表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

第21話 過去への助走

「…………逃げてるだけ、か……」


 気づいた時にはバイトの時間はもう終わっていて。

 気づいた時には無事に帰宅していて。


「どうしたの、にぃに」


「ん? あっ……」


 どうやら無意識の内に食卓についていたらしく、俺はちゃぶ台の上に並べられた晩御飯を前にして完全にフリーズしていたことに、ようやく気がついた。


「いや……ちょっと、考え事をしてた」


「へぇー。珍しいね。にぃにが考え事なんてさ」


「そうか? 俺だってするぞ、考え事の一つや二つぐらい」


「そうだっけ。むしろ、にぃには考えないようにしてる感じがしてたし」


 考えないようにしてたか……それは確かにそうだな。

 確かに俺は考えないようにしていた。


 ……理由は分かってる。考えれば考えるほど、傷ついてしまうからだ。

 認めたくない過去と向き合うことが怖かったからだ。


「…………やっぱり。逃げてるんだなぁ、俺って……」


 真白の言った通りだ。

 俺は逃げていた。『完璧』だった自分から。

 過去と向き合うのが怖くて、事実を認めるのが怖くて。

 ……本当に、真白は凄い。あいつは逃げることなく傷ついている。傷つき続けているのだから。俺にはできなかった。そんなこと。


「別にいいんじゃない? 逃げても」


 俺の思考を遮るかのように、紫音の言葉が頭の中に雫のように滴って、波紋を生んだ。


「にぃにが何考えてるのか分かんないけどさ。別に逃げたっていいと思うよ、わたしは。だってさ、頑張り続けるのってしんどくない?」


「それはそうなんだけどさ……それでも、逃げずに頑張り続けようとしてるやつに対して、逃げてるやつの言葉なんて届かないだろ?」


「んー……そりゃあ、普通はそうかもしれないけどさ。頑張り続けることのしんどさは、にぃにもよく分かってるじゃん」


「俺が……?」


「うん。あの頃は、わたしも小さかったけどさ。お父さんとお母さんを喜ばせるために、にぃにがずっと頑張ってたことは覚えてるよ」


 だからさ、と。紫音は言葉を続けて、


「頑張ることのしんどさを知ってる、にぃにの言葉なら……今も頑張ってる人にも、きっと届くと思うよ」


 妹の言葉は俺の胸の中にすっと入ってきて、冷たくなった心臓を温めてくれたような気がして。


 ……自分のすべきことが、見えた気がした。


「紫音……お前は、最高の妹だな」


「えっ。気持ち悪いからやめてくれる?」


 やめろ。愛する妹の言葉は重いんだ。お兄ちゃん心停止しそう。


 ……まあ、それはさておいて。


 逃げてもいいと言って貰えたけれど。

 今の俺がすべきこと、したいことは逃げることじゃない。


 たとえどれだけ傷つくことになろうとも、俺は過去と向き合う必要がある。


 それが今の俺がすべきこと、したいことだから。


 思い出そう。思い返そう――――『完璧』だった頃の自分を。



今回はいつもより短くてすみません!

次は主人公の過去話になります。


実は自分の中でこの作品の区切りが存在していたので、章を追加してみました。

ぶっちゃけると、3章が空欄なのは名称は終わってから考えようかなと思ってるからです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「逃げるは恥だが…」ですか。やはり妹は正義。 彼女に言葉が届けばいいですけれど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