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鬼電車  作者: 安
4/10

第四話 五人足りない

一人がのどを詰まらせ、九人になった。

この電車には謎なことが多い。

どこへ向かっているのか?

どこを走っているのか?

運転手や車掌は?

そもそもこれは現実だと思ってもいいのだろうか?

……そんなことまで考えてしまっている。


「では、もう一度電車内を探索してみましょうか?何か、気づかなかった手掛かりがあるかもしれない」

佐川の発言にみんな同意した。

この電車がどうこうという不安もあったが、何もしていないことに対する不安のほうが大きかった。

何か脱出のための行動を起こすことが、精神安定剤になるような気がしていた。

まず、後部車掌室。

相変わらず人がいないのは変わりないが、死角が多い。五人でそれぞれ二回ずつ確認したが、何かが落ちていたり隠していたりはなかった。もっとも、僕らはこの場所が普通はどうなっているかなど知らないから、もし何かが無くなっていたり、足されていたりしても気づくことはできないのだが。

僕は何気なく後ろの景色を見た。

単線のレールが続いている。後続の電車はない。自分がどこか遠いところに来てしまった感覚に陥った。

次に各車両。

網棚の上なども見て回ったが、そもそも死角の少ないタイプの車両だ。最初と同じく何の発見もなかった。

そして前部車掌室。

ここも同様、カギは閉まったままだった。

……結局、またしても手掛かりは何も見つからなかった。


後ろから二番目の、元の車両に戻ってからはみんな無言だった。

電車から降りるなり止めるなりして解決しなければならないが、何の手掛かりもないのではこうなるのは仕方のないことだろう。

スイス製の腕時計を芝居じみたしぐさで見ながら佐川が言った。

「もう11時半ですね……。少し早いですが昼食でも取りませんか?」

とにかく気を紛らわせなければいけない。もう少しで新しい展開が来るような気がしていた。

それまでに壊れるわけにはいかない。

「そうねぇ……。そうしましょう。でも皆さん、食べるものは持ってます?」

「あ……僕は学食なので持ってないです」

「私もないですね……」

「ぼ、僕は、おにぎり三個だけなら、あります……」

「私は、お弁当を持ってきてます」

「私も駅で買ったパンが四つありますけどねぇ……。さすがに五人で分けるには少ないですね……」

「まあ、しょうがないでしょう。すみませんがそれらを五人で分けて食べることにしましょう」

長谷川は自分のパンをふたつ

田本は自分のおにぎりふたつと長谷川のパンを一つ

僕は田本のパン一つと田本のおにぎりを一つ

エンジェルと佐川が弁当を分け合って食べた。

嫉妬した。


少し物足りない昼食が終わり、ごみを片付けていた時だった。

田本が、突然足から崩れて倒れた。

皆が田本に注目した。しかし、田本は一向に起き上がらない。

僕は、これが昼食直後であることも手伝い、『そして誰もいなくなった』のあのシーンを思い出していた。十人のうち、最初の一人が欠けるあのシーンを。

そして、車掌室に鍵が閉まり、電波も通じないこの状況……。

そうだ。これは、「クローズド・ミステリー」と呼ばれるジャンルの本格ミステリーで、よく見る光景じゃないか。複数の人が閉じ込められ、時には見立てに従いながら、順番に一人ずつ殺されていく……。


だとすればおかしい。もしこれが、『そして誰もいなくなった』の見立てであるのなら。


佐川が倒れた田本にいち早く駆け寄った。


不自然なことがあるはずだ。絶対に許されないはずの誤差が。


佐川が田本の手首に指を当てた。脈を確認しているのだ。


『そして誰もいなくなった』には、『兵隊の歌』で有名なように、十人の登場人物がいる。


佐川が首を振った。長谷川はおろおろし、エンジェルもどうすればいいかわからず立ち尽くしている。


だとすれば、この鬼電車は……。


()()()()()()()

やっと動き出した……。

思ってたより長かった。

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