働きすぎてクビとは?
皆さんは会社をクビになったことがあるだろうか。もしあったとしたらそれはどのような理由だろうか。会社の業績不振、ハラスメント、犯罪行為、繰り返す違反行為などが挙げられるだろう。だが私はこのどれにも当てはまらない世界で最も理不尽な不当解雇にあっている。
「酢国まじめくん。申し訳ないが我々ホワイトカンパニーは君を解雇しなくてはならなくなった。だが解雇という形では君の経歴に傷がついてしまう。だから辞表を書いて自主退社してもらいたい。」
会社の外からは見えないスモークガラスに囲まれた個室に私は突然呼び出され今上司からクビの宣告をされている。
「全くもって意味がわかりません!!私がこれまでどれほど真面目に真剣にこの会社のために働き続けてきたかご存知のはずです。勤続6年、遅刻及び欠勤なしで働き続け私なりにこの会社に貢献してきたつもりです。」
「ああ、君の真面目さと我社への愛はよく知っている。だが何事も度を越してはいけないものだ。出社せずに休むよう連絡したにもかかわらず台風でもインフルエンザでも会社に来ることによる驚異の2000連勤、やるべきことは終わっているはずなのに毎日15時間を超える労働による月200時間を超える残業。そのせいで我社では君以外には残業を行っているものはいないにも関わらず君のせいで何故か朝から晩までで電気をつけ社員を働かせているとしてブラック企業認定を受けた。」
「なんてひどい。すぐに抗議すべきです。」
上司は少しムッとした顔を見せたが、すぐに頭を抱えため息をついて話し続けた。
「この状況を説明しても傍から見れば一人の社員にだけ過剰な仕事を行わせている社内いじめだ。君に対しては再三にわたって残業と休日出勤をやめまともに働くように注意喚起を行ったが改善は見られなかった。よって自主退社を勧めるに至った。」
「そんな馬鹿なことが………。でも働くことが生きがいで私の幸せなんです。副業が禁止されているのでここでたくさん働くしかないのです!!」
「そんなに働きたいなら転職しろー!!!!!!………すまない。つい声を荒らげてしまった。だが私は君にはこの会社は少し小さすぎると考えている。君はもっと外に出てたくさん働かせてくれる会社に行くべきだ!それこそが世のため人のため、我社のためだ。君ならできる。私はそう信じている。だから胸を張って自主退社し、転職するんだ。」
上司の熱い言葉を聞き、心から感動した。私の目からは涙がこぼれ落ちていた。
「なんと……ここまで私のことを思い評価していただけていたとは、なんと素晴らしい会社で私は働くことができているのでしょう。この酢国まじめ心機一転、さらなる努力でこのホワイトカンパニーのために働く所存です。」
上司は私の熱意に驚いたのか数分口を開けてぽかんとしていた。そしてまっすぐ私を見てこういった。
「君明日から来ないていいよ。クビね。」
こうして私は職を失った。荷物をまとめ自分の全てだった会社をあとにし何年も会社に寝泊まりしていたためうろ覚えな家路へとついた。
「私はこれから………。」
寝泊まりしていたキャンプ用品を持ちトボトボと歩く職を失ったアラサー。見上げたカーブミラーに映る自分はあまりにも惨めだった。どうやってこんなに早く会社に来ているのか実は会社で暮らしているのではないかと噂されていた栄光の日々を思い出し涙がこみ上げてきた。
『あのーすいませ~ん。』
ついに女性の声の幻聴まで聞こえてきた。
『安心してください。幻聴ではありませんよ。』
「!?。」
涙を拭い前を見るとピンクの髪をした若い女性が立っていた。20?いやもっと若いかもしれない。
『私は心を読むことができます。だからこそあなたがすごく真面目な人であることを知っています。なので突然ですが酢国さん。ぜひとも私のダンジョンと言う名前の会社で働きませんか。給料は成果報酬制、会社に寝泊まり可能、24時間年中無休で働くことができます。』
なんと素晴らしい。生きがいを失いやけになっていた自分にとってこれほど素晴らしい提案は存在しない。何も考えずに脊髄反射で返事をしていた。
「酢国まじめと申します。よろしくおねがいします。」
「ハルです。こちらこそよろしくおねがいします。」
捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったものだ。何をしている会社かは知らないが取りあえず働くことができそうで私は安堵した。
「それでなんですが、…実は私今、家に帰る道が分からなくてですね帰れないんですよ。なので今から会社に行くことは可能でしょうか?」
少し無理がある話だ。印象が悪くなってしまうのではないかと心配したが彼女は笑顔でこう答えた。
「私もそのつもりでした。では参りましょう。」
そう彼女が言うと当たりが光りに包まれ次の瞬間私は薄暗い部屋に移動していた。
読んでいただきありがとうございました。
安心安全のストック残り1話。気まぐれに更新します。