トラブルに巻き込まれ公爵夫人は、愛しの旦那様と最強一族に守られて幸せを感じています。
「見つけたぞ。さぁ、私と一緒に行こう。結婚しよう。」
レティシアは男にいきなり腕を掴まれた。
「きゃぁっ。離して。」
そこへ、夫のテレンス・アメジスティ公爵が、男をレティシアから引き離して。
「私はこの国の宰相、テレンス・アメジスティ公爵だ。レティシアは私の妻だが、何か用があるのか?」
テレンスは若くしてこの国の宰相の仕事もしている有能な男だ。
テレンスの妹、ミレーユが銀の鎧姿で、男の腕を捻り上げ、
「私は騎士団長ミレーユ・アメジスティ。レティシアは私の大事な義姉上だが?お前は誰だ?」
女性ながらに、騎士団長を勤める彼女は、国最強の名が高く、
自分より体格の良い騎士団の男性達を打ちのめし、率いる強者だ。
テレンスの姉、黒いドレスを着た赤い唇の美女、サルディアーナが口端をにいいっと引き上げて微笑みながら、
「わたくしはサルディアーナ・アメジスティ。王族の教育係をしております。我が弟の妻、公爵夫人に無礼を働くとは、覚悟が出来ているのかしら。」
サルディアーナは王族の教育係を勤めた女性である。現王太子も頭が上がらない程の教育者で、王族とのつながりが強いのだ。
テレンスの一番下の妹、アリエッテがにっこりと微笑んで、
「わたくしは王太子殿下の婚約者アリエッテ・アメジスティ。我が一族を敵に回すとは、気の毒な男ですこと。」
そして、彼女は王太子の婚約者である。学園に通っていて、卒業したら王太子と結婚する予定だ。
レティシアに付きまとっていた思い込みの激しい男は、レティシアの事を遠くで見かけ、勝手に思いを寄せていた勘違い男である。
レティシアは無論、彼の事をよく知らないし、話をした事も無いのだが。
男はレティシアの周りにいた顔ぶれに真っ青になった。
この連中を敵に回したら、処刑されかねない。
それだけの権限を持った連中である。
慌てて逃げ出した。この男は二度とレティシアの前に現れる事はないだろう。
レティシアはテレンスやその姉妹達に、礼を述べる。
「有難うございました。助かりましたわ。」
テレンスはぎゅっとレティシアを抱き締めて、
「愛しい妻の為だ。当然だろう?」
義妹に当たるミレーユやアリエッテも、
「愛しい義姉上の為だ。私の武力でいつでも義姉上を守ると誓おう。」
「いくらでも義姉様の為に必要とあらば、わたくしを使って下さいませ。」
義姉のサルディアーナも、
「わたくし達は貴方のような良いお嬢さんがテレンスと結婚してくれてとても喜んでいるのよ。」
「有難うございます。」
レティシアはとても幸せだ。
レティシアは美しかった。
白い肌、金の柔らかい髪、すみれ色の瞳。
可憐なこの伯爵令嬢は、本当にモテた。
婚約の申し込みが殺到する程である。
守ってあげたい。誰しもこの令嬢を見てそう思うだろう。
だから、さっきの男のような勘違い男も出て来た。
レティシアは不幸せに違いない。
きっと自分に助けを求めているからに違いない。
だから、自分が結婚して幸せにしてあげよう。
結婚した後もそう思う輩が後を絶たなかった。
ただ、結婚した相手を知った貴族達はあきらめざるを得なかった。
相手が悪すぎる。
あの、アメジスティ公爵なのだ。
彼自身、宰相であり、姉妹はそれぞれ権力を持っている。
テレンスがどこでレティシアを知ったかと言うと、
レティシアを夜会で見かけたのだ。
あまりにも可憐な美しさに一目惚れをした。
その日以来、それはもう熱烈にレティシアを口説いた。
レティシアはいつも沢山の男性に囲まれている。
この令嬢は異常にモテた。
そこへテレンスは割って入り、
「レティシア嬢と二人で話がしたい。お前達、宰相であり、アメジスティ公爵である私に逆らったらどうなるんだろうな。」
公爵家の権限を使い、レティシアを囲む周りの貴族達を蹴散らして、二人きりになる時間を夜会中、強引に作った。
「レティシア。私なら君を守る事が出来る。だから私と結婚してくれないか?」
「え…でも…わたくしは…」
「そうか…私と結婚したいか。嬉しいぞ。そなたの実家も悪いようにはしない。」
