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追憶のイノセント・イーヴィル  作者: Krewia
自治区パルメアン
4/13

No04 傭兵

「今、なんと?」

「俺を傭兵団に入りたいのだが?」

「傭兵、やりたいのですか?」

「それは、まあ」

「そういうの苦手そうですけど?」

「見かけで人を判断するのはよくない」

「Lv1なのに?」

「努力で人はなんにでもなれるとかなんとか、どこかの偉い人が言ってた」

「そう?でも傭兵になったらいつ死ぬか分からないよ?」

 死ぬ、か。

 考案すべき事項が増えてきた。

「悩む時間をくれないか」



 俺は屋根裏部屋で1人、椅子に座って考え事をしていた。

 この世界で効率的に生きるにはやはり傭兵になるべきではないのだろう。

 だが、どこの身分とも知れない俺を救ってくれた、この家族への恩義は?

 いや、待て恩義とはなんだ?

 傭兵になって死ぬことこそ恩を仇で返すというものではないのか?

 だが、レインさんがなぜ俺にカノンさんの事を話してくれたのだろう?

 うまく意図が汲み取れないが。

「どうですか?考えはまとまりましたか?」

 横目でハシゴのほうを見やるとレインが顔を覗かせていた。

「さあな、俺は自分が何をしたいのか分からない」

 レインは上がってくると俺の隣に椅子を引っ張ってきて座った。

「私は……あなたに傭兵になって欲しいのかもしれません」

「そう、なのか」

「ええ一緒に仕事が出来る人が出来るとうれしいですし、それに……」

「それに?」

「キミはカノンとは全く違うから、です?」

「違う、とは?」

「カノンは自分の思っていることに真っ直ぐ突き進む様な人だったんです」

 確かに俺とは正反対の人だな。

「でも、なんかキミにはそういうのが無いっていうか、傍観者みたいな感じで……」

 傍観者か、俺にぴったりな言葉だ。

「あ、すみません。悪いこといってしまいました?」

「いや、そんな事は無い。気にするな」

「良かったです。で、話の続きなんだけど……あなたはやっぱりいざとなった時、的確な判断が出来る、と思います」

 買い被り過ぎだと思うが。

「そんな事はないと思うよ」

 レインは短いズボンから突き出た長い足を伸ばしながら言った。

「結構頼りがいが……」

ないのかよ。

「あると思います!!」

 ほう?そりゃうれしい。

「そう買い被られても困る」

「じゃあ傭兵、やってくれないのですか?」

 レインが上目遣いでこちらを見つめてくる。

「やっても、いい」

 しまった、つい勢いに押されて、

「決まりですね、特訓しましょう」

「特訓?」

「そうです、特訓。レベル1で傭兵になれるわけないですよ。最低でレベル5です」

「なるほど。で、なにをすればいい?」

「先に言っておきますが厳しいですよ?あ、そこの棚から紙とペンを取ってください」

「まず腕立て伏せと腹筋毎日500回、ランニングは……そうねパルメアンを半周ぐらいかな。だんだん距離を増やしていってください。それを半日でこなせればいいです。あと必ず10時間以上寝ることも。夜更かしはだめです。それをちゃんとこなしていけば3ヶ月くらいでレベル5にはなれますから」

「今なんて?」

「だ~か~ら~3ヶ月くらいでレベル5にはなれますよ」

「精神的に続けられる気がしない」

「そんなこともできないようじゃあ傭兵になれても、やっていけないよ」

 3ヶ月、か。

「さあさあ今日からですよ、はやくしたほうがいいんじゃないですか?」

 かわいい顔の向こうに鬼を見た気がした。


 

 俺は今リビングで夕食をとっている。

 オッサンと2人で。

 むさ苦しい。

 レインは今ギルドにいっているらしい。

 時刻は8時こんな夜中にまで仕事とは本当に大変な職業だ。

「お前さんなんでそんな汗かいてるんだ?屋根裏部屋、暑かったか?」

 最初はオッサンも俺の突然の居住決定に多少驚いていたが今ではもう落ち着いている。

「季節は2月ですよ、むしろ寒いくらいです。まあ軽く運動していたんですよ」

「そうか、うちの娘がかわいいのはよくわかるが一人を遊びもほどほどにな」

「してねぇよ!?」

 思わずスープをふいてしまった。

 ああなんでこのオッサンと一緒にいるとこんなにも疲れるんだろう。

「お前さん……傭兵になりたいのか?」

「……はい」

「お前さん運動してないせいか筋肉はついてねえが、きちんと鍛えればいい体つきに慣れると思うぞ」

 そう言ってオッサンは少し悲しそうな顔をして、

「またいなくなっちまうのかな」

「カノンさんのことですか?」

「なんだ知ってたのか……カノンはな俺の娘みたいなヤツだった。娘とはいっつも優しくしてくれてな。親友ってヤツなんだろうな。だがカノンには両親がいなかったんだ。一時期はかなりそのことを気にしてたらしいがな」

「そうだったんですか両親が……」

「カノンの両親も傭兵だったのさ。目の前で殺されたんだってよ。確か……黒ローブだったかな。そんな懸賞金首だった気がする。そんでカノンはずっと奴を憎んでたらしい」

 オッサンがパンを軽く握り、

「黒ローブはカノン達を狙ったってことですか?」

「分からん、だがこれだけは言える。黒ローブは必ず殺さなければ!」

 拳をテーブルに叩きつけた。

 するとオッサンは少し息をつき、

「出来るならお前さんに仇をとって欲しい」

と、言った。

「カノンさんが殺されたから……ですか?」

 面倒な話になってきたぞ。

「そうだ、奴は憎むべき敵だ」

 俺の眼をしっかりと見据え、

「もし、この家に住まわせてくれている事に恩を感じているなら、奴を……黒ローブの首を俺の前に……」

「持ってきてくれ」

 その眼には涙が溜まっていた。

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