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その駅、迷宮につき

作者: 木下秋

 東京・池袋・新宿駅なんてのは迷宮だ、なんて言いますよね。大阪にもなんかそういうのがあったな~……忘れちゃいましたけど。東京住みが長いもんで。

 なんて言ってる場合じゃないですよ。寝過ごした私が確かに悪いですけれども、目を覚ますと私は終電の中で一人きり。車掌さんも起こしに来てくれないんだもんなぁ。

 開きっぱなしの扉からホームに出ると、そこは見たことのない地下鉄の駅でした。

 そして私はキョロキョロ探すんですけれど、アレが見つからないんです。看板が。駅名の書かれた看板ですよ。

 そんなことあるぅ? てなもんで探すんですけれど、探せど探せど見当たらない。私アレかと思いました。地下鉄の駅には作られはしたけど問題があって結局使われなかった駅があるそうです。酔ってグデングデンになった脳を精一杯回転させて考えました。終点に着いた電車が、私に気づかぬまま回送電車となって走り始めたが、本来行くべき場所に何らかの原因で入れず、一時的にこの使われていないホームに停めた──

 先頭車両にも誰にも乗っていませんでしたから、私近くの階段を昇りました。近代的な改札機が見えてオヤ、と思う。使われなかった駅にこんな改札があるかいな? そこでピンときました。ははぁなるほど、これは使われなかった駅ではなくて、これから使われる駅だ! よくよく思い返してみるとホームも綺麗で作りが最近のようなんですよ。しかしはて、新しい駅を作っているだなんて聞いたこともなかったがなぁ……。

 電源の落ちている改札を通り抜ける。シンと静まりかえった構内。右を向いても左を向いても、突き当たりの見えない延々と続く通路。

 こういう時は上を向くといいんですよ。そこには案内看板があります。緑に光った避難誘導灯だってありますよね。それに従って行けば迷うことはありません。私はズンズン歩き始めました。


 ──さて、歩き始めてもう何十分経ったでしょうか。幾つもの改札の横を通り抜け、階段を昇り降り。案内を見、歩きましたが、出口が見当たりません。

 いくら迷宮に例えられる程の駅を歩いていたとしても、一つの出口も見つからないなんてそんな事がありますか? 酔いはすっかり冷め、額には脂汗が滲み、足はズキズキと痛みます。冴えてきた頭で携帯電話を操作し、GPSで自分がどこにいるのか調べようとしましたが、圏外。東京都内で圏外になってしまうゾーンなんて、今や珍しいですよ。

 辛うじて時間はわかりました。が、わかったのは時間ではなく、今私が置かれている状況が異常であるということです。もう二時間は歩き続けている。そして同じ場所には一度も出ていない。同じ場所に何度も出るんならグルグル巡り回ってしまっているんだな、と思うでしょうが、この広さはあり得ません。今まで歩いてきたどんな迷宮に例えられる駅より広い。耳鳴りがする程静かな駅に、私の革靴の底が床を鳴らす音が響いて、それと同じくらい大きな自分の心臓の音が聴こえていました。何が起こっているんだ? 何に巻き込まれてしまっているんだ? 全身が汗ばんで不快、息が荒くなります。

「どうなっているんだよ!」

 思わず私は叫びました。

「どうかされましたか?」

 声が聞こえます。

「出口が見つからないんだよ! こんなに歩いているのに!」

 私はカバンを投げ出してその場に崩れ落ちました。

「案内に従って歩いてるってのに! 嘘つきじゃないかこんなの!」

「はい、嘘です」

「え?」

「嘘ですよその案内は」

 ……は、……ハァーー?

 私は天を仰いでそう言うしかありませんでした。

「騙されちゃって」

「ふざけんなよ!」

「ふざけてはいないんですよ」

 私は立ち上がりました。カバンは拾い上げずに、私は突き当たりの見えない通路を走り始めました。


 明日の仕事は? どうなる? 息子は……妻は? 故郷の両親は──

 ッハァ、ッハァ、ッハァ、ッ……ハァ

「出口はどこだ!!」

「ありません」

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