9gole:二人きりの1on1
その日の朝は眼が覚めるのが早く、いつもよりも早く登校した。
学校の最寄り駅から降り、踏切で止まった。
目の前には海が広がっている。
ここの立地は、山と海の間隔が非常に近いため市内の学校の中では、珍しい学校だ。
ここから北へ20分ほど歩いて着く。
20分間は山登りのような険しい道だ。
もうすぐゴールデンウィークに入る。
部員たちは最終日に控えてある、神戸六甲高校、通称『神甲』との練習試合に向けて練習に励んでいた。
颯とやるのか…
「よう、珍しいな」
後ろから声かけて来たのは、藤堂先輩だった。
「先輩!おはようございます!」
「今日はどうしたんだ?朝練は無いだろう?」
「なんか眼が覚めちゃって…
先輩こそ、早起きするのって珍しく無いで
すか?
いつもなら寝坊か休んでいるのに(笑)」
私は少しだけ先輩の弱点を突いた。
私の一言を聞いた先輩は、苦笑いの後軽く不貞腐れながら言った。
「それとこれは別。ただ練習しようと思ってな。そうだ、暇だったら付き合ってくれない?」
「へっ…!」
先輩の突然の一言に変な返事を返してしまった。
「君、バスケできるでしょ?1on1しよ」
「……は…はい…」
相手になれる気がしねー!!……
体育館に着いた私たちは、練習着に着替えると、すぐに始まった。
颯よりも先に、藤堂先輩と出来るとは…
ダムダムダム……
「俺から行くぜ」
そう言うと、ニヤリと笑みを浮かべてきた。
ゴクリ…と生唾を飲み込む。
「いつからやってたんだ?」
「…小3からです。」
「ポジションは?」
「だいたいはガードです。特に決まってなかったです」
「そっか…」
その返事と共に、藤堂先輩の奇襲が始まった。
キュッ…!ディフェンスを組むなり、すぐに抜かれそうになった。
私は、意地でも抜かせないように低く構える。
「いいディフェンスじゃねーか…
ただやってたとは言えないな」
「……」
身長差があるため、レイアップのみシュートと藤堂先輩は言った。
目の前に立たれると、プレッシャーが凄い…
「行くぜ…」
「……!」
そう言うと、一瞬にして私のディフェンスを抜くとゴール下に居た。
まずい……!
打つ直前で追いついた私は、シュートコースをふさいだ。
「なっ……!お前…」
「打たせない…!」
「…あめーよ」
パサァ……バックレイアップが決まった。
その綺麗なフォームにジャンプ力…その美しさに見惚れてしまった。
「大人げないですよ!」
「ハハハ…悪い悪い」
「もう…」
「まぁ、荷が重いよな」
笑みを浮かべながら、詫びる先輩に勝負心に火がついた。
ボールを持ち上げるなり、ドリブルをついた。
今度は、逆になった。
「私の分もありますよ」
「…おぉ、来い!」
とは言ってみたものの、目の前に立ちはだかる巨体な壁を前に足が竦んでいるのを感じた。
ディフェンスに隙が全く無い…
ボールをつきながら、あれこれと考えを巡らせる。
「どうした?来ないのか?」
ちょいちょいと人差し指を動かしてくる。
とんでも無いものと相手している…!
俺から誘ったものの、この子のディフェンス力には驚かされていた。
あまりにも不利なのに対し、己の小ささを活かし抜くスペースを与えて来なかった。
よく鍛えられている…相当な奴とやって来たのか…?
しかし、力の差は大きくあっという間にゴール下に着いた。
惜しかったな…
瞬間に目の前に小さな影が現れた。
「打たせない…!」
自分でも驚いた。ここまで動ける子がいたことに。
少しだけ意地悪したくなったーー
抜ける……!ーー!!!
「ッーー‼︎‼︎」
足を踏み込んだ瞬間、ガク……と膝をついてしまった。
左膝に衝撃が走ったのだ。
あまりの痛さに身体に力が入らない。
たまらず倒れこみそうになった。
「危ねぇっ!」
グッと、そのたくましい腕に支えられたーー