7gole:帰り道
入部してから二週間たった頃の帰り道ーー
最寄りの駅から降りた私は、ある声に呼び止められた。
「……遅い…」
そこには、双子の兄の颯が自転車と共に立っていた。
「颯⁉︎」
「もう、20時半じゃねーか」
仏頂面に言ってきた颯は、己の自転車カゴに私の荷物を詰め込んだ。
「……ごめん…。ありがとう…」
私は、少し伏し目がちに呟いた。
入学してから、ほとんど顔を合わせて無かったため、とても久しぶりに喋ったのだ。
兄である颯は、家から近いという理由から公立である『神戸六甲高校』に通っている。
同じくバスケ部であり、県内ではスーパールーキーと呼ばれているほどの、プレイヤーなのである。
身長も高く、187㎝という長身にも関わらず、全てのポジションをこなすことも出来るのだ。
「今の部活、楽しいのか?」
珍しく、颯が私に質問して来た。
「うん!」
私が答えると、自転車にまたがった颯は私の方を振り返る。
「…乗れよ…」
「ありがとう!」
この駅から徒歩20分はかかる距離なので、颯の誘いはありがたいものだった。
学校が遠いからだけど…私が家を出た時は
まだ雨降っていたんだよね…
奏は後ろにまたがりながら、そのことをボヤいていた。
「つかまれよ…」
自転車がゆっくり進み出した。
奏が乗っているからであろう、いつものスピードよりはゆっくりしたものだった。
久しぶりに、颯の後ろに乗ったな…
また、身長伸びたのかな?背中が大きくな
ってる…
「…なぁ…何で白凌なんかに行ったんだ?
まだそこまで、部活ねーだろ?」
私は、グッと噛み締めた。
「別に…ただ良い学校だなと思って…」
颯が言うのも当たり前だ。
元々男子校だった白凌は、昨年から共学になったのだ。
まだ、成り立てでもあるため女子の部活の方は成績がまだ無いのである。
「…そんな理由で、お前が決めるわけねーだろ。それに、もう…出来ねーだろ…」
そう言うと、颯は自転車を止めた。
途中にある公園の中だった。
自転車を降りた。
「…出来るとか、出来ないとかじゃなくて…
私はただ、あそこに行きたかったの!」
自然と語気が強くなった。
目頭がカッと熱くなる。
「…俺、お前に言ったよな…お前の分も背負って全国に行くって」
颯は涙が溢れて止まらない、私の頰を優しく包み込んだ。
「俺たち、二人揃って行くのが昔からの約束だっただろう」
あの遠い日の約束をまだ、颯は覚えていた。
「…でも、私は…自分の手で全国に行きたかったの…もう、お兄ちゃんの荷物になるなの嫌なの」
颯の目が見開いた。少し寂しそうな顔だった。
涙を拭ってやりながら、今までの奏を思い出していた。
ある日を境に、猛勉強し出した奏は学校でも
成績が上位になり、進学校である白凌に薦められたのだった。
迷わず、奏はそこにすると決めたらしい。
元々、そこに通いたかったのだ。
だが、俺がこのことを知ったのは受験3日前だった。
合格をしたその日、奏は母と一緒に学校へ行き入学することを決めた。
それからというもの、入学してからは普段よりも容姿を気になり出したり、たまにニヤついては、顔が紅くなったりと、何かに恋をするような感じだった。
先輩である藤堂(?)の話しを母としている時の顔を眺めれば、何となくそう思えて来た。
なんだよ、コイツ…
この時の感情を俺は何だのか、まだ分からなかった。
ただ胸のうちに残ったのは『藤堂』という響きだった。
奏の頭をポンポンと撫でると、もう泣き止んでいたらしい。
若干ふて腐れながら、上目遣いで言ってきた。
「お母さん、心配するから帰ろう」
俺たちは自転車にまたがり帰路へと向かった。
颯…ごめんね……私は、今がすごくいいの…