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空気属性『ステルスチート』の進路  作者: 笹見 暮
本編第一部:秘都クレイト凶行
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第五十七月:強者と狂者とky…




「──さあ、勇者さんはディフェンスなんで、コラプスのこちらから攻めましょうか」


 ろろあくとは一度両手を擦り合わせ、弓を引くようにゆっくりと前後の位置へ構え、同時に腰を深く……深く落としていく。


「やるならとめどなく……。情けはやり終えてから」


 その隣で、シバコイヌさんが胸に手を当てて戒めを呟くと、彼の周囲に浮遊する歯車の内数個が回転を始めた。


 ─── ── ─直後、ろろあくとが先風を起こす。


 僕とハウの獣衣装で出せる限界速度とはなんだったのかと目を疑わす俊敏な動き。

 右へ左へ、ジグザグの軌跡を閃かせ、彼女は突っ立ったままのペルテルさんとの距離を詰め、一瞬の内に背後へ回った。


 ──……でも、何故か撃打へは移らない。

 虚空を漂い、白と黒の背を目で捕えるだけだ。


 一方のペルテルさんもピクリとも動かな……いや、あの人は背後を取られようともお構いなしに、最初からずっと、シバコイヌさんを眼で射抜き続けているようだった。



 優先的に警戒すべきは、動より静ってこと──?



 知性ある獣による冷たい牽制に、シバコイヌさんの様子は……──怖気づいた気配は一切無い。

 その時、彼の表情を覆い隠す漆黒の顔の近くで、二つの歯車が砕け散った。



 期はここらしい──!



 動にシバコイヌさんが加わり、新たな光景が現れる。

 ペルテルさんの背を捉えていたろろあくとの位置に開拓テーブルを展開させたシバコイヌさんが入れ替わり、彼女の正面では炎の猛りと見紛う大きな獣耳が湧いて出たのだ!


 瞬間移動アイテム、歯輪を用いた攻勢。陽動──からの、突発的変化。

 僕がそう理解した刹那に、二動静一の画を中心とした地面をろろあくとが触れた瞬間、テクスチャバグらしきノイズが走り、色が消失──広範囲に渡る円形の奈落が口を開いた。


 ふわりと宙に投げ出された三者(四者?)に次なる展開が──秒針の音も待たずに訪れた。


 ペルテルさんが高速で飛翔する無数の光の粒で覆われたかと思ったら、その光は『家』へと変わる。更にその家は彼女を包み込み、それだけには止まらずに増築──増築、増築増築増築増築を加えまくり、建造物の団子を形成した!


「『強いヤツには触れるな』。これ鉄則な!」

「シバコイヌさん! 船への道も!」


 穴の縁にそれぞれ着地した彼らは息つく暇も無く次の行動フェイズに進もうとする──が、やはりそうもいかないのが、強者との闘いと言うモノか。

 見た目二十戸以上の家で練り固められた大きな塊が、折り紙を開くようにして解かれたと皆が気付いた時だ。彼女──真の勇者の動は、他の認識よりも一歩早かったらしい。


「ンぐっ!?」


 ろろあくとの顔が、ペルテルさんの手で鷲掴みにされていた……!

 続け様に、ハウも乗るその頭は全体重を乗せられるように、思い切り地面に叩きつけられる。優しさなど一切伝わらない。地を抉り土埃を上げる中で、ペルテルさんのメカニカルな四つ足が、無慈悲に駆け出した──。


「ロロぉ!!」


 千切れ飛ぶ草花に弾き飛ばされる小石。一直線に立ち昇る土埃に人が削られるような音が遠ざかる。

 

「おいおい、狩人共の射程に放る気か!?」


 可愛い男の子の容姿をしたお姉さんにやる所業じゃねぇと、シバコイヌさんは開拓テーブルを複数追加展開し、全てに手を通す。すると、ペルテルさんの向かう先にズラリと並ぶ槍の壁が出現。それらを前に、流石の彼女も急ブレーキを掛けざるを得なかったようだ。



 ところが、完全には止まらず、ろろあくとを持ったまま身を翻し──?



 なんと、その背後に瞬間移動し隙を突こうと飛び込んだシバコイヌさんに向けて、痛めつけた獲物をぶん投げた。

 不意を狙い不意を狙われる。それが成功されてしまえば、当然痛手を負うのは……。



「──コ゜ッぉぷ???!」



 放られたろろあくとの背を腹に受け、シバコイヌさんすらも弾き飛ばされる。当然ながら、それで終わりな訳がないのだろう。


 ペルテルさんの胸前に縦長の開拓テーブルが構成されたのを見た。

 それを撫で上げる白亜色の手に合わせ、宙に浮く無防備な二人を瞬時に飲み込む灯台に似た塔が聳え立つ。

 高い──かなり高い塔だ。その天辺は檻のような構造をしていた。多分、二人はあの中……!


 次いで、アレは賢いのか意地悪なのか……育ち切った塔で、全方向に向けて幾つもの垂れ幕開いた。それらには『当たりクジはこの中!』『狙うなら今!』『大サービスタイムキターーー(゜∀゜)ーーー!!』などの文字が踊る。挙句の果てに、花火まで打ち上がった。


「 わー 」


 ペチペチとお手々を叩いて言うセリフが、無感情の一人歓声とは……。

 強者が過ぎるペルテルさんのトスにより、遠くから野太い歓声が響き渡る。それはつまり、そういうこと。──あの塔がスタンド席にいる輩たちに認知された。それはつまり、どういう事か。──言わずもがな、だ。


 微かに青く霞むイベント会場の全方位で、数えられない量の光が瞬き──間もなく衝突が起こる。

 塔の先端は乱れ飛ぶ弾丸砲弾、果てはSF映画なんかで見るレーザービームらしき発光熱線を受け、ものの数秒で大破。塔自体もあっさりとへし折られ、ハウ達の安否も視認出来ぬまま派手に崩れ落ちた。


 その様子を、悠然と歩きながら眺めているペルテルさん。


 その様子を、遠くから眺めるしかする事が無い僕の名はキキ。



 ……怖ぇ。

 塞がらない口に爆風で飛んできた草が入るも、リアクションを起こせない。

 怖ぇから……!



