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空気属性『ステルスチート』の進路  作者: 笹見 暮
本編第一部:秘都クレイト凶行
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第五十月:良イベント ~とどのつまり『リスポーン・キル』~




 秘都クレイトなる宮地は、湖面から覗いた時に感じた印象よりも、遥かにスケールの大きな場所なんだと思い知らされる。



「──島が……降りてくる……?」



 無秩序を極めたような造形物が犇めく通りを抜けた先は一変して機能的、法則めいた作りの会場らしき場所となっていた。


 むしろ、闘技場とでも表現しようか。僕たちが今いるのが、その広場の外周にある遊歩道。そして、その区画に囲まれた広大な『窪み』に向かって、半円状のスタンド席らしき設備が幾重にもなって無数に並んでいる。コピペ建築かと思


 でだ。まるで、それらが迎えているような形で、どう見ても『島』なる巨大物がゆっくりと中央の窪みへと降下していく……。このあまりにスケールの大きな光景を目の当たりにした瞬間から、僕の足は竦んだように動かなかった。


「あの、シバ……勇者さん! あれってなに、どういう、なにごと??」

「なにって、アレが舞台だよ」


 舞台……?


「ってことは、あの島に囚われのカゥバンクオルがいるって話ですか」


 訊きつつスタンド席を見やれば、時が経てば経つほど席に腰を落ち着かす人が増えていく……のだが、それがなんとまあ物々しいコト。

 続々と集まる人という人。各々が携えた武器は派手にカスタマイズされてそうなものであったり、シンプルで一途に使い込まれている印象のものまで様々。ただ、妙に共通しているのが……どれもが飛び道具として使われる武器だって所。

 ──見てわかるもので言えば、



(弓や銃器……ゴッツいデザインばっか)



 などのスタンダードな物から、



(向こうのスタンドに見えるヤツって…… 据え置き式大型弩砲バリスタ??)



 なんて大きな物まで持ち込まれている。剣とか棒とか槍など、近接タイプの武器を持っている人の姿は殆どみられなかった。



(……へぇぇ……)

 そこから考えられるのは、あの島にいるカゥバンクオルを狙う輩共を成敗するお正義が行われるとか。そして、僕が紛れるのは、そのお正義連中の中。シバコイヌさんがカゥバンクオルの救助に走る最中、驚異の矢の妨げになる事が僕に与えられる任務なのではないか。


 そう予想する僕に、彼が言う。


「んまぁ、答えを焦んなボーイ。……もうちょっとだよ」


 ……まるであしらう様に、この人は白い靄で覆われた島を眺めていた。

 僕もそれに倣い見上げるが、特に面白みが薄い島に興味が続くわけもない。それよりもと、僕はさっき渡された安っぽいクロークを見下ろした。


(紛れるだけでいいイベント……イベントか……)


 ここまできておいてイベント内容を……僕がこれからするべき事をはっきり伝えてこないのは、どういう意図なんだろう。僕の予想は合っているのか、間違っているのかさえ分からない。

 ……むしろ、分からない状態で挑めと? 下手な作戦を組むより、自然体でいた方が怪しまれないだろうみたいな? 釣り針に着ける餌にこれからこうこうこうして魚に食らいつかれてくれと説明する釣り人もおるまい。紛れればいいだけという話も、それを裏付けるような簡潔さを窺える。


 ……にしても、このクロークの意味は……? 着る以外に使い道はあるのか……?


 と、それを考えようとした時に「ほら、お出ましだぞ」と、勇者様が近くのスタンド席に小さく指を差した。

 コソっと目を促された先にいた人物を見た途端、頭がサァっと冷たくなるのを感じ──。


「──今回は、少ぉし人が多いか? 広報頑張りすぎたんけ」

「 まぁ……ご時世がご時世でありまして。そちらの方にも要因があるかと 」

 

 街道で見た狼男とケンタウロスを組み合わせたような四つ足の獣族の男と、いいとこのご令嬢のようなお召し物を纏った亜種の女だ……。


(ペルテルさん……だっけ?)


