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依頼と硬貨について

前日の言葉通りバックスは今朝橋の下に訪れると、アッシュが昨日引き受けた依頼の詳細を告げに来た。


「昨日口にした通り、今回の仕事はどうも変だ。ほれ、取り敢えずこれが今回の仕事の前金だ」


昨日と同じアッシュの橋の下でバックスは腰を下ろし、対面にいるアッシュへと硬貨を放り投げる。

それをアッシュは無造作に受け取る。


「・・・!金貨(マルク)だと!?」


何気なく受け取った硬貨を見てアッシュは思わず声を上げてしまう。

マルセーロの貨幣は(マルク)(セルク)(ローグ)の3種類がある。

これらの言葉はマルセーロの都市名をそれぞれ崩したものだ。

しかしそれももとを正せばマルク・セルク・ローグという名の【賢者】がその昔1つの都市を築いたことが由来している。

そんな彼らの名を後世に残すため通貨名にまで使用されているのである。

何を隠そうディリードの目標がその【賢者】になることであり、彼が日夜勉学に励んでいるのもそのためだった。

1金貨は10銀貨と同等であり、1金貨は100銅貨と同じ価値がある。

貧民街で一月生きていくためには3銀貨もあれば十分だった。

バックスの依頼は前金と成功報酬は1:1の割合だ。

つまり仕事を遂行できた場合は、もう1金貨報酬で手に入れることができる。

つまり6ヶ月以上生計を立てることができる計算になる。

アッシュが驚いたのも当然だった。

これほど割のいい仕事は初めてのことだ。



「この仕事の異常さが理解できたか。マルクの報酬なんて俺も引き受けたことがねぇよ。こんな案件は【情報屋】の取り扱う領域じゃねぇよな。窓口で正式に届け出て【憲兵】に協力を仰ぐのが筋だ。もしくはファミリーにでも頼んだほうが懸命だな。それをしないということは、公にしたくない上に事を荒げたくない目論見があるんだろうな。いずれにしろ穏便に事を運びたいということに違いないな」


窓口とはそのまま民間の窓口であり、マルセーロ王政国家から依頼が受理された場合は憲兵が派遣されるしくみとなっている。

情報屋よりも安価な上に国が送る憲兵の練度は高い。

ただし、公文書に依頼内容他詳細な記録が残ってしまうため、それが”弱み”として利用される可能性がある。

ファミリーは所謂、組織犯罪集団を指しており主に下層から貧困民が所属している。

そしてマルセーロには無数のファミリーが存在しており、常に勢力争いで対立している。法外な金額を積むことで殺人すらも生業とするマルセーロの暗部である。

メリットは任務遂行の可能性で言えば高いということと公的な記録に残らないということのみである。

しばし依頼主の要望を無視し過激な手段を用いることで、事件が明るみになる上に一度依頼をしてしまうとファミリーに弱みを握られたのと同義である。

余程のことがないかぎり民間人が接点を持つことはない。


「まぁこの金額を寄越すということはそういうことなんだろうな。それにしても俺でよかったのか?依頼主としては護衛役として力自慢の肉の塊が欲しいんじゃないのか?」


「そこも変な点だ。依頼主の要望は”目敏く危険を察知できる者、暴力は最終手段にして欲しい”なんだよ。俺の駒でそれに該当する奴なんてお前くらいしか思い付かなかったぜ。ハッそんな機転の効くやつならこんなとこにいねぇって思わず依頼主に嫌味を言っちまいたかったぜ!その上”何から守るのか”も話さない上に達成条件も言わねぇ。分からないことが分かったとしか言えねぇよ!!」」


アッシュの疑問にバックスは心底面白くない口調で答える。

補足として憲兵の出願は17歳から認められている。

アッシュは来年から出願が可能となる。

本人にその意思はないが。


「おさっさんが愚痴とは珍しいな!俺としてはますます興味が出てきたところだ。終わってからどんな仕事だったが話してやるから、楽しにしとけよ」


バックスの表情とは違い、眉をつり上げて楽しそうなようすのアッシュ。

どこからそんな自信が出てくるのか任務を無事に終わらせる前提で話している。


「お前の実力は認めてる。だが遊びじゃねぇんだ。油断すんなよ。万が一しくじっても俺は手を貸さねぇからな」


「そんなもんいらないね。俺は1人で生きてんだからよ」


アッシュには珍しく最後のセリフはやけに真剣で凄みがあった。


「ああ、わかってるよ。お前が任務に言っている間に”お前の依頼”の方はしっかり探り入れとくからよ」


目を瞑り子供の強がりを受け流すような仕草でバックスは頷く。

そして励ますようにアッシュの依頼の件に言及する。

厳密に言えばバックスに”依頼”をしている時点で1人で生きている訳ではないことになるが、アッシュに言わせれば金を挟んだ利害関係でありそれはディリードにも当て嵌まる。

ディードとも頭脳を借りる代わりに力を貸す共闘関係というのが、アッシュの言い分だった。

言い訳にしか聞こえないが。


「おう!!」


力強くアッシュは頷くと軽い身のこなしで立ち上がるとそのままバックに背を向けてあるき出す。

少し早いが東の区画に向かうようだ。

その背に別れの挨拶とばかりにバックスが声を掛ける。

「この場所とディリードのことは心配すんな!出世払いで面倒みてやるかよ!」


「・・・」


アッシュは出だをわずかに上げて応える。

その動作は緩慢だったが、珍しく彼の眉間にはシワが刻まれていなかった。

なんだかんだ面倒見の良いバックスにはついつい気を許してしまうのかもしれない。

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