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空気属性『ステルスチート』の進路  作者: 笹見 暮
本編第一部:秘都クレイト凶行
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第五十一月:転生者は前世の所持品をコンバート出来ますが、レベル等はリセットされる為被食側に追いやられるケースが多々あります。転生後は野良戦闘や雌雄決着から極力距離を置き、生存を最優先とした行動を文字数




「──てんせいしゃがり……? 転生者狩りって聞こえた!?」



 突然爆発した地面に加え、霧の向こう側──全ての方向から聞こえた男の大声に、僕は土まみれのまま目を丸くした。


「ホラ起きるぞキキ! それから貰った青い服着ろ! 言われた通り紛れるんだろ!?」

「えっ? あぁ、ぇえ!?」


 事態を飲み込むまでに十八秒くらいは欲しい。

 でも、急かすハウに従うべきである。


 頭を考えるシフトに置かず、とにかく青のクロークを羽織ってみせた。

 というか、島の至る所でなんだか青い光が立て続けに現れてるのはナニですか。


「──ハウ、あれは?」

「『的』。ちな俺らもな」


 『まと』って。俺らもなって。……も?

 青い光は数秒瞬いた後に消え、代わりに……人の影が。

 彼らは一様に青い上着を纏っていて、今の僕のような格好をしていた。それはつまりアレが、


「カゥバンクオルを狙う輩ってやつ?」

「や、そうとも限らねっと思うけど」


 ?

 このやり取りに飽きているのか、ハウの文言は取捨択一した故の曖昧なものに留まっている。見なくていい展開はそっちのけ。見るべき事変に活路ありって話ですかね。


 まだまだ事態が飲み込み切れていない僕に丁寧な解説を垂れ流さないのは、ハウが見出した正解ルートへ迅速に移りたいからだろう。それくらい僕だって察せられるさ。



 でないと──これからは、僕らも──……!


 ──的になるというのだから……──!



 霧の遥か向こうから爆発音が轟き始めた。

 それと微かにだけど、悲鳴のような声も!


「ハウ、獣衣装は!?」

「しない事にした。だってガンッッッガン狙われんだもん。あんなもん躱し切れるかって」

「じゃあ、何処へ向かえばいい!? 正解ルートは──?」



 僕の問いに、ハウは「四秒待ち」と答える。次の瞬間──!



 ──── ──────── ── ───────── ─



 けたたましい爆裂音が周囲から鳴り響いた!


 爆風が霧を巻き上げ、僕らをあらゆる方向から飲み込んでいく!



「あ゛……ぁ……あ゛あ゛──」



 耳が……!

 まさか一歩でも動いたら直撃だった?

 ハウが安置を見つけてなかった世界線での僕らは、今ので?



「はい四秒経ち。あっちだ、走れ!」

「あ゛! ──ぁ──! あ゛あ゛──!!」


 このだだっ広い草原はどこを向いてもほとんど景色が変わらない。だから、飛来してくる弾丸や大矢から身を隠せる場所なんて期待できない。

 それでもハウは、冷静に周囲の音を聞き分け、見えぬ目的地へと僕を導き続けた。







「──お疲れ様でぇーっす!」



 娯楽の範疇で煮え立つ殺気など、まるで感じ取れていないかのような明るい声を上げたのは、


「遅かったな……広報担当シバコイヌ!」

「 絶望の口軽…… 」



「……え? その謎の空気なんですか? あ、俺なんかやっちゃいました???」


 ザドとペルテルの怪訝そうな表情に対し、シバコイヌは陽キャ特有のおふざけオーラを遺憾無く発揮してみせた。


 数あるスタンド席には、監視区域とされる主催陣営指揮下の一帯がある。大小合わせ、計二十二ヶ所ある内の一つ、第一監視区域に、とある容疑者が顔を見せに来た事によって、なんとも涼しげな空気が漂い始めていた。