 獣族の方は覚えてないけど、確か女の人はそんな名前だったはず。

 獣族の男の背に乗っているペルテルさんも周囲の者共と同様、自身の背丈よりも大きな弓を携えていた。

 とくれば、その後にはあの重課金者みたいな服装の男も登場してくる。そう思って周りを警戒してみたものの……いない。一緒ではないのか?


「……ふぅ……」


 後ろから吐息を掛けられる気配は無し。それならそれでいいんだけど……。


「溜息つくほど肝を冷やしたか? わかるぜ、その気持ち」


 あの二人は秘都の上層官の日雇い護衛をしている兵なのだと、勇者さんは言いながら僕を引き寄せるように肩に腕を乗せてきた。


「ここに来たってことは、彼らもイベント参加者ですか?」

「あー。むしろ主催側……ってか、あの二人に限っては『ストッパー』と言った役どころじゃないかな」


 ストッパー?


「何といっても、今日のイベントは常識の範囲内で楽しむ良客が主なんだが……中にはホラ、やり過ぎる輩もいるからよ。それを取り締まる役目を担ってるのが、アイツらってわけ」

「監督官みたいな?」

「むしろ私服警察だな」


 どちらも基本的に悪い人物ではないから、穿った目で見んなよ。と、勇者さんはニッと笑った。


 人目の多かった街道で白昼堂々人の背を射る女と、その怪我を負った人を足蹴にする獣など、平穏脳死プレイを満喫する一般ユーザーとは思えない。だが、それでも悪い人ではないのか。そういうものなのか……?


「はあ。……じゃあ、そう思っておきます」

「ああ。使いようによっては、味方にもなってくれるはずなんだけぇ──」


 勇者さんの話の途中、突然会場全体が大きく揺れた。

 どうやら降りてきていた島が、直下にあるクレーター状の設備に収まった際の衝撃のよう。僕はその様子を視認しつつ、倒れまいと近くの柵に掴まろうと手を伸ばした。

 ところが──?



「お話はここまでな。始めよう」



 僕の手が掴んだのは柵ではなく『黒い何か』。

 その黒い物は墨を溢したように瞬く間に視界を埋め、更には


「ちょっ! シバコさ──!?」


 

 口すら塞いできた事で、僕は咄嗟に勇者さんを向く。

 するとどうだ。その黒いのは、彼の全身から溢れ出しているではないか……!?

 突然の光景に僕の全身からはハテナの花が咲くが、これは誰にも見えんだろう!


「だぁれがシバコさんか。向こうに行ったら立ち回りは、……『奴』に聞・け!」


 『け』の瞬間、シバコイヌさんの姿が完全に黒く覆われてしまっ──……。



 ……いや、彼だけではなく、周りの景色、人──喧噪も掻き消え……て、急に黒が体から解けるように無くなると、目の前は、灰色の霧に包まれた……草原になってい……た……?



「え。……あ?」



 なにこれ。

 わけがわからず、小さく揺れる地面に抗う事も叶わず、僕は当然のように尻もちをついた。



「……はぇ……?」



 我ながら情けない声が出る。


 咄嗟の事で状況判断に自信が持てないけど……キサクラがやっていた事と同じ現象? 歯輪? 瞬間移動? ……どこに?


