貴
「おレはククロセアトロ!センセーとえーくんはかぞくなの!」
顔も似てないし歳もバラバラみたいだし姿も違うし。
家族には全然見えない。
「ククロセアトロくん?そう。……あなたに言っても意味なさそうだけど、私のこと知らないの?」
「うーん、おレ、ここからでたことないからそとのことはわかんない。」
外に出たことない……引き籠もりは苦手だわ。何するかわからないもの。皆、世間知らずだし。……そうえば、ここはどこなのかしら。西?東?森の中を彷徨ってたのは覚えているのだけど。
「デトメリアなら西の大富豪ね。貴族の生まれなんて羨ましい限りだわ。」
またいつの間にか入ってきたオカマ野郎にお粥を差し出された。
今度はちゃんとした米と卵の雑炊だ。
「意外と口が悪いのね。お嬢様……否、お姫様。かしら?」
ニコリと嫌味な含み笑いを浮かべる。
「あら、ご存知でしたの。ところでここは何処なのです?」
「東でもなければ西でもなく、北でなければ南でない。この国の中央にある、『均衡の森』よ。」
いい香りのするお茶を飲みながらサラリと言ってのける。
それって、何年も学者や冒険家が探して見つからなかった森じゃない。
「ええ、そうね。でも正しくは『見つけられたが誰も信じてくれなかった。』或いは、『森には入れたか生きて戻れなかった。口止めされた。』のどれかね。」
「……さっきから私の頭でも覗いてるのですか?口に出す前に応えられるなんて、奇妙で気持ち悪過ぎるわ。」
苦い顔で言ってやれば、彼は目をぱちくりさせて、やがて微笑んだ。
「ピルヴァーロ=アマルティア。といえばわかるかしら?」
「……嘘でしょ?いるはずないわ。」
「ま、信じたくないでしょうね。」
あまりにもあっさりと言ってのけるものだから、こちらがたじろいた。
ピルヴァーロ=アマルティアといえば、数年前の異端審問で確かに処刑されたはずだ。彼の首が飛ぶのを、多くの人間が見たはず。彼は神を冒涜し、黒魔術に手を染め、永遠の若さを手に入れた罪人だ。
「あの時のは貴私ではなかったのよ。」