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:PlaceMentS  作者: 涼成犬子
第1章 Separate
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空に願いをⅢ

 フェガはそれを見届けて、全ての魔砲を処理しながら散った弾の残骸を一瞥して、処刑台に向かう。

 フェガが弾丸を弾いたのは、全亜人に共通する特性によるものだった。人間や亜人、妖精は体内にそれぞれフィリアを保有している。亜人は人間や妖精に比べ、その量が圧倒的に少ないとされていて、それは体内にあるフィリアを体内に溜め込めないことが原因である。亜人界は空気中のフィリアが元々少ないため、その環境に順応したのだと考えられている。

 その亜人達が異世界のフィリアを多く含む空気を取り込んだ場合、どうなるか。体内保有量の限界以上に取り入れられたフィリアを体外に放出するのである。

 魔砲の弾が飛んでいるのは、あくまで魔道具フィリアツールによってそう魔術がかけられているから。それがフェガの身体に触れると、体内から放出されたフィリアと魔道具による魔術が混ざり合い、魔術が消えてしまう。弾はただの金属に戻り、その場で停止してしまうというわけだ。なお、この特性は呼吸の大きさに比例して発揮する。

 フェガは力強い跳躍で処刑台へと跳び上がる。三人が無傷であることを確認して、ほっとした雰囲気が少なからず現れていた。


「フェガさん!助け——」

「乗れ」


 メロンの歓声を制して、フェガは三人に背中を向ける。それは言外に時間が惜しいということを伝えていた。現に先ほどまでフェガを追いかけていた兵士達は既に態勢を立て直し、フェガ達に迫ってきていた。

 プシノはメロンに、メロンとグリーはフェガの背中に跨り、身を屈めた。


「行くぞ」


 まさに風、そのもの。王の都を吹き抜けていく、夏の突風。メロンは今まさに、自分がそうなっていると思った。外へ繋がる城門への一本道を駆け抜ける。周りの景色を置き去りにして、自分だけが前に進んでいるような、そんな感覚。

 だがそれも長くは続かない。城門の前にはフェガ達を逃すまいと、数えきれないほどの王立軍が立ちはだかっているのが遠目に見えていた。


「プシノ!グリーとメロンを城壁の上まで飛ばせるか⁉」


 速度を少し落としながら、フェガはプシノに問う。


「やれます!飛ばすだけならそれほど力も使いませんから!」

「城壁の上までは流石に届かん!跳ぶには、俺自身の力が足りない!俺が時間を稼ぐから——」

「放り上げるのは三名でよろしいですか?」


 プシノが不敵な声で、フェガの言葉を遮る。自分への負担など気にすることはない、と。普段のプシノからは出ないような声音に、三人は驚きを隠せなかった。だがそれが、本人の自信の程を顕著に表していると言えた。


「頼むぞ」

「はい!」


 頼もしい仲間がいることに、フェガは知らず笑みを零した。

 だんだんと兵士達の姿が大きくなっていく。会話を終えて再び加速したフェガに、三人は必死にしがみつく。身体を低くしていないと、風圧で吹き飛ばされてしまうだろうことは簡単に予測できた。


「射程距離です!フェガさんは人の姿に戻ってください!」

「了解だ!」


 急ブレーキをかけ、背中の三人を下す。逃亡者が止まったのを見て、観念したと思ったのか、兵士達はじりじりと距離を詰めてくる。気がつけば細い脇道や後方にも兵士達は配置されていて、フェガ達は再び囲まれていた。


「気を付けろ!また空中から逃げ出すかもしれん!」


 同じ轍は踏まぬと魔砲部隊も既に出動していて、いつでも撃てるよう狙いを定めていた。


「うーん……。もしかして今、結構やばいかな?」

「間違いなくやばいだろうな」


 あははと笑いながらも、メロンとグリーの顔は強張っている。


「でも、問題ないだろう?——プシノなら」


 人間の姿に戻ったフェガは強気な笑顔浮かべ、そこからはプシノへの強い信頼が伺えた。


「任せてください!」


 プシノは城壁頂上をじっと見つめ、魔術ユースフィリアのイメージを固めていく。全員が揃ってこの場を脱して笑い、喜び合う。そんな未来を思い描いた。


「行きます!皆さんが無事に着地出来ますように!」

「……今なんて?」


 グリーの疑問に答える声はなく、三人の身体は重力に逆らい浮き始める。プシノはいっぱいに伸ばした両腕を城壁上空に向かって振り上げ、三人を宙に打ち出した。


「撃て!」


 待っていたとばかりに、王立軍の兵士達が飛行するメロン達を狙い弾丸の嵐が襲い掛かる。

 