 ザドは彼を一瞬き程度の一瞥をしてから、すぐに島の方へと目を向け直す。

 反してペルテルは、ザドの背から降りるや一直線にシバコイヌへと歩み寄った。


「 まずは広報活動、お疲れ様でしたシバコイヌ。……ご覧の通り、今大会の参加者は予想を上回る数となり、次回の開催も見込める盛況振りをみせていましてよ 」


「いやいや、やっぱ皆様の名声ありきですよ。流石と言うか、恐れ入ると言うか」


「 こちらへの世辞は地雷を踏み抜きますが……。あなたが自爆する前に訊きますね。……どうやら一般参加者の間で主催側しか知らない情報が共有されているようでして。心当たりは? 」


「……あ、…………えーと」


 彼女に問われた彼は目線を泳がせる。

 暫しの逡巡を見せた後に、勢いよく両手を合わせて頭を下げた。



「申し訳ない!! 秘密情報なのは重々承知していたんですが、どうしてもッ、本当にどうしても参加して頂きたい方がおりまして!」



 致し方なく交渉材料にしてしまいました……と、赦しを乞う彼に、



「 ……まぁ、漏洩元が貴方であっても誰であっても、ペルはどうとも思わなくて……。けれど、それを機に情報が拡散したのなら、その人物の処遇も問わねばね……。その方、どこにいまして? 」



 あくまで職務の範疇として、ペルテルはわざとらしく合わされた彼の両手を、雑巾の如く捻じりながら更に問う。



「いたたたたたたたっ! それがなんですがねっ、あまり声を大にするわけにはいかず……少々お耳をお貸しください!」

「 ぇ……? ええ 」


 口では痛がって見せるものの、シバコイヌは一切腰を引かない。

 この妙……な態度に、ペルテルは少しだけ、不信感を過らせ顔を顰めた。しかし、仕事上の関係性……素直に応答しようとする姿勢も相まって拒む事も出来ぬ。

 結果的に、捻じった手はそのままにしつつ、顔を近づけた彼の言葉に渋々耳を傾けていた。



 その二人の様子……。



 ザドも微量の興味を抱かせた目を向けた時だった。



「おいおい今の奴見たか? リロード中に逃げろよな(笑)。銃声で即座に発砲位置を補足、遮蔽物を利用してのタイミング計った立ち回り。うずくまってて撃たれてる連中は馬鹿としか言いよう無いよな。でも流石に低レべに要求するのは酷か?(笑)」

「はっはっは、やめてやれよ。可哀想じゃんか(笑)」



 不自然な程、大きな声で笑い合う狩人の二人がザドの前を横切っていったのだ。これにより、少しだけ彼らへと視線を移したザドの仕草を見逃さなかったシバコイヌは、こう囁いた。



 『その方とは……貴女ですよ。暗都(くらと)パルジの勇者──ペルテル様♪』……と。



 彼女の耳にこびりついた煽り文句。

 同時に、それを拭い去ろうとするかのように、先程の狩人達が大声を上げた。


「おーい! お前らも下手くそかよ、ちゃんと狙えや!(笑)」


 途端、その場の空気がピリリと張りつめる。

 乱闘騒ぎが起こりえる事態。そう察したザドは、


「……何故、無駄に煽るのか……」


 今度は急に小競り合いを仕掛けた二人に呆れつつ、他の狩人達を宥めに向かった。

 完全に背を向けた獣族を見、厄介者が消えたと口端を吊り上げたシバコイヌが尚も楽しそうにだべる。



「あ、訂正しましょう。元勇者の……ですかね?」



 ──瞬間、ペルテルの黒い顔面に、白く大きな双眼が見開かれた。

 同時に、彼をいたぶる手に力が込められる。ところが、シバコイヌは痛がる素振りを微塵とも見せずに続けた。



「俺は勇者ペルテルの墓標がある場所を見つけました。その証拠に、暗都の勇者の遺品を見せましょう」


 言うや、一瞬にして彼女の力強い手を振りほどいた彼は、島に向けて開拓テーブルを開いた。そして描かれたのは、円──……何の変哲もない、ただの円。



 だが、その円が象りを始めると、空中にドス黒い球体が出現する。



「 『暗黒晶』……!? 」

「その通り♪ 暗都の原産物たる暗黒晶。しかもコレはぁ……勇者ペルテルのお供をしていた、暗黒晶の傀儡ですな!」


 ペルテルの瞠目が収まらぬ内に球体はみるみる形を変え、目を見張る内に少女の頭部らしき物体と成った時、周囲で飛翔するあらゆる物よりも速い速度で島へと飛び去って行った。



