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:PlaceMentS  作者: 涼成犬子
第1章 Separate
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空に願いをⅡ

「眺めだけはいいんだね、ここ」

「メロンさーん。現実に目を向けましょー」

「こういう時なんていうか、俺知ってるぞ。ミイラ取りがミイラ——」

「それは言わない約束だよー」


 三人佇む、処刑台の上。その周り三百六十度にはいかつい顔をし、武器を振り上げる人々。

 助けに駆けつけ、グリーの自由を確保して、三人で無事を確認しあった、その直後。素早い統率のとれた行動で、処刑台の周りを取り囲んだ王立軍兵士達。処刑台の階段をプシノによって破壊され上に登れなくなってしまい、ただ睨みを効かせて包囲している。

 実質的に空の孤島となった処刑台の上で、三人は途方に暮れていた。


「プシノの魔法で飛んでいけないかなあ」

「人間二人を抱えて長く飛べるほど、私の魔法フィリアは強くないんです。ごめんなさい……」

「ご、ごめん!責めてるわけじゃないんだよ」


 しょぼんと落ち込んだプシノを慌てた様子で自分の言葉を訂正する。


「でも、こうなることくらい予想出来ただろ?なんか対策を用意してるんじゃ……リオが」

「私たちじゃないんだ……まあ、否定できないけど」


 二人の乾いた笑いが夜空に散っていく。下の兵士達がはしごか何かを持ってきてしまったら、その瞬間に全てが終わる。この状況に陥るまで、メロン達はこういった事態を一切考えていなかった。とにかく処刑台に辿りつく、それしか考えていなかった。


 *   *   *


「おい! 誰か魔砲フィリアガンを持ってこい!」


 そんな時、メロン達の知らぬところで兵士達に新たな動きが見られた。木製の処刑台の柱は相当に太く、剣で切り倒せるものではない。はしごを取りにいった者はなかなか帰って来ず、敵を目の前に何もできないじれったさが、その場の空気全体を苛立ったものにさせていた。


「しかし街中での魔砲使用許可は出ていません!」


 魔砲は特性上、発射された弾が規定された直線距離分飛んでいく。例え障害物があろうとも、止まることはないのである。

 これを街の中で発砲した場合、どうなるか。

 場所を選び、直線的で視界の取れている場所で使用する分には問題ないだろう。 しかし以前、王立軍が犯罪者を追っている最中、魔砲を使用しそれが民家などを貫通して生活している国民に当たり、即死させるという事故が発生した。これ以来国民の強い反対から、街中で魔砲を使用するのは禁止となっている。


「構うか!空に向かって撃つんだ。他の誰かに当たったりするか!」

「は、はい!」


 上官に怒鳴られびくびくとしながら、部下である兵士が駆けていこうとしたところで、また新たなお達しがその背中に投げられた。


「それと、お前一人で行くな! 何人かで行ってこい! さっきから一人でお遣いもできない奴が多すぎる!」

「りょ、了解です! 誰か、武器庫に行くのを手伝ってくれ!」


 *   *   *


「あーらら。今度は十人か。そろそろ厳しいわね」


 リオははしごを取りにいった兵士を次々と眠らせ、メロン達を救出するための時間を稼いでいた。


「ていうか弾薬も打ち切っちゃったし、ここまでかしらね。私の仕事はおーしまい」


 その場で立ち上がりんっと伸びをして、長時間の同じ態勢で凝り固まった身体と、集中していた精神を弛緩させる。


「あとは頼んだわよ——こわーい狼さん?」


 再び聞こえた遠吠えに、リオはどこか楽しそうだった。


*   *   *


「各員、亜人の襲撃に警戒せよ!」


 処刑台を囲む兵士達に、緊張が走る。国民のほとんどはこの場から、より兵士の多い貴族街の方へと避難が完了している。恐怖する心は兵士も国民も変わらなかったが、義務感と使命感が彼らの足を広場に縛り付けていた。


「目的はこの上にいる奴らに間違いない!武神団の手など借りずとも、我ら軍だけで事足りるということを見せつけてやるのだ!」


 兵士達が鬨の声を上げ、気を引き締めている様子を、メロン達は処刑台の縁から覗き込んでいた。


「そういえば、武神団の姿が見えないね」

「確かに……エドバ以外の武神団員はどこにいったのでしょうか? 処刑開始の際はいたと思うのですが」

「今頃王城の周りをぐるっと取り囲んでるんだろうよ。フィーネルのとこは昔っから王様第一主義だからな」


 グリーの想像通り、武神団は貴族街の最奥で王城の周りに配置されていた。テルン達が登場し、フェガの遠吠えが聞こえる頃には既にそれが完了しているという対応の速さだった。処刑人の救出の方が囮で、王城に攻め入るのが真の目的ではないかという憶測が王の側近達の間で飛び交ったからである。