「掴まれ!」


 フェガは二人に向かい手を伸ばした。メロンとグリーは空中でなんとかその手を捕まえる。瞬間、フェガは二人を抱え込み、地面に背を向け再び大きく息を吸う。身体を盾として使い、飛び交う弾をいくつも無力化した。だが——。


「フェガさん、落ち始めてる!」


 大きく呼吸したことにより、フェガは自分にかけられた魔術も同時に解除してしまった。

 次は自分がフェガを助けようとメロンがフェガに手を伸ばす。しかし、フェガはその手を掴もうとはしなかった。自分が触れば、メロンにかけられている魔術さえも解けかねない。


「そんな……もう少しなのに!」


 城壁はもうそこまで迫っている。メロンとグリーの高さなら転がりこめる。フェガは激突の衝撃に備えようと、受け身の準備を始めていた。


「フェガ!手伸ばして!」


 フェガは壁上から聞こえた声に反射的に従い、手を伸ばす。

 がっしりと掴まれる感触。力強く引き上げられ、城壁の縁に手を掛ける。

 身体を上げた瞬間、元いた場所を数多の弾丸が襲った。

 城壁の上では何人もの人が倒れていた。その中にはメロンとグリーもいたが、ただ一つだけ、立ち上がって自分を見下ろしている姿があった。


「お疲れ様。最後の詰めが甘かったわね」


 にっと笑うリオの顔は、戦場にいるとは思えないほど晴れやかで。全員の無事を喜び、満足気に腕組みをするリオはフェガには少し子供っぽく見えた。


「奴らを逃がすな!上に増援を送れ!」


 下から聞こえる王立軍たちの声はまだ諦めていないことを示していた。


「ここにいる奴らはリオが?」


 フェガは失神している兵士の山を見て彼らが気の毒になったのか、リオを見る目に若干の非難の色が含まれていた。


「そうよ。どいつもこいつも鍛え方がなってなかったら……ち、ちょっと指南しただけよ」


 リオは誤魔化すように眼を逸らすと、メロンとグリーを起こしに向かった。


「皆さん無事でしたか⁉」


 兵士達の眼を盗んで飛んできたプシノがフェガの周りを飛び回る。


「大丈夫だよー。プシノのおかげで助かっちゃった!」

「ほんと、いつ死んでもおかしくなかったけどな」


 起き上がったメロンとグリーが、プシノの労を労う。


「いえ、私なんて全然……皆さんのおかげです」

「はーい、話は後でゆっくりね。予定通りなら、そろそろ《《あっち》》も到着する頃。さっさとここから離れるよ」


 リオは城外の空をちらりと見ながら、四人の脱出準備を促す。城壁内の通路から階段を駆け上る騒がしい音が聞こえてくる。王立軍の兵士達が、すぐそこまで迫っていた。


「どうした?」


 城門付近から離れるために城壁の上を移動する最中、フェガはメロンが後方で立ち止まっていることに気がついた。


「ごめん、少しだけ時間頂戴!」

「それは?」


 メロンの手には銀色に光る銃身の短い小型の魔砲が握られていた。


「テルンから預かってた魔道具フィリアツールなの。元々はこれを祭で打ち上げる予定だったって」

「そういえばマリーディアの王立軍基地に忍び込んだのも、もともとはそれが目的だったな。思わぬ形で役に立ったわけだが」


 二人の会話に気付き、先行していたリオ達も戻って来る。


「二人とも何やって……ああ、そういえばそんなのもあったわね」

「なんだそれ?」

「見てたら分かりますよ」


 二度目の問いに答える前に、プシノがメロンに目配せする。メロンはこくりと返事をして、魔砲の銃把を右手でしっかりと握り直した。

 テルンに託されたそれを、最後にもう一度だけ愛おしそうに見つめる。ふっと息を吐き出して、腕をゆっくりと天に突き上げた。


「私達の思い、届くといいな」


 引き金を引く。軽く弾けるような音がして、赤い光が滑るように昇っていく。


「メロン!時間切れよ!」


 リオの指さす方向に、月明かりに浮かぶ飛行編隊。それを見つけたのはリオ達だけではなかった。


「妖精の襲来! 魔砲部隊準備! 敵に城壁を超えさせるな!」


 メロン達を追いかけていた兵士が声を上げ、全体に伝達する。数えきれないほどの魔砲が、新たな敵を迎え撃つべく備えられた。

 慌ただしい彼らを尻目に、メロン達はそっと城壁から飛び降り、闇へと紛れていく。

 夏の夜空。解放された夜空。多くの人々が望む、都の夜空。そこに意思を載せて輝く文字達メッセージ

 離れた二人にも、同じ空が見えている。その無事を祈って、メロンは思いを巡らせた。


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