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空気属性『ステルスチート』の進路  作者: 笹見 暮
本編第一部:秘都クレイト凶行
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第五十四月:『秘宝』を持った転生者



 

「改めましてぇ──……衣君曰くゲストさん。自分は、ろろあくと。シバコイヌさんみたいに、ロロって愛称で呼んでくれてもいいっすからね」

「……はぃ。ぁ、キキって名前でやってます」



 ヨロシクゥーっと、まるでカオスな状況から切り取られた穏やかな空間にいるような……。拍子抜け気味に、僕は差し出された小さな手と握手を交わしていた。



 ろろあくと──。

 少年らしい少し高めの声……なのに、それよりも年上な女性の声も混じる不思議な声色の持ち主だ。

 サイドが長いショートボブな黒髪に、光るような白い肌。カジュアルな装いの探検家を彷彿とさせる服装をしている。見た目十二才くらいの男の子と言った所だろうか。

 加えて、妙に意気投合した感じのハウが煙状となって纏うタイプの獣衣装しているので、存在感が半端無いんだが。


(──ちょっと待って。……狙い撃ちされやすいんじゃないか、この人)


 散々射抜かれてきた恐怖心で全身の毛が逆立つ。咄嗟に霧の向こうへの警戒心を剥き出しにした……が……。


「あ、気にしないで良いっすよ。ここ、亜種の人がお仕事をしている場所なんで、主催側が気を利かせて誰も手出しできないよう規制線引いてるっぽいんすよねー」


 言われてみれば……そう言えばそう。ペルテルさんが現れてからと言うもの、流れ弾すら届かない。僕がそのことに気付いて肩の力を抜いたのを見て、「ね?」──と、ろろあくとは握手をしたまま、僕を引き上げてきた。


「痛っ……」


 立ち上がるんだ若者よ的な流れなんだろうが、ここに来るまでに受けたダメージは相当なもの。立とうにも、痛みで脚がガクガクと震えて、期待に応えれそうにない。


 こんな状態の僕を見て、ろろあくとは「ふんばれぇ〜、ゲストさーん」と手を叩き、ハウは「がんばえ〜、あの時の自分を思い出すんだー」と、投げやりで雑なエールを送ってきた。

 それがしたくて、わざと立たせたのか?

 なんなん? ホントなんなん?


「励ましてくれるのは有り難い話なんですけどねっ。ろろあくと君、回復薬みたいなの持ってない?」

「無いっす。自分転生したてなんで、だいじなもの以外の資材なんかは持って来れてないんすよね」


 服のポケットをパンパンと叩き、「ほらね?」と、物理的に何も持っていないと主張して見せる彼。確かアヴィさんとの会話でも、転生と資材についての言及があったのを思い出す。

 転生した際、以前に所持していたアイテムは現垢に移行出来ない的な話。けど、それは転生返りとか言う特定のアイテムを使用して行える処置をすれば取り戻せるんだったか。


「……そう。じゃあ、僕の役目ってさ、まだあるのかな? それとも、ここで終わり?」


 ろろあくととシバコイヌさんは知り合いのようだった。

 では、シバコイヌさんが言っていた、「立ち回りは奴に聞け」のヤツとは、眼前にいる彼で合っているはずだ。

 震える膝を鷲掴んで抑える。一度休んでしまったせいか、この状態から再びエンジンを掛け直すには、相当な興奮要素が要る。正直要らないので、願うなら、もう終わりにしてほしい。


「──……んーと。それならちょっと外野が乱闘しててうるさいんすけど、一応確認しても大丈夫っすか?」

「? かくにん?」


 人よりも大きな少女の頭とかいう訳のわからない物体とドッタンバッタン大騒ぎしているペルテルさんを尻目にし、彼は立てた人差し指を、徐に僕の腹へ。


「なに を──ッ!?」


 唐突な腹に圧。

 ろろあくとは突然、僕の腹に掌底を捻じ込んできた。

 と思ったら、顔を近づけてきて小さく言吹く。

 

「ゲストさん、この後に自分が言う宣言に、ただ一言『はい』と即答で返して欲しいんす。確認はそれだけなんで」

「ぇ゛え゛?」


 では言いますよと、ろろあくとは大きく息を吸い──、



「──この時より、ゲストさんが持つ小刀『笹流し』に『バグコード』を組み込みます。良ければ、はいとお応え下さい!」


「a はい──!」



 するとどうだ。

 僕の返事とほぼ同時に、幾何学模様が組み込まれた大小様々な二等辺三角形が僕らの退路を阻むが如く、次々と出現した。……どれも赤い光を湛えている。今まで見た二等辺三角形とは違う。明らかに不穏で、見るからに敵意を込められた様相だった。


【 ──警告いたしま 】


 一つが言葉を発し、


【 警告致します。明示されましたユーザー様の宣言には、サラセニア規約権限条項に抵触する恐れがございます 】


 ──もう一つが言葉を繋げる。


【 利用者のアクセス権利の有無が不明です。猶予は── 】

【 ──再度警告いたし 】


「ろろあくと君!?」

「撤回の意思はないっす。絶対成し遂げるんで聞く耳はモタナイヨ」


【 警k告致します。猶予時間超過。これより、準警戒フェイズ解放──プロテクト第一層を有効化、障壁の警醒的可視化を実行します 】


 これは、ただ盗られるだけの時に聞く声明じゃない。

 段階的に処断を告げてきた。──そして、地面から……虚空から滲むように湧いてきた紫色の光が僕らを照らす。光は秒を重ねる毎に強く──更には、小刀『笹流し』を持つ僕を中心に、障壁とやらであろうエフェクトが球体を形成し始める。