 いや、どこにって言うか……この霧……光景からして、さっきまで見ていた島なんじゃ……。


「騒音に紛れての作戦開始ってコトみたいよ?」

「あ、ハウ。……ん、でもさ、作戦開始ったって……ぇ」


 なんだか呑み込みの早い「あ、察し……」的なハウの様子に、僕は少々項垂れた。


「もしかしてさぁ、これから忙しない状況になるの? ハウ、何回やり直してる?」

「んー……。まあ、数えるのやめたぁーってくらいさな。これで最後にしちぃよ」


 とか言いながら、ハウは僕の髪の毛を導きたいらしい方向へと引っ張っていた。

 果たして、そちらには一体何がありますのやら。囚われのカゥバンクオルとやらがいる場所への直通路だったら嬉しい……が、とりあえず僕は数歩歩いたものの、友人の力み具合に関して物申したくて立ち止まった。


「痛ぁ。ちょいハウさん、強く引っ張りすぎじゃないですkkkk────」







 ──霧に包まれた島で爆裂音が轟いた。

 どよめきが沸き立つ中、あるスタンド席にいた黒装束の男が苦惜しい口調で言う。



 『 躱された……いや、届かなかったのか 』……と。



 その男が持つ砲撃型武器の特定箇所から一度、強めに蒸気が噴出された。そして男は再び武器の照準を島に向けた。

 突然の蛮行に続きこの様子を受け、亜種ペルテルが動く。



「 狩人殿。これより、主催者のご挨拶が御座います。お戯れは後程、皆様と一緒にいたしましょう 」


 言葉だけ聞けば冷淡で、婉然たる佇まいを以て言解す様と思わせる。が、実際は男の背後を巣食う様に黒く染め上げ、彼女の姿はその黒より生える牙を模すが如く男を捕えていた。

 

 拒めば鋭端な指先が体を抉る。そのような圧を与えられた男だが、


「一緒にとか、馬鹿言えよ。今回は神具をコンバートした転生者がいるんだろ? なぁら、早い者勝ちじゃねーか」

「 ……その情報……どこで……? いえ、ですから尚の事、我々は、獲物の獲得権は全ての参加者にあると申し上げましょう。故の催し……。秩序は守られるに越したことはありません 」


 ご協力を願えますか? と、乞われても、なかなかに武器を置こうとはしない。だが、引き金を引く──そこまでは踏み切れなかった。なぜなら、その射線上に四つ足の獣族ザドが立ちはだかっていたからだ。


「まぁーったく、あの広報は余計な情報まで流しおってよ。発表とどよめきを楽しみにしていた童心を返してほしいぜな」

「 同意。でしたら、あのイヌ……後で捕まえて絞り上げておきましょうね……ですが、その前に 」


 ペルテルは狩人に、この獣に矛先を向けるのは危険でございまして……と囁き、やんわりと武器に手を添えて下ろさせた。


「──……了解りょーかい。ならもう舞台は降りて、準備は出来たんだろ? さっさとゲームを始めてくれや」


 他の皆も今か今かと目をギラつかせて待っているんだぞと、狩人が煽り立てる。それに呼応するように、各個、武器を鳴らす。


「おう勿論始めんが……公式のイベントでは始まりの挨拶をするのがマナーってなもんさ。──おい! いいぞ!」


 ザドが大きく声を張り上げると、突如スタンド席の上空に二等辺三角形が出現した。その図形は白と黒の幾何学模様、大きさは大の大人数十人分はあるだろう。

 そして、それは次に、ここにはいないある男の声を発した。



【 ──ようこそ狩人の諸君 】



 皆が空中に浮かぶ馴染み深い物体を仰ぐ中、男の声は全てのスタンド席へと届けられる。



【 本日のイベントは、この僕様──若みどり主催の狩猟大会となる。ルールは知っての通り至って簡単。島外から狙撃のみで標的を仕留め、獲物が有する品をゲットして楽しむだけ。景品管理に抜かりは無いからご安心を──♪ 】



 諍い事が起これば、その都度ペナルティーを課す……そう続けた言の後、突然島のいたる場所で、小さな青い光が次々と生まれ始めた!

 それらと同時に若みどりの声は、最後に一際明るく響かせる!



【 それでは、これより始めよう! 誰が一番の宝を掘り当てられるかを競う良イベント! ──さあ、『転生者狩り』の幕開けだ!! 】




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