3gole :その手は
「先生、体験だけでもだめなんすか?」
後ろで聞き覚えのある、低い声がした。
肩に重みを感じた。
「俺、コイツが来たら、今まで以上に部活しやすくなるかなと思うんすよね」
「藤堂……」
新垣先生は私の後ろにいる人に諦めにも似た声で返していた。
藤堂……先輩?
私は、ゆっくりと首をその方向に向けた。
「セラさんはどう思う?」
いつか見た、あの笑顔がそこにあった。
肩に手を乗せて、私の横に立っている。
「藤堂…しかしなぁ…」
「先生の気持ちは分かりますが、俺的には心配無いと思いますよ」
「お前のせいで…ってこともあり得るんだぞ」
「ーー私は、この部のマネージャーをしたいんです!皆んなの役に立って、全国に行きたいんです!」
すると、新垣先生は大きく目を見開いた。
「…ですって」
藤堂先輩は予想していたかのような、自信に満ち溢れた顔で先生に聞いた。
「……分かった。瀬良。お前をバスケ部のマネージャーとして許可する。」
私は、驚きと嬉しさが入り混じって上手く声が出せなかった。
いつの間にか、涙も溢れていた。
「良かったな」
藤堂先輩は、そう言いながら私の頭を優しく撫でてくれた。
「……よろしく…おねが…いじまず!」
さっきまでとは違う、優しい顔をした先生がいた。
「藤堂。放課後この子を私のとこまで連れて来なさい」
「分かりました」
「……奏!どうだった?」
結菜もバスケ部の事情を知ってるので、心配そうな顔で聞いて来た。
泣いた後の顔だったので、結菜の顔がみるみるうちに沈んでいく。
「……入部、許可されたよ」
「…え!えぇぇ!!うそぉ!」
結菜はグラミー賞獲得した女優並みに、大きなリアクションをした。
私が、渾身の笑顔で頷くと、目に涙を浮かべながら、ブンブンと首を振って頷き返してくれた。
「ほんっ……とに良かった!良かったよ!
これで、目標果たせれるね!」
「うん!」
午後の授業はあっという間に過ぎていったーー
「セラさーん。」
聞き覚えのある声が廊下からした。
『え!藤堂先輩だ!』
クラスの女子が騒ぎ出した。
『藤堂先輩!チワッス!!』
バスケ部である男子生徒は大声で挨拶していた。
「奏!藤堂先輩来てるよ!」
「…あ!そうだった!新垣先生のところに案内してもらうんだった!行ってくる!」
「はーい。じゃ先帰ってるね」
結菜はヒラヒラと手を振りながら、廊下に出た。
「バイバイ!また明日ー!」
私は、荷物をまとめ終えると急いで先輩の元へ駆け寄ったーー