「 あ……! 」



「どうでしょう。かつて、暗都の勇者を象徴していた傀儡を、こうして思うがままに動かしているのは俺。……これはもう、このシバコイヌが新たな勇者と自称しても良い感じしませんか??」



「 …… 」



 おちゃらけた事を言う彼に、ペルテルは、軋む機械のように顔を向け直す。



「 あなた……ナニ? なにが目的? 」



「『ナニ』と聞かれましたらぁ……『熱狂的なペルテル推しをしてた事のある──……あんたのアンチ』だと答えましょうか」



 そんなのがいるなんて、今まで知らなかったでしょう? とシバコイヌは、



「目的は、暗都パルジの悪行……あなた方上層部のみ使用出来るとされる、『地帯変換チート』を、俺の為に使って頂く」



 取引ですよと、更に囁く。



「知ってます? さっきの傀儡。かの墓標に、ずっと寄り添っていたんです。感情でもあるんですかね(笑)」



「 …… 」

 


 馬鹿にするような態度。

 けど、ペルテルは逆に落ち着きを取り戻していく。

 顔の半分以上を占めていた白い眼を徐に閉じていき、やがて「 つまりは…… 」と、声を潜めて窺う。



「 ペルが求めているモノと引き換えに、『秘』を行ってほしい……と? 」



 シバコイヌは声無く笑う。

 それを、ペルテルはイエスと捉えた。



「 ……くそアンチ 」


「認知していただけて光栄です。……ま、どうせ貴女の事だから、秘都クレイトへの忠誠心なんか無いでしょ? どうします? 大切な勇者の墓標を……愛していた傀儡を、あんな風にアンチ如きに辱められたくないなら、今度は……優しく俺の手を握ってくれますか?」



「 ……っ 」



 ペルテルは、言葉を詰まらせた。

 閉じた目を薄く開き、目前でにやけるアンチを睨む。



 ……だけど、否と言う選択は最初から無いと応えるように、大きく声を張り上げた。



「 ザド! どこぞのイヌが、余計な物を転生原に放ったので、回収してきますね! 」


「あえ? なんだい、そりゃ?」


 ザドが無駄な騒ぎを起こした狩人連中を踏みつけながら振り向く。そんな相方に対し、彼女は制するように手のひらを向けて言い放つ。


「 ここ一帯の警備なら、あなただけでも大丈夫でしょ? 元々過剰だなと、思っておりまして……! 」

「……あぁ、そりゃあな。あ、いや、行くってったって、すぐにか? 狩りを中断させてからでも良いだろ。ちょいと時間かかるがの」


「 いえ…… 」


 ペルテルは島の方へと歩み出る。

 そして、急いだほうがよろしい案件ですのでと前置きし、笑顔を見せた。



「 お気遣いありがとう。……でもこのような弾雨ならば、前に一度経験しているので、問題ありませんの 」



 ──前に一度……。

 それを知る者に、己の実力を察してもらえるよう放った言葉。それ以上に、ザドを動かさないでおく文言は無かった。


「……あ……そうよな」


 ペルテルの端的な言葉を受け、彼女に対し前のめりだった上半身を、ザドはゆっくりと戻す。円滑に理解を示した彼に、ペルテルは笑顔のまま頷いた。そして、開拓テーブルを用いて浮遊石を使った円盤を作り出した。


「 さあ、一緒に来なさい厄介者。変な事をした責任は取ってもらいましてよ 」


「いやぁ、てっきり俺も参加していいのかなって思ってて! 余計な事をしてすいません!!」


「 ……白々しい…… 」


 ペルテルが勇者もどきの手を、壊れない程度の力加減で引く。

 そうして円盤に乗った両者は、傀儡が向かった霧の向こうへ……ザドが見据える中、徐々に姿を暗ませて行った。




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