脅すようにレティシアに同意を迫る。
レティシアは諦めたように、
「解りましたわ…」
承諾した。
テレンスは強引に、レティシアを手に入れたのだ。
だから、結婚した後、レティシアは悩んだ。
貴族の結婚って政略と思っていたわ。でも…
テレンス様は毎晩のようにわたくしを可愛がってくださって愛して下さる。
ああ…でも、強引に結婚した、わたくしの心は…どこにあるのかしら。
流されるだけの人生。
本当にそれでいいのか…
彼の義姉も義妹もレティシアに本当によくしてくれるのだ。
ふと椅子に置きっぱなしにしてあった、テレンスのガウンが目に入る。
レティシアはそれを手に取り、頬に押し当てた。
ああ…でも、わたくしはテレンス様を愛しているんだわ。だって…
ガウンを抱き締めているだけで、幸せを感じるんですもの。
そうだわ…。わたくしは流されるだけではいけない。行動を起こさないと。
レティシアは行動を起こす事にした。
その日の夜である。
テレンスや姉のサルディアーナ。妹のミレーユとアリエッテ、皆が揃って夕食を食べようと集まった席で、レティシアは立ち上がり、宣言する。
「わたくし、レティシア・アメジスティは、テレンス様を深く愛している事をここに宣言するわ。そして、テレンス様、サルディアーナ様、ミレーユ様、アリエッテ様がわたくしを守って下さり、良くして下さる事、感謝の意を述べたいと思います。」
テレンスは赤くなって。
「愛しいレティシア。ここで言わなくても。」
サルディアーナも嬉しそうに、
「テレンスが照れているわ。わたくしも嬉しくてよ。貴方はわたくしの大事な義妹ですもの。」
ミレーユも頷いて。
「守るのは当然だ。大事な義姉上だからな。」
アリエッテも力強く、
「レティシア義姉上様に何か不埒な事をしようとする輩は、許せませんわ。王太子殿下に泣きついて、蹴散らして貰いますわ。」
レティシアは涙が出る程、幸せだった。
しかし、事件は起きるのである。
隣国のレスタト皇太子が留学していた時に、レティシアに一目ぼれしたらしく、
「我が妻はレティシアしかいない。レティシアをよこさないと軍を差し向ける。
戦になれば、そちらの国に勝ち目はない。レティシアをよこせ。」
テレンスが怒る前に、王太子殿下が怒った。
「大事な宰相の妻を横どりしようとは何て言う事だ。戦だ。戦。」
国王陛下が慌てて、
「たかが女一人で、攻め込まれたらたまらないぞ。ここはテレンス。レティシアを差し出せ。」
テレンスがブチ切れた。
「大事なレティシアを差し出せと言うのなら、私は一人でも戦おうと思います。」
すると、サルディアーナが国王陛下に、
「国王陛下。正義はどちらにありますか?わたくしは、正義は我が国にあると思います。」
騎士団長であるミレーユが、
「私が先頭を切って戦おう。だから、どうか騎士団の出陣を許可願いたい。」
アリエッテが目を潤ませて、王太子に縋りつく。
「殿下…大事なわたくしの義姉上が。」
「大丈夫だ。私が先頭に立って、敵を蹴散らしてくれよう。」
レティシアは思った。
自分が帝国へ行けば、戦は避けられるのだ。
「わたくしが帝国へ行きます。それで、この国が救われるのなら。」
と、訴えたのだが、周りを見渡してみたら、誰もいなくなっていた。
人々は口々に戦だと大騒ぎしている。
大変な事になった。レティシアは真っ青になった。
結論から言えば、戦にはならなかった。
テレンスが周りの国々に帝国の仕打ちを訴えた。
自分の妻を強引に妃に望む、帝国の皇太子殿下の事を。
周りの国々からひんしゅくを買い、結局、帝国の皇太子は、
レティシアを諦めざるを得なかったのである。
テレンスに抱き着いて、レティシアは涙を流した。
「御無事でよかったですわ。」
「レティシア。私は君を守るためならいくらでも、戦おう。」
なんて幸せなんだろう。
レティシアはそう深く感じて、神に感謝した。
人騒がせな美しきレティシアは、まだまだ多数のトラブルに巻き込まれた。
しかし、最強のアメジスティ公爵一族に守られて、テレンスと共に幸せに暮らしたと言われている。