No05 聞き込み
「はあっ、はあっはあっ」
俺はレンガの壁によりかかり息をつく。
「追ってきてないか……」
あれから1ヶ月がたった。
一応レインに言われたことはきっちりやっている。
最初はかなりキツかったが他にやることがないのでまあ今となってはそれほど難しい課題ではなくなっている。
そして俺は暇つぶしに『黒ローブ』について調べるようになった。
カノンさんとご両親、そしてレインのために。
色々とわかったのだがどうやらヤツはかなりの懸賞金首らしい。
登録名は偽者、槍使い、推定Lvは30以上。
巷では3大悪魔なんて呼ばれてるらしい。
と、まあいろんなとこを聞きまわったり、時には危ないことしたり。
でも入ってくるのは外部的な情報ばかり。やはりこれだけはどうにもならない。
はやくLvをあげ、傭兵団に所属するしかないのだ。
今の俺のLvは3。いつも走り回っているせいかかなりLvは早く上がっているのだが。
やはり黒ローブについての情報が少ない。
今日も酒場に忍び込んで黒ローブのことを聞いていたところ1人の大男に怪しまれ、やっとのところで逃げてきた。
危なかった。こんなことをいつまでも続けていたらいずれ捕まってしまうかもしれない。
これはこれで中々スリリングで面白いのだが、もう少し目立たなくしなければ。
ちなみに今は中におっさんの着ていたという布切れみたいな服を着て、茶色のマントを羽織っている。
さすがに、あんな血にまみれた服装してたら目立ちすぎるからな。
と、そこでオッサンの家の前に着いた。
そのまま裏口から家に入ろうとするもそこでオッサンが店の窓から顔を出してくる。
「おう、帰ったか。ちょっと店の中覗いていかねえか?」
「いいんですか?」
「おうよ、お前さんもそろそろ武器がほしくなってきただろ」
そういえばオッサンって武器屋やってたんだっけ。
俺は家の正面にまわり、店のドアを開く。
「で、何がいい?剣か?槍か?店の中にあるものだったら何でもいいぞ」
「Lv3の俺に持てる武器なんてそんなにないですよ」
するとオッサンは顔に驚きの色を浮かべ、
「1ヶ月でLv3って……早すぎねえか?」
「そうですか、ありがとうございます」
「Lv3か……コレなんかどうだ」
オッサンが見るからに高そうなゴテゴテの剣を引き出しから取った。
「ああ、軽そうなのがいいです」
「もっと軽そうなの?この店には置いてねえが……俺がつくってやろうか?」
「いいんですか?」
「いいぞ、ただし30日は待ってもらわなきゃならねえ。それでもいいか?」
「ええ!ありがとうございます」
「礼はいらねえよ。俺もお前に感謝してるからな」
「何のことです?」
「レインのことだよ。あいつ、明らかにお前がきてから元気になってるからな」
「そうなんですか」
「そうさ、前まではカノンのことを引きずってたんだ。どこか抜けてる感じでな。だから、お前さんには感謝してる」
そう言うとオッサンは俺の目を見て、
「レインを頼むぞ」
と言った。
「分かりました」
俺の言葉を聞くとオッサンは『ありがとな』と笑った。
俺には重荷だ。
午後、俺は川沿いを走っている。
少し前まではパルメアンを半周するのがやっとだったが今では1周とまではいかなくとも3分の1くらいは走っているるのではないだろうか。
と、そこで俺は足を止め小さな路地を曲がる。
この先に傭兵がいつもたくさんいる酒場があるのだ。
ターコイズと書いてある看板の前で立ち止まり、店の中を確認する。
今日もいつもどうり大男たちであふれていた。
マントのフードを深くかぶるとゆっくりとドアを開ける。
カランカランと鈴がなり、いらっしゃいと店主が声をかけてきた。
「ビール1つ」
「あいよ」
よし、気づかれていない。
ビールを飲むのは気が引けるがまあ酔わない程度に飲めばいいだろう。
別にビール飲みたさに来たわけじゃない。
俺はカウンターの一番は端の椅子に座った。
「聞き込みしに来たんだったらお茶にしといてあげますよ」
「え、分かってたんですか?」
「ええ、よくいるんですよ。あなたみたいに傭兵の持つ内部情報を欲しがる人が」
「そうなんですか、じゃあお願いします」
少し落胆してしまった。
店主の観察眼には驚かされたが今はそれどころではない。
情報をしっかり入手しなければ。
「おいみんな、3大賞金首を狙う気はねえのか?」
「3大賞金首ぃ?いやだね、俺はあんなやつらには関わりたくねえ」
「だよなぁ、推定Lv全員30以上だぜ、もし出会ったら、真っ先に逃げるよ」
「おいおいおい、お前らがそんなに弱気でどうする」
「だがよぉカノンちゃんもやられたんだぜ?」
「結構レベル高いのになあ」
「黒ローブが強すぎんだよ」
「だけど黒ローブも3大悪魔の中じゃ1番弱いらしいぜ」
恐ろしー、と声が上がる。
「なあなあ、それより聞いてくれ。行きつけの店の別嬪なネーチャンがよう、俺にさあ……」
もう聞き出すことはなさそうだ。
これ以上聞くと他人のプライバシーに関わりそうな気がしてならない。
「オジサン、はいこれ。お茶代」
「ありがとね、また来なさい」
いい店主さんだな。
俺はドアに近づくと後ろを振り向いて一礼した。