隷属と家庭
「きみなまえはなんていうの?」
発音がめちゃくちゃで、抑揚もめちゃくちゃで、文字があちこち向いてとっちらかっているようなまとまりのない声で、少年はこちらを覗き込む。
思わず悲鳴が上がってしまいそうだった。
「……、サラ。サラ=デトメリア。」
「あ、そのなまえ、このまえみた!あすも……なんとかのはなし!」
嬉しそうな声で笑う彼。きっとキラキラと目を輝かせているのだろう。
というのも、
感情だけは読み取れる声とは逆に、その表情はあまり無表情。
まるで人形のように、口だけが動き笑顔を作っている。
無感情と云うには豊富で、機械的と云うには人間味のあるような。
「それを言うならフランケンシュタインじゃないかしら。」
ああそれだ。
「いつからいたの!?」
びっくりして声を上げたら、目の前の少年もビクンとはねたと思いきや、ひっくり返った。……驚きすぎなのでは。
「あら、そんなに驚かなくていいじゃない。サラ。折角、貴君の為の卵粥を作ってきてあげたのに。」
「卵は嫌いなのよ……。」
「あら、残念だわ。でも食べなさい。」
「やめてってば……て、え?」
押し付けられたそれは、粥というには水気が無く、米というよりは穀物と言うような感じだった。
「師匠。ソレ、普通の雌にやるのにはちょっとハードル高過ぎると思うんすけど。」
困惑する私の手に持たされた器の中身を覗いて、いつの間にか戻ってきていたドレッドヘアの青年が言う。助け舟を出すように、チラッとこちらを見ながら。黒目の小さい瞳は白色で、三白眼に近い印象を受ける変わった目。
その瞳が、瞼を一切動かさずに横に瞬きしたのは見なかったことにしよう。
「……はぁ、貴私としたことが。またやってしまったわ……。」
肩を落として溜息をつく。私の手から器を取り上げると、そのまま少年に手渡した。嬉しそうにそれを口に流し込む少年の口からは、バリバリゴリゴリシャキシャキ色んな音がする。
「ま、最初は驚くだろうけど、死ぬよりは慣れるほうがマシだろ?」
ドレッドヘアの青年は、今度はちゃんと瞼を閉じてウインクすると、そそくさと部屋を出ていく。
「おいしかった!」
……あの量を5秒で完食したわ……この子。