「おおっ♪ きましたわー」

「いやいやいやいやいや待って待ってって!」


 ろろあくとの手は、膨張する障壁によって僕の体から押し返されていく。その際に鳴る音は、鈍く重い、電気が走る時の音と似ている。

 当の彼はその仕様に歓喜しているようなんだけど、当方意味がわからない状態なんです、直ちにお助けをッ。


「なんか、なに? とんでもないことをしようとしてる!? こんなセキュリティ知らないんだけどっ!」

「え? ……サラセニア三大秘宝を所持しておいて、その発言はどうなんすか?」


 ジト……っと見上げられても……。残念ながら笹流しは所詮授かりもので、一から十までの詳細を心得ているわけでは無いから。なにそれサラセニア三大秘宝? サラセニアに来てから受けた悲報の方が印象深いのですが?


 ろろあくとは、「でも、本物である事に間違いはないようっすね」と呟き、僕から二歩三歩と身を引いた。そして、両手をパンっと音を立てて合わせ、周囲にあまねく二等辺三角形達に対し、明るい声で言う。


「はい。今、バグコードを破棄しましたっ。もうしません!」


 それと、こちらにも目配せをして、「ね? ゲストさん?」……だって。


「……ぁ、はい」


 これでよかったのか、二等辺三角形はしばしの沈黙を見せた後、一つ又一つと消えていき……最後に残ったものが、


【 警告を終了します。抵触深度中。環境規律の確認項目をバナーに追加致しました 】


 そんな言葉を残し、姿を消した。


 ……辺りは静寂に包まれたぁ──わけではないけど、突然引き出された世界の仕様に、僕は本当に力が抜けて座り込んでしまった。


「なに? なんなの……?」

「なにって、やっぱり確認って大事じゃないっすか。自分らは、これから『本流』に乗る予定なんすから」


 本流……。

 それは、囚われのカゥバンクオルを救うという話か?

 その『自分ら』に、僕らも組み込まれているのか?

 というか、僕が笹流しを持っている事を喋ったのはハウ? これに目を付けられるのは厄介事が増えるだけなのに、お口が軽すぎませぬか?


「なあ、ハウ──」

「にしても外野がうるさいっすねー。シバコイヌさーん、女の子と遊ぶのは程々にー!」


 呆れ顔のろろあくとが言う通り、ペルテルさんが織りなす戦闘は激しさを増していた。気付いてみれば、少女の頭部の形をしていた黒く大きな物体に至っては、髪の毛にあたる糸のような物で幾つもの束を作り、巨大な蜘蛛を模す悍ましい姿に変わっている。

 どうやらそれを操り、ペルテルさんを嬲ろうとしているのは見るからにあの自称勇者様──。


「すまんロロ! やっぱり『秘』はやりたくないってさ彼女っ。ちょっとだけ予定狂うかもしれない!」

「……あ、ここに来て協力拒否られてる感じっすか。なるほどー、なるほどぉ……」


 ペルテルさんは強い。

 何度も拘束しにかかる黒い化け物を相手に圧倒的有利戦へと持ち込んだ末、逆に化け物の方を地面に縫い付け始めていた。


「 この子を扱うのがペルでないから、ペルが扱うよりも脳筋だから……弱いの 」


 ハイ終わり。と、あっという間に動けなくされた化け物を撫で、ペルテルさんは円盤に乗るシバコイヌさんを見上げた。


「 雌雄決着をする価値も無くて。この子はペルのモノ。届けてくれてありがとう 」

「うわぁー、むかつくぅー、どういたしましてぇー」


 まるで見下ろすように見上げられた彼に、更なる悲劇が。

 突然浮いていた円盤が落下し、地面に衝突。シバコイヌさんは逃げる暇すらなく円盤上でひっくり返っていた。


「──っったぁああ……なんちゃって」


 しかし、そんな体勢からすぐに起き上がり、偉そうに脚を組んだ状態でペルテルさんを睨みつける。


「サラセニアは奪い奪われの文化を良しとしているから、取引きを無視する暗都の勇者様の行いを責める奴なんかいない。けど、それはここで生きる俺らだけのローカルルールだ。表ではお上に咎められる話でも、罪と決めつけるのは業の外。他の世界のルールを用いて文句を言うなんて油臭いよなぁ!」

「出た自戒」


 急な饒舌のシバコイヌさんに何かを察したのか、ろろあくとが二人へと歩み寄る。


「別ルートで行くRTAって判断でいいんすね?」

「ああ、久しぶりに、かっ飛ばそうぜロロ!」

「……脳筋だなぁ」


 一つ溜息を吐いたろろあくとは両手を広げ、左右に開拓テーブルを展開。直後、そこから光の筋が溢れ出し、周囲の瓦礫を包み出した。


「 復元ツールで何を……? ……──いや、あなたまさか、『当たりクジ』!? 」


「あ、知らない系で上層部やってたんすか。こぞって楽しんでるんすねぇ。じゃ、再度改めまして……」



 数多の瓦礫が宙を舞い、目を見張る速度で繋ぎ合わされていく。

 そして形成すそれは、六番船街と刻まれた、とても……とても大きな船──!



「──自分は『ろろあくと』。サラセニア三大秘宝の一つ『笹の舟』を建造できる権限を獲得した、ショタコンとか呼ばれているお姉さんでーすぅ(涙)」





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