍女たちだろうか。

「オルドス」

「っはい」

「私は機械には詳しくないが、君の心が人と変わらないのはわかる。どうか娘を守ってほしい」

「頭を下げないでください、言われなくともネルは守りますよ……いや、戦いは出来ないですけど…」

 そう言うとロビンはフフッと笑う。

「そうだな、なら戦いはヴァレットに任せて君は娘が悪い男に騙されない様にしてくれ」

「それなら任せてください」

「準備できたわ!オルドス!ヴァレット!行くわよ!」

 ネルは白いドレスから簡素な旅装束に変わり、その背にはネルの身長に近付くほど大きな鞄が背負われていた。

「あの……妹様、その荷物は」

「えっとね、オルドスのメンテナンス道具に、馬車で退屈しない様に本と、チェスボードと、おやつのクッキーと……」

「ネル……それは置いていこう」

「置いていきましょう、妹様」

「えー!?」

 準備はもう少しかかりそうだ。

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