No08 術式
「ふーん、この人が……レインと同棲してるひと?」
「違う違う!同棲じゃなくて同居です、ど・う・きょ!」
俺は今幼女に顔を覗き込まれている。
「顔はぶさいくだね」
失礼だな、否定は出来ないが。
「開口一番言う言葉じゃないだろ」
「名前もきもちわるいよ」
泣きたくなってきた。
さて、俺は血盟傭兵団への一員となれたわけだが……先程からヒマを持て余した傭兵団員たちにしきりに絡まれている。
その筆頭がこの最年少傭兵とかいう謎の肩書きを幼女なのである。
9歳なのに傭兵やってるんだと。
そして今俺はコイツと言い合っているわけだ。
「お前だってプリュチなんて情けない名前じゃないか」
「ミーヤほどじゃないよ」
謝れよ、お前、世界中のミーヤさんに謝れよ。
「レインこのひと、うるさい」
「こらこらプウもそんなにからかわないで。あと、ミーヤも大人げないです」
もうミーヤってお前の中で定着してんのか。
「はーい」
こういうときだけ息ぴったりだな、俺とお前。
「ところでミーヤ、団長には挨拶してきました?」
「団長?してないけど。今どこにいるの?」
「そこにいますよ。ほら、あの白髪のおじさんです。でも気をつけてください、あの人一応全戦士最強って謳われてますから」
レインの指差す先には一際異彩を放つ白髪の紳士が悠然とたたずんでいた。
強キャラ感半端ないな。
会いたくない。
「そんなことないですよ、案外優しい人だから声かけてみたらどうです?」
俺も一応傭兵になったわけだし声かけてみようか。
俺はゆっくりとその人に近づいていった。
「あの」
「新入りか」
「はい、そうです」
「以前に私と会った事があるか?」
「いえ、ないと……思います」
ふと、頭の中に変わった光景が浮かび上がる。
岸に立ち尽くす男。
男を殺さんとする戦士。
周りを囲む黒装束の男たち。
なんだ……これ。
追い詰められてるこの男どこかで見た気が……。
「どうかしたのか?」
「い、いえ何でもありません」
動揺、してしまった。
「そうか、何が目的だ、金か?女か?」
え。
「冗談だ」
「ちなみに私は女だ」
「冗談だ」
なんか1人でブツブツ言ってるな、このオッサン。
案外面白おじさんなのかもしれない。
「このたび血盟傭兵団の末席を汚すことになりました」
「ミーヤ=ゴルデジャー二、だな?」
「私は血盟傭兵団団長エドウィン=カーター。よろしく頼む」
そう言ってオッサンは手を差し出してくる。
「よろしくお願いします」
握手を交わした。
あんまりここに居たくないし、さっさとレインの所に戻ろう。
「で、では俺はこれで」
「待て」
「何ですか?」
「貴様、Lvを教えろ」
「Lvですか?えーと確か……」
「言わんでいい」
どっちなんだ。
「自分のLvは他人に公開するな」
「分かりました」
「あと、レインに魔法の使い方を教えてもらえ」
「分かりました」
即座に俺はその場を離れレインの元へと向かう。
「あ、戻ってきた」
レインとプウがこちらを振り向く。
「どうだった?カーター総統は?」
「怖かった」
「やっぱりね、妙に怖い所がありますよね」
お前、優しいとか言ってたよな?
「それよりさ、魔法について教えてくれない?」
「いいですよ~ほら、プウも一緒に来て?」
「いやっ、このひとうるさいもん」
このガキぃ。
「しょうがないなぁ、ほらっ」
「ふぁっ」
レインに担ぎ上げられたプウが可愛らしい悲鳴を上げる。
「どこかに行かなきゃならないの?」
「そんなことないんですけどね……ここじゃうるさいから兵士塔に行きましょう」
兵士塔とは兵士のための建物だろうか。
「じゃあミーヤ、袖をまくって腕を出してください」
「あ、うん分かった」
兵士塔とは思ったより立派なルネサンス建築だった。
今はこの塔の1室にて3人で机を囲っている。
「刻まれているLvに触れてみてください」
「え、分かったけど」
Lv5と示された自らの腕にゆっくりと触れてみる。
「これは……」
俺の前に光り輝く透明な立方体が現れたのだ。
「それが最下級術式『術体』です。全ての魔術術式はそこから覚えるんです」
すると『術体』は大量の球体に分裂し、その内の1つが俺の前に出てきた。
「それが今、ミーヤの覚えられるスキルですね」
ゆっくりと球体につまんでみると上に『加速』と表示された。
「それでもう覚えたことになりますよ。術式の展開方法は知ってますか?」
「知らん」
「簡単に言えば頭に思い浮かべるんです。『加速』で言えば……自分の走ってる姿を思い浮かべればいいかな」
自分の走ってる姿か……うーん。
徒競走、マラソン、ありったけの記憶を探る。
歯車の回るような金属音が響き渡る。
「待って、ここでやったら……」
レインの静止虚しく、すでに展開された術式によって俺はドアを蹴破ってしまった。