 ここは完全にペルテルさんのホーム状態にある。それを、この一瞬で目の当たりにされ、僕の頭の中では……絶対に……絶対に、彼女を出し抜く術など無いと結論づけてしまっていた。

 やる気満々で嗾けたシバコイヌさん達には悪いが、もう、総合戦力で負けている時点で、こんな戦いに意味などないとさえ感じている。

 勝負は最初から見えていたんだ。



 ──それなのに、どうして。



「 ……っ。──……まだ、やりまして? 」


 ペルテルさんは、硝煙と砂埃を掻き分けて姿を現す……彼らへ問うたようだ。



「……ははっ。そういえば、まだ転生者狩りのイベント中っしたね」


「声に苛立ちが見えるぞ。変な事考えるなよロロ」



 両者、勇者の問いかけに態度で示す。

 遠目からでも分かる。ノーダメージと言うわけではなかろうに。再び攻撃態勢を取る彼らをすがみ、ペルテルさんが了承の意を込めてか、一度強く地面を踏みつけて歩みを止め……静かに相対す。


 ……またも、空気が張りつめる。

 今度はどちらから仕掛けるのか──と、思いきや、唐突にシバコイヌさんが笑い出した。


「そうそう! ああ、これだよな。これこれ。……その皆を巻き込むエンターテイナーっぷりが、推すきっかけになったんだよな」


「?」

「 ? 」

「?」


「暗都の軍部で黒晶の兵を率いてた時とかも、端っこから眺めながら思ってたっけ。……交わりそうで交わらない間柄でもいいから、ずっと応援していきたいなって」

「シバコイヌさん? RTAやろうって時に余計な事、またトークタイム挟むんすか?」

「まあまぁ──それをさ、そんな心を見事に裏切ってくれて、大いに冷めたもんさ。ねー、勇者様ぁ?」


「 ……あ……そう。あなた、それで暗都の軍装……亜種正装をしていたのね。納得 」


「軍人の端くれなんて眼中に入れた事ないっしょ? どうせ忙しくて……いやいやそれとも、どこぞの男に夢中で、宮地が消える時までお花畑にいたからか?」


 男?

「男って?」


「それが誰とかは野暮だから言わないよ。ただ……これ見よがしな、そのヤツとお揃いの四つ足装威にみんなお察し状態だったかな」


「 ………… 」


「……つまり、彼氏バレ? うわマジ? もしかしてシバコイヌさん、あの人に彼氏発覚したから推すのやめた感じっすか?」

「にやけながら言ってんじゃねぇ。大問題だったんだぞっ」

「あー、すいやせん」


 ろろあくとが微妙な笑みを浮かばせているのは、失態をしたペルテルさんに対してでありそうだが……。むしろ、お隣で憤怒している人に向けた嘲笑との印象が強い。

 てか、シバコイヌさんったら処女しか乗せないとされるユニコーン(蔑称)だったとか……ここから狂信者の逆襲が始まるのか。怖ぇ。


「みんなを失望させた事に謝罪はいらねぇ。ただ、しょうもない感情はぶつけさせてもらうぞ」


 話は終わり。シバコイヌさんの歯輪全てが回転し、内一つが砕けた。それと入れ替わる形で、ペルテルさんをドーム状に囲む幾枚のドアが作られた。──視界を妨げた? 攻撃モーションから軌道を悟られないようにしたのか。では、狙いはやはり死角からの襲撃──……と思ったら、それら全てのドアが一斉にドンドンどんどん鳴り出した。


「勇者様! どうして! 俺達に向けた笑顔は作り物だったんですか! 説明を! そこにいるんでしょ! 答えてくださいよ! 逃げるんですか! 皆、不安に思ってますよ! 貴女が創り上げたモノを捨てた時、どんな気持ちでしたか! ねえねえ、どんな気持ちでしたか!?」



 ……めっちゃ叫ぶシバコイヌさん。そんな彼を見ながら、ずっとにやにやしてるろろあくと。


 まさかの精神攻撃に、見てるだけの僕は「うわぁ……」としか言えんが、強いヤツには触れるなと言った通りの攻撃方法をとるのは一貫してて、なるほどなと思ってみたり。思ってみたり??


 けれど、やがてそれは功を奏したのか、彼女の心に潜む罪悪感を引き出させたらしい。



 ペルテルさんの、「ごめんなさい!」との、騒音に負けないくらいの声が聞こえた。



 途端、ドアは鳴り止み……光の粒となって消え去る。

 そして、シバコイヌさんが、膝から崩れ落ちた。



「チクショウ……! ちゃんと謝れてえらいぃ……ッッッ!!」



 歯を食いしばり、チクショウチクショウ言いながら涙を流して蹲る彼。

 ろろあくとは声を出さずにまだ笑ってる。

 


 僕は、……あー、まだ規制線が生きてるから追撃してくる輩がいないのかなーとか考えていた。




 ……ふぅ。なんだこれ。





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