第一話 五人
10人の男の子がいた。
午前七時二分。
別段何事も無ければ、電車は定刻通り到着してくる。
僕は普段この電車で隣県の工業高校へ通学している。
その日もいつも通り、その駅のその時間、その乗車口には五人が電車を待っていた。
一人目。
脳内で勝手に「団子デブ」と呼んでいる、年はおそらく四十代の小太りの中年男。
額は脂ぎっており、時々ハンカチを出しては汗を拭いている。
二人目。
「マトリョーシカ」。
いつも薄紫色のカーディガンを着ているぽっちゃりした女の人。
いつも近い色の服しか着ないのとその体系のせいで、遠くから見ると本当にマトリョーシカにしか見えない。
三人目。
「イケメンリーマン」。
いつもスーツをきっちり着ている、三十代前半の男の人。
革靴を履き、右手にはいつも革のビジネスバッグを持っている。
四人目。
「天使」。
どこの高校なのかは分からないが、いつも電車で会う女の子。
健康的な小麦色の肌に、紺色のブレザー、そして少し大きめの赤いリボン。
僕はこの子にひそかに恋をしている。
そして五人目が僕だ。
七時二分、この日も定刻通りに電車は到着した。
ドアが開き、電車に乗ろうとした……が、一つおかしいことに気が付いた。
誰も乗っていないのだ。僕ら五人以外は本当に誰もいない。
しかし列の最後尾の僕が車内に入ると同時に、まるで急かすようにドアが閉まったかと思うと、電車はそのままアナウンスすらなく発車してしまった。
しかし”イケメンリーマン”達も、少しいぶかしげな表情は見せたが、そのまま手近な席に座っていた。
僕もこの時は得体のしれない違和感は感じていたが、自分以外にも人がいたのもあり、深く考えずに座って眠ることにした。
端の席に座り、壁にもたれかかって寝ていると、肩をたたかれた気がして目が覚めた。
目を開けると、目の前で”エンジェル”が僕の顔を覗き込んでいた。
一瞬で覚醒した。
「えっ?ど、どうし……?」
慌てすぎて挙動不審になってしまった。
”エンジェル”は、少し言いにくそうにしていたが、やがて口を開いた。
「実は今、この電車……二十分くらい、止まってないんです」
「えっ?」
もうちょい長いほうがいいかな
まあいいや第一話だし