「俺達にとっては有難いこった。エドバだけはテルンの方にくっついてるみたいだが、あいつならなんとかするだろ」

「そう……だね。大丈夫だよね」

「そうですよ。むしろ私たちの方がまずいです……」

「だよねえ」


 思わずため息をついた三人の脱力具合とは対照的に、下の兵士たちは張りつめた表情で周囲を見回していた。処刑台に背を向けるようにして、全方位を監視する。

 

「あそこだ!」


 兵士の一人が、城壁の上を指さす。初めに現れた時より、ずっと近い位置。そこで月明かりに照らされたフェガのシルエットを、全員が視認した。


「総員、迎撃態勢!」


 途端、フェガの姿が消える。城壁から飛び降り、風のように駆けていく。亜人討伐の名誉を得ようと逸る者たちが、自分を奮い立たせるように雄叫びをあげながらフェガに向かい先行していく。

 

「お前ら!陣形を崩すな!……くそっ!総員突撃!」


 王立軍に所属するほとんどの兵士は実戦に参加したことがないというのが実状であった。訓練はもちろん厳しいが、それでも命の保証はされている。自分の命を危険に晒すなどという経験はなく、その覚悟も持っていない者がほとんどなのである。更に初めて出会った未知の相手への恐怖心や緊張感。それらが彼らの理性や冷静な判断力を鈍らせていた。

 フェガと王立軍の距離が縮まっていく。広場に通じる直線の通路にフェガが飛び出す。兵士達の目の前に現れた狼は、人間界にいるそれとは比べ物にならない大きさで。暗い茶色の毛皮に包まれた獣。目が合えば身体が金縛りにあったように動かなくなる。喉の奥から漏れ出す声は、兵士達には威嚇する唸り声に感じられた。


「ひ、怯むな!しがみついてでも奴を止めろ!」


 フェガとの邂逅は思考の停止による時間の空白を生み出していた。なんとか勇気を絞り出したといった声。それでも、沈黙を破るきっかけとしては充分なもので、兵たちは再び剣を構え、フェガに向かって突撃していく。

 それを合図にして、フェガも同時に走り出す。だが、フェガの瞳に兵士達の姿は一つとして映っていなかった。

 兵士達とぶつかり合う刹那、フェガの足に強烈な力が集まる。俗に言う『足の溜め』を解放して、フェガは自分の巨体を宙へと送り出した。

 後日兵士は、高く跳ぶフェガを空を渡っているようだったと形容した。月明かりによって照らされたフェガの影が兵士達を覆う。切り替えそうと反転した先頭の兵士達が後続とぶつかり、連鎖的に次々と倒れていく。もう誰も、フェガを追えてはいなかった。


「フェガ!ここだー!」


 処刑台の上から身を乗り出し、三人はフェガに向かい手を振った。


「撃て!」


 その瞬間、宙に走る幾多もの弾丸の軌跡。処刑台の三人は、弾丸が掠めた事実に悲鳴を上げ、慌てて身を伏せる。

 魔砲を取りに行っていた兵士達がようやく戻り、罪人に狙いを定めていた。武器庫から戻ってみれば、自分たち以外処刑台の周りには数人が残るばかりで、ほとんどがその場から離れていく。状況を飲み込めずにいたが、自分たちは当初の目的通り、処刑を続行しようと決めたのだった。

 この判断は意図せず彼らにとって最善のものだった。この戦いの軍側の勝利条件は、襲撃者側の最終目標を阻止すること。つまり、処刑を完了させることにある。それが何よりの優先事項で、兵士達が無意識に理解していたことだった。

 処刑台に飛び上がる前に、フェガはそれを捻じ曲げにかかる。


「照準を右に!仕留めろ!撃ち殺せ!」


 高速で通路から飛び出したフェガが進路を変えてこちらに向かってくる。それを確認して、魔砲兵たちは銃口を処刑台からフェガへと切り替えた。落ち着いたその対応は、強力な武装を持った故の余裕から来るものか。市街での発砲禁止を忘れているのは、その力故の傲慢か。

 全てを加味し、その判断は——最悪と言わざるを得なかった。


「撃て!」


 掛け声に合わせて、総勢八丁の銃口が火を噴く。

 フェガは大きく息を吸いながら構わず直進し、八つの弾丸と交わり——弾を弾き飛ばした。


「そんな! もう一度——!」

 

 次の言葉が続く前に、衝撃が彼らを襲う。手に握っていた魔砲はフェガにもぎ取られ、耳に残る音を立てて噛み砕かれた。

 起き上がり見上げれば、大狼に見下ろされている。逆光で暗くなった影の中で強烈に輝く、二つの瞳。目が合った。


「し、死にたくね……え」


 死の塊に、極限の恐怖に遭遇して、精神は一度そこから逃れる道を選ぶ。

 フェガはそれを見届けて、全ての魔砲を処理しながら散った弾の残骸を一瞥して、処刑台に向かった。

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