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空気属性『ステルスチート』の進路  作者: 笹見 暮
本編第一部終章:『月に筆を』
95/103

第六十四月:主人公の死を感じたい星人 ②

────




「 ねえ 」



 なにしてるの? と、突然背後から声を掛けられ、あたしは咄嗟に蹴る動作に待ったをかけた。


「……ぁ、えーと……生徒会長?」

「はい。そんな肩書きを持つ人をやってます」


 いわゆる清楚系に気持ちばかりの遊びを施したルックスの先輩──柊乃玲奈。

 この人は別に注意しに駆け付けたと言った様子ではなく、好奇心の赴くままに声を掛けてきたみたいな笑みを浮かべていた。


「あっ! 白桃狐? めずらしい徘徊者だねぇ」


 狐……?

 そんなことを言われ、あたしは……いたっけ? なんて思いながら視線を目標へ戻す。


「え、あ……」


 生徒会長の言う通り、あたしの前にいたのは純白の綿毛のような体毛で覆われた獣。桃の色と似た瞳がこちらを一瞥した後、その子は走り去ってしまった。

 ……男子生徒……は? 見渡してみても、街路の電柱の影や、道の先の何処にもいない。どうして?

 バグだった……とは、思えないけど……?


「白桃狐は琴乃葉に住んでる神様とされております。良かったですねっ、踏まないで」

「まぁ、はい、そうですね。ありがとうございます先輩。あたしボーっとしてました」


 蹴ろうとしてましたなんて言えますかって。

 あたしの無表情対応を見て、柊乃先輩は人懐っこそうに笑っていた。

 そうして、一つ咳ばらいし、


「あなたが瀬田愛梨さん? サラセニアにアカウントを持ってるって聞いたのですけど」


 クラスの子にでも聞いたんだろうか。

 そう窺ってみると、どうやら教室を出る時のやり取りを偶然耳にしていたらしい。


「まぁ、一応……ネット友達の付き添いで遊びに行く程度ですが」


 それだけを聞いて追いかけてきたみたいだけど、面倒な話をされても嫌なので、先に自分は低浮上のエンジョイ勢であると防衛線を引いた。

 エンジョイ勢ってのは……アイリのアカウントでの話なので、今は……うん。

 とにかくあたしがアカウントを持っていると確認がとれて、先輩は輝かんばかりの笑顔を咲かせた。


「十分! いいですよね、サラセニア! お手軽に開拓とか出来るし!」

「そうですね。最近は治安が終わってますが」


 一瞬、亜種の女が脳裏を過って口調が強くなった。あたしもしつこいな。いい加減ちゃんと忘れよう。終わった事なんだから。

 そんなことより、『十分』ってなんだろう。


「あの、先輩。要件は……?」

「それ。……あの、近い内に滝都アクテルと秘都クレイトで雌雄決着があるのはご存じでしょうか?」


 少し身構える。

 面倒な話がきそうだぞ。


「はい、知ってます」

「そのことでお願いがありまして……滝都側の戦力に加わる事は可能でしょうか」


 花咲く地獄から手招きされたぞ。

 どうしましょう愛梨さん。


「滝都……ですか。あたしのアカウントは樹都に留まっているので、遠出は事情(二乗)無理です」


 なにより、優先順位の高い調査の仕事があるので、タスクが増えるのは勘弁だ。

 はっきりとできませんって伝えたつもりだが……先輩は他を当たろうとはしてくれないようだった。


「樹都なら近い。現場まで全然遠くありませんっ。どうか、お願い瀬田さん!」


 懇願のお手本其の一、合掌と瞑目を合わせて使おう。

 相手が黙ったままの時は、その流れで上目遣いに転じてみましょう。みたいなことを地でする人初めて見た。


「……」


 ファイユ・アーツレイは樹都の森の管理者だ。

 昼は実習生の行動に目を光らせ、夜は魔法樹の魂欲しさにやってくる亡者共を駆逐しなければならない。

 それら表向きに行っている仕事だけでもキャパオーバーになる事が多々あって、無理な時はククにも手伝ってもらっているくらいだ。

 その上に主人公捜しやそれに伴う雑用までしている中……余所の宮地対宮地イベに干渉などすると、あたしは発狂を通り越して無になると思う。


 いっそソレを言ってやろうか。

 ああ、言えるものならどんなに楽だろう。

 あたしが元最強少女ファイユ、又を舟都セリフュージ代表ファイユの名を借りて活動している理由などは、アーツレイ家とククしか知らない話。

 他言無用。生と死の狭間に築かれた樹都を、全クラフトユーザーの最終防衛基地として再興する事。

 ファイユ代表が危惧したサラセニア運営による『天罰』に備える為の布陣は崩せない。情報が洩れ、真っ先に叩かれては敵わないから。

 この人にも……そう言えたら、どれだけ断りやすいことだろうか。


「───そうですね……準ゲストって形なら出来なくはないかもです。適当言ってますけど」

「準ゲスト? ゲストアカウントを持ってるんですか?」

「まぁ……ホント友達の付き添いだったんで、成り行きで招待コードを頂いたと言いますか……」


 他世界からのアカウント移行によって定義付けされる『ゲスト』。

 そして、ゲストの副アカウントとして称される『準ゲスト』。

 両方それぞれに特権はあれど、準ゲストに関してはもう……一度ファイユ代表に見せてもらった『アレ』は、極悪チートと言える。

 柊乃先輩の反応を見るに、準ゲストが起こせる特権については疎いようで、ただゲストアカウントを持っている点に関心を寄せていた。


「そう……そっか。ゲストなら……うん」


 ゲストは移行させたアカウント。つまり、移行先の環境に適応しきれない場合がある。

 とくに、琴乃葉みたいな現代風温和世界と、冒険活劇殺伐世界では真逆にもほどがあるから、なにかあっては大変だ。

 そこら辺のリスクを考えているのか、先輩はぶつぶつと呟いた挙句……。


「──に、置けば……っ。うん、大丈夫! 上手くイけそう!」

「……なにが……?」


 作戦でも決まったのか……とりあえず、あたしが承諾してみせた事を、大いに喜んでいるようだった。




────

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