追放されたお土産屋さん~外れスキルだと思われていた俺のユニークスキル「お土産屋さん」は普通に外れスキルだった~
「ミヤ! もう我慢ならん! お前を今ここで追放する!」
Sランクダンジョンの奥深くでリーダーが俺に告げたのは、突然の追放宣言であった。
「ど、どう言うことだよリーダー! こんなところで追放だなんて……せめて、理由を説明してくれよ!」
「お前のユニークスキル『お土産屋さん』があまりにも役立たずだからだ!」
「それを言われると立つ瀬がない」
この世界では成人する時に神の祝福を受け、一人一つのスキルを授かることになる。
例えば剣の才能を授かる「ソードマスター」とか、敵を探知することに長けた「索敵能力」と言ったように。
一方、俺が授かったスキルは「お土産屋さん」である。
ベンダー系の能力であるのだが、前例がなさ過ぎてちょっとよく分からないらしい。
いや、ベンダー系の能力自体は強いんだよ?
似た系統のベンダー系のスキル、例えば「道具屋」とか「武器屋」と言ったスキルであれば、ダンジョン内で便利なアイテムを調達することができるので引く手数多なのである。
しかし、肝心の俺の能力「お土産屋さん」について言えば、出てくるもの出てくるものダンジョン攻略に何の役に立つのか分からないものばかりなのだ。
過去に例を見ない特殊なスキルらしいのだが、物珍しさによって最初は引っ張りダコであったものの今ではすっかりパーティのお荷物扱いである。
「全く同じ村の出身がベンダー能力持ちだったから行けると思って仲間に加えたのに、肝心の能力が使えねえとはなぁ! ほんと、がっかりにも程がある!!」
「いや、そうは言うがこの前はリーダーの武器が壊れた時に武器を出して役に立っただろ!?」
いくら俺自身が役立たずと自覚しているとは言え、ここまで罵声を浴びせられると流石に腹が立つ。
と言うか役立たず役立たずと言われているだけで、別に役立たずでも何でもないはずだ。
だって、何もないところからアイテムが出てくるんだぞ!?
「木刀だよな出てきたの! ダンジョンの最深部でボスのミノタウロス相手に出てきたのが木刀だよな!? お前のお土産屋さんスキルレベルいくつだよ!?」
「レベル20とのことだ」
「普通そのくらいのレベルであれば武器屋だったら切り札となるような武器出てくるの! 木刀でどうやってミノタウロス倒せって言うんだよ! 棍棒の一撃でへし折られたじゃねえかお前の木刀!」
その節はご迷惑をかけた。
だが木刀は俺が出せる武器の中では一番攻撃力が高い武器なんだ。
許して欲しい。
「ほ、他にも武器はあるんだ。見てみろ!」
そう言うと俺はスキル「お土産屋さん」を使い武器を召喚した。
俺の手元に現れた重厚なフォルムの剣には、金属製のドラゴンが巻き付いている。
鍔の部分には深紅の石をあしらいいかにも由緒正しき伝説の聖剣と言った趣だ。
「だからさ、何回か見せてもらったけど、それただのキーホルダーじゃん! 全長5cmくらいの剣でどうやって戦えって言うんだよ!」
そう。
俺が召喚したその剣は、全長5cmくらいで殺傷能力は一切ないおもちゃみたいなやつだった。
ちなみに武器の鑑定結果はこんな感じである。
キーホルダーの剣
攻撃力+0.02
小数点以下の攻撃力と言うのはどう言うことだろうか。
いや、キーホルダーの剣でも思いっきり突かれると痛いし、攻撃力0.02は流石に低すぎると思うのだが。
「ま、まあ落ち着け。ダンジョン専用アイテムも出せるから見てみろ」
そう、お土産屋さんの真骨頂は武器なのではない。
その多彩さにある。
武器だろうが回復アイテムだろうが、何だって用意してみせらぁ。
「見ろ! このダンジョン専用のユニークアイテム、『ドラゴンの巣に行ってきました』だ! クッキー生地にチョコレートが挟まってて大変美味しいぞ!」
「パッケージだけ変わって中身はこの間見たやつじゃねえかそれ! 『オークの砦に行ってきました』と同じだよね!? 全く中身おんなじだよね!!??」
知らない聞いてない知らない。
「大体土産屋って言うなら有名な奴とか出せよ! 例えば何とかの恋人とか萩の何とかとかそう言うやつ!!」
すまない……それは権利の関係で俺のスキルでは扱えないんだ……本当にすまない……。
と言うかその辺りの有名なやつはパク……ジェネリック的な感じでなら出せると思う。
今度ダンジョン名+月で似たような黄色いカスタード菓子が出来ないか試してみるからそれで許して。
「あの、あとはジャムとかもチョットダセル……」
「重たいだろ!? 瓶とかあっても重たいだるォ!? 土産屋って言うなら持ち帰りやすいラインナップでお願いします!!」
持ち帰りやすいと言えば二等辺三角形の布とかも出せるのだが、本当に何に使うか分からないし今のままだと藪蛇どころでは済まされなさそうなので黙っておくことにする。
「とにかくだ、お前の追放は決定事項だ! 大体『お土産屋さん』ってなんなんだよ! ガラクタ屋さんに改名しろ! じゃあな!!」
突き放すようなリーダーの言葉と共に、Sランクダンジョンの最深部で俺は本当に追放されてしまった。
いや、マジでどうするのよ。
この辺りは魔物とか出ないけど、俺のスキルと能力じゃどうあっても地上に戻れない。
ここで野たれ死ぬしかないのか俺は……。
*****************************
「ようこそ、Sランクダンジョン『ドラゴンの巣』へ。折角来たんだから、お土産でも買ってきな~~~」
よく考えたら、俺のスキルは無限に食料が出てくるのでダンジョンの中でも安全な場所にいる限りは死ぬことはなかった。
今では時折現れる冒険者パーティ相手に適当なお土産を売りながらこのダンジョンで暮らしている。
流石にSランクダンジョンだけあってここに来る冒険者は質も金払いも良い。
雑なクッキーでも地上と比べて明らかにぼったくりなスポーツドリンクでも、気前良く買って行ってくれる。
まあ、金を使う当てもないしお天道様もしばらく拝んでいないのだが。
冒険者パーティについて行って地上に戻る事も考えたのだが、そのパーティが全滅しないとも限らないしそんなリスクは取る必要なかろうと思って未だに外に出ることはしていない。
今ではSランクダンジョン『ドラゴンの巣』の立派なセーブポイント扱いだ。
時折俺が元所属していたパーティの事が気になり行きがけの冒険者に聞いてみているのだが、どこかで元気にやっていると言う話は聞かないので、帰る時に全滅してしまったのだろうか。
まあ、今の俺には関係のない事だ。
今日も今日とて、俺は客となる冒険者を待ちながら一人、手のひらサイズのなぞなぞ豆本の問題を解いている。