8gole:その寝顔は
お互い家に着いてから、それぞれのことを始めた。
奏は自室に戻り、荷物と着替えをしている時に、先ほどの颯のことを思い出していた。
自分も約束を忘れた訳では無かった。
元々、気になっていた私は、学校見学で白凌に訪れていただけだった。
颯も行きたそうな感じはしていたし…
何気なしに、校内を歩き回っているうちに、体育館からボールの音がしたのだ。
バスケ部かな?白凌って強かったよね…
ちょっと見てみたいかも…
ふらりと中を覗いた時に、あの衝撃が走ったのだ。
翌日、そのまた翌日、日が経ってもあの光景が頭から離れなかった。
しばらく悩んだ末、母に打ち明けたのだった。
夏のあの出来事以来、颯は私に対して少々過保護なのでは?という言動や行動をとることが、たまにあった。
普段なら、終わったら直ぐ家に帰るのに、
今朝の雨のせいで自転車に乗れなかった私
を迎えに来てくれたり、どうしたんだろう…
ザァーー……
風呂でシャワーを浴びていた。
帰り道のことも一緒に流れて行くような感覚だった。
俺は何に疑問を抱いている?
半年くらい前から、奏の行動に反応したり、
頭の片隅にはいつも奏がいる。
片割れだからだろうか?
自分でも己の行動に驚くことが多々あったのだった。
白凌に通い出してからの奏は、とても嬉しそうで眩しいくらいだった。
時間帯がずれるため、本人と顔を合わす機会が減ったが、隣の部屋からの雰囲気とかも微妙に変化している。
そんなことより、俺はバスケがしてーだけ
だ。インターハイで勝つ。それだけだーー
喉の渇きを感じた奏は台所の冷蔵庫の前で、
前に買ったオレンジジュースを飲んでいた。
ガタ…不意に人の気配を感じた。
風呂から上がったらしい颯が立っていた。
若干濡れた髪から、切れ長な目が覗いていた。
その姿に少しドキリとした。
「晩御飯温めてあるから、食べてて。
私はお風呂に入ってくるから」
「…ああ」
颯が、お皿をテーブルへ運んで行った。
そんな颯のことを横目で見ながら、切り替えるように、さっさと、お風呂へ向かった。
熱かった…のぼせたかも……
肩口が広いTシャツに着替えながら、リビングへ向かった。
髪をくくっているため、首元がスッキリしている。
ソファの方で居眠りしている颯がいた。
「母さん風呂に入ってくるから、颯のこと
起こしておいて」
「分かった」
私は返事しながら、ソファに向かった。
寝てる…相変わらずだね…睫毛長い……
鬱陶しげな前髪を少し退けながら、少しだけ眺めた。
双子なのに、全然顔がちがうよね…
二卵性双生児のため、顔が似なかったのだ。
白く、形のいい眉に、筋の通った鼻。
綺麗な顔……作り物みたい…
パシッ…急に手首を掴まれた。
思わずビックリすると、凄い形相で睨まれた。
「何人たりとも、俺の眠りを妨げる奴は許さん…」
「え!」
寝ぼけながら、颯は言い放った。
昔から、起こされると不機嫌になるのである。
まずい…このままじゃ、私の命が危ない!
すると、急にカッと目を開けた颯は、奏の顔を見て固まっていた。
「…んで、こんなとこに居んだよ…」
「それはこっちのセリフ!寝るなら部屋で寝てよ!」
呆れながら、私は答えていた。
するとフワッと、首元に柔らかいものがかけられた。
颯が使っていた、タオルだった。
「そんな空いた服着てると、風邪引く」
「ちょと…」
むくりと立ち上がった、颯は私を見下ろしながら言った。
身長差約30㎝差ーー。
静かに見つめてくる颯の視線で、顔に熱を感じてくる。
「…谷間見えすぎ……」
「……もうバカ!変態!」
「見たくて見てんじゃねー。目障りだ」
ポカポカ叩く私のパンチをかわしながら無愛想に言った。
すると、ポン…と頭に手を乗せられ、微かに微笑み浮かべてきた。
「…髪乾かせよ……」
そう言いいながら自室へ向かって行く、大きな背中を静かに